第21話 力士開戦。

「そっちも終わった?じゃあ、やるぞ~」


 そう言って啓介は自身のスマホを両助の机の中心に置く。

 現在、両助、啓介、淳也、玲さんで両助の机を囲んでいる状態だ。

 啓介は玲さんのスマホとマッチングを開始する。

 そうして通信によって繋がった二台のスマホ画面にお互いの力士が映る。


「何だこれ?」


 両助は思わず、声を上げた。自身の力士にではない。相手の力士の恰好があまりにも相撲に似つかわしくないため声を上げたのだ。

 そこには確かに啓介達の力士が立っていた。

 確かに廻しを履いている。だが体つきがあまりにも貧相だったのだ。


 まともに食事をしていないのか体躯はやせ細り、頬もこけている。腕ももう骨だけなのではないかと思えた。

 目からも感情が読み取れない。虚空を見つめてただ無言で立ち尽くしている。


「え?お前ら何したの?」


 あんまりにも理解できないものだから直接聞いた。

 一体何をすればこんな体つきになるのか…。

 すると啓介が何事もないとばかりに回答した。


「永遠と四股踏ませた」

「いや、他の練習もやらせてやれよ…」


 こちらの力士よりかはマシではあるが、あっちもあっちで相当だ。

 そのツッコミに啓介は「いや…」と淳也を見る。

 すると淳也が何でもないように答えた。


「一つを極めさせたら強いかなって…」

「四股極めさせてどうやって戦うんだよ…」


 その考えは淳也が出したものだったらしい。ストイックすぎるだろ。

 つまりこのひょろがり力士は期間中、熱い夏の日も、寒い冬の日も、四股に明け暮れていたらしい。もはや変態だ。


 一番の問題はその考えに納得できてしまったことだ。そう考えたあたり、自分も染まっているのだと思う。

 その練習内容に玲さんが一笑に付す。テンションが有頂天に上った彼女にとっては、その育成法はとても滑稽だったらしい。


「はっ!遊びに走ったね、啓介!悪いが、体幹は死にステだ!使えやしない!これは僕達二人の勝ちのようだね!」


 正直両助は勝ち負けなどどうでも良くなっていた。なぜなら彼の中では玲に対する好きでひたすらに埋め尽くされていた。

 髪をかき上げて、自信満々に勝利宣言をするその挙動、かっこいい動作にもかかわらず美しさを感じられるのはもはや芸術だと思った。


「じゃあ、始めるよ~」


 間の抜けた声で淳也がスタートボタンに指を構える。

 それを見た玲さんもスタートボタンに指を構えた。


「ああ、かかってこい!」


 淳也と玲がスタートを同時に押す。

 そうして試合は開始された。

 1Pが俺達の育てた力士、2Pが啓介達の育てた力士だ。


 戦いの火蓋は切って落とされた。

 両者が土俵で相対する。

 相撲を題材にしているゲームッだけあって、なかなかに本格的だ。


 まず力士同士のグラフィックはもちろん、そのモーション一つ一つが非常に細かかった。カクツキがないというか、滑らかというか。すごく人間らしい。

 動作にもこだわりが感じられる。水を飲んで吐き出す動作、塩を捲く動作、足を叩いた時の脂肪の揺れ、音の響きは結構レベルが高かった。


「いや、そこにこだわるならもっと別のとこに注力してよ……」

「頑張ってくれ……」


 先程までの力士の惨状を知っている両助は切実に願うが、真横にいる玲さんは勝ち負けにのみこだわっている。

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