フルーツポンチ

「んーと、親父の代わり。なんか居場所なくしたら拾ってくれて(半分嘘)」


「おや、まぁ。『また・・、追い出されたんですか。それはかわいそうに。青年くんは収入は不定期ですからね。アトリエが手に入ったと喜んでいたのに残念。なんならボクのキッチンをアトリエに使っても良いですよ」


「あぁー料理とはちょっと違うかな。っか、オレが料理作ったら毒でしょ」


「そうですね。青年くんの作品は個性的かつ残酷ですから。それぐらい分かってますよ」


 突然会話が始まり、楽しげに話す狂と取り残される剣崎。話が一段落し、狂はチラッとカニバルに剣崎に話しかけるよう視線を送る。それに気づいたか、カニバルは剣崎に目を向け微笑む。一歩踏み出すとソッと剣崎の耳元に口を近づけ言う。


「話しは聞いてますよ。刑事さん、青年くんを捕まえるどころか互いに刺激し合ってるらしいじゃないですか。(小指を立て)これですか?」


「(素早く)違う。刑事と聞いて嫌じゃないのか」


「嫌ですよ。でも、アナタから感じる匂いはとても心地が良い。消そうと女性用のシャンプーなどを使ってるそうですが……誤魔化しきれてませんよ」


 その言葉に剣崎は目を丸め苦笑。


「なんのことやら」


「なるほど、否定型なんですねぇ。別に良いですけど見た目ボクより年下くんみたいなので言っておきます。殺しって最高ですよね?」


 カニバルの冷酷な笑みに剣崎は、辞めてくれ、今は仕事モードなんだ、と目を逸らす。その言葉に、それは失礼しました。モードがあるんですね、と謝るとパンッと手を叩く。


「さぁ、昼食にしましょう。知り合いの農家・・の方からお野菜頂いたので今日のメニューは野菜たっぷり醤油バターパスタです。パンとスープもありますので良かったらご一緒に」


 そう言われ店内に足を運ぶとヴィンテージのような味のある白い壁に茶色の木目引き立つ床。テーブルは丸いシンプルなモノで空間を邪魔しないように色は控えめ。各テーブルには花瓶と一輪のバラが添えられ、三人は丸いテーブルに三角を描くよう腰かけた。

 来る時間を計算していたのか。料理は出来立てホヤホヤで醤油バターの美味しそうな香りと湯気。パンは手作りフォカッチャ、スープはあっさりとした野菜スープ。料理の左右に上品に置かれたナフキンとフォークとナイフ。レストランとはいえ、少しリッチな配置に狂と剣崎は、堅苦しいな、と見つめる。


「デザートもありますからね。それは、お楽しみと言うことで」


 カニバルは悪戯っぽく笑うと、食べましょうか、と手を合わせフォークとナイフを手に取った。

 スープは野菜の味を楽しむようコンソメ味で具材は刻んだにんじん、ジャガイモ、キャベツ、ベーコン・・・・。パスタはトマト、ナス、ズッキーニと夏野菜が目立つが醤油バターとこってりしつつも野菜の味は殺していない。

 テーブルマナーが苦手な狂はカチャカチャと音を発て、剣崎は物静かに料理を丁寧に口に運ぶ。


「カニバル、今日は真面目な料理なんだね」


 リスのように頬を膨らませながら、狂がカニバルに話しかける。


「えぇ、青年くんが連絡してくれたときに、変だなぁ、と思ったので今回は大真面目に作りました。初対面で”いつもの”作ったら嫌われそうですし。ボクはこう見えて臨機応変。頭良いですから」


 フフッと狂を小馬鹿にしているが本人は気にしてなく、パンを手に取るや食べ終わったパスタのソースに付けるのではなく、スープに染み込ませパクリ。少し固くほんのり甘いフォカッチャ。中はクルミ入りで狂はそれが好きなのか。んフフ、と嬉しそうに笑う。


「で、刑事さん。何か探しに来たのでは?」


 二人より先に食べ終え、膝に敷いていたナフキンで丁寧に口を拭うカニバル。パスタソースを一滴残らず、綺麗に付けている剣崎に話を切り出すや知っているような顔。


 間が空く――。


 一呼吸置き言う。


「部下を捜してる」


「ほぉ、部下さんですか。どんな方ですか?」


「去年配属になった新人だ。教育担当ではないがそれなりに可愛がいあるのある奴でな。男ばかりの部署に女一人。妹みたいな感じか」


 ワイングラスに入った高級そうな水を剣崎は一口口にするとカニバルは無言で席を立つ。

 食べ終えた皿を片付け、新たにフォークとナイフを丁寧に置くや大きな丸いボールをテーブルの中心へ。


「私が殺したのではありませんが……女性の血が大好きな吸血鬼さん・・・・・が目を付けたんでしょう。あいにくがなかったものですからフルーツ缶を入れました。本来であれば“血”が良かったのですが」


“デザート”と置かれた丸いボールには、キウイ、みかん、リンゴ、イチゴ、白玉、ゼリーと可愛く入っているがお玉で掬うと――目玉、指、細かく千切った臓器と不快なものが出てくる。

 狂は「うわぉー」とカニバルの料理を知っているからこそ手を叩き喜ぶも、剣崎は顔を青く染め「悪いがトイレは……」と席を外すと苦しげな声が遠くから聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る