私たちの日常

花里 悠太

帰り道

私は追われている。


時刻は22時過ぎで辺りは暗い。

電車を降りて駅から家に向かう途中だ。


先ほどからやたら視線を感じるんだ。

建物の影や、道の曲がり角。

こっそりと隠れるように人がいる気がしていた。


考えすぎかと思って、いつもの道ではなく少し遠回りをしてみたり、少しコンビニで時間を潰してみたり。

色々やってみているのだが、視線は振り払えない。

幻覚でも見えているのかと自問するが、まだ正気は保てていると思っている。


視線を感じるのは初めてではない。

しかし、最近視線を感じるのが増えてきている気がする。

知らない人に見られている、というのはいい気持ちがしない。


私の日常生活を見てどうするつもりなんだろうか。

何かされるんだろうか。

とても不安だ。

最寄駅から家までの道のりには物陰も多く、追ってくる奴がいつ行動を起こしてくるか不安でしかたない。

人並みに運動できるとはいえ、別段飛び抜けた身体能力を持ち合わせていない女の身。

悔しいが、屈強な男に襲われて捕まってしまえばどうなるかわからない。


……いや、わからないこともないか。

終わりだろう。

日常がなくなってしまうことは疑いようがなかった。


なんとか逃げ切らないと。

とりあえず、家に入ってしまえば大丈夫だろう。

彼がいるはずだ。

そこまでたどり着けばきっと大丈夫。

追いかけてくる奴が何をしたくても、家につければ大丈夫。


本当に大丈夫かはわからないが信じることしかできない。

ただ、彼のいるリビングが恋しい。

暗闇の中、誰とも知らない相手に追いかけ回されるのは本当に怖い。


とりあえず、なるべく人通りが多いところを通ってなんとか逃げ切ろう。

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