第14話 狼ではなく、やっぱり子豚でしたとさ。

 教室のど真ん中で土下座させられて数分が経過した後に、あの後の出来事を聞く。


「で?どうだった?足立さんに言えた?」

「言えるわけねえだろクソボケ」

「じゃあ、進藤はどうだ?あいつが憎いんだろ?」


 進藤の名前を出した途端、顔色が変わった。次の瞬間、啓介は両手を床につけて項垂れる。


「もう無理あいつには勝てん…」

「えー」


 一体何があったんだ?啓介がここまでなるとは。

 何をどう力の差を見せつければこうなるのだ?

 どことなく彼の目から光が消えているような気もしたと思える。

 ここまで再起不能になったのだ。やはり進藤は一筋縄ではいかない。


「あいつイケメンだよな?」


 それは男から見た俺でもそう思うので「そうだな」と頷く。


「あいつ心までイケメンなんだ」


 話を聞いたところ、進藤は押し黙った啓介を気遣いつつ食事をして、部活のことや教室の事で彼をほめそやしたらしい。

 そうして手のひらの上で転がされ、気持ちよくされた啓介はおめおめ(ランラン気分)で教室に帰ってきたらしい。


「いや、それ進藤がすごいんじゃなくてお前がチョロいだけでは?」


 そう言ったが、啓介は首を左右に振る。

 なんでも話の流し方と空気の読み方、人間関係の支配力、場の保たせ方が段違いだったらしい。

 まあ要はコミュニケーション能力おばけだと。

 顔だけではなかったと言いう事か……いや、あの顔だからそういう場面が増えて鍛えられたのか?

 それならば勝って然るべきというか……。


 なんの経験もなしに初手で勝てるなど、そんなぬるい戦があるはずがない。

 逆に勝ててしまえば、経験者は立つ瀬がないだろう。むしろ自身がそこに至った場合のことを考えれば、負けてよかったとさえ思える。


 そんな事を考えているうちに授業が再開される。

 数学担当の沢野先生が教室へと来て開始を知らせた。


 その後は恙なく残りの授業を受けた両助。

 食事の満腹感による眠気に耐えながらも、気を強く持って授業を過ごした。

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