三十六話 楽々と沙羅の実家 二泊三日の旅

「それではご搭乗の時間です、A、B、Cのエリアのチケットをお持ちの方からどうぞー」


 添乗員さんのアナウンスが流れると同時に、大勢の人が移動する。

 空港の入口、俺と楽々と沙羅は、大きなスーツケースを転がしていた。


 VTuberの賞品でゲットしたチケットで、二人の故郷とも呼べる場所に帰省する。

 二泊三日で、更には育ての親に俺を紹介してくれるらしい。


「やっぱり思うけど、俺が行っていいのかな?」


 都会に戻ったら、見知らぬ男を連れて戻ってくる。これって歓迎されるだろうか?

 不安げに訊ねると、楽々と沙羅はむしろ怒った表情を浮かべていた。


「当たり前じゃん、というか心配しすぎだよ? おじさんもおばさんも怖い人じゃないし、絶対喜んでくれるよ」

「そうですね、私たちと仲良くさせてもらっているというのは伝えていますし、写真も送っているので」

「写真って?」

「3人で遊んだりしている写真です」


 写真か……。俺がもし楽々と沙羅みたいな娘がいたら、男なんて連れてきたらすぐに追い返しそうだ。

 いや、そこまでハッキリとは言えないだろうが、心の中では「ふざけるなああ」と叫びそう。


 しかし二人がそこまでいうのなら大丈夫だろう。

 案外歓迎される? いや、むしろ是非お婿さんに? なんて。


「律、なんかいつもより鼻の下伸びてない?」

「もしかして、えっちなこと考えてました?」

「いや、全然!? 何も考えてないよ!?」


 ふーん、と疑いの目で溜息を吐かれる。


 しかし考え方によっては旅行だ。気軽に楽しもう。

 都会の喧騒にも疲れたので、田舎でゆっくりできるのは楽しみだ。


 ◇


「帰れ!」


 ……ええ……話が違うんだけど……


「いいから帰れ!」


 扉を開けた瞬間、仁王立ちで立っていたのは二人の育ての親である、相崎三郎あいざきさぶろうさんだ。

 古風な出で立ちで、和装を着込んでいる。彫の深い目に、武骨な表情、家も昔ながらの和を基調とした一軒家である。


 そして俺はそんな叔父さんに、出会い頭にもかかわらず怒られていた。


 やっぱりじゃないかああああああああ。


「律、上がっていいよー」

「はい、律くんスリッパいりますか?」


 あれ? 二人とも、叔父さんのこと見えてますよね?


「え、ええ!?」


 戸惑っていると、沙羅と楽々の叔母さんが階段を下りてきた。

 名前は相崎咲あいざきさき、年齢はわからないが、温和で綺麗な人だ。


「どうぞ、主人のことは気にせず上がってください」

「え、ええと……だ、大丈夫なんですか?」


 三郎さんは「ふん」と鼻を鳴らして奥の部屋へ消えていく。

 もの凄く居心地が悪いが、咲さん、楽々、沙羅にとっては見慣れた光景らしく、気にしていない。


「怒ってるんじゃなくて、妬いてるだけなんですよ。あの人、楽々ちゃんと沙羅ちゃんのことが大好きなので」

「そうなんですか……」


 そうは見えなかった。なんというか、玄関に刀が置いてあるのだが、それで切り殺されそうな勢いだった。


「律くん大丈夫ですよ。ちゃんと来ることは伝えてましたしね」

「そうそう、ああ見えて優しいから。んーっ! やっぱり家の匂いはいいなあ。木の匂い最高!」


 リラックスしている二人が、奥の部屋に入って行く。俺はとても落ち着けそうにない。

 しかしここまで来て帰ることはできない。お邪魔しまーすとことわって足を踏み入れるが、奥の部屋から「誰が許可した!」と叫び声が聞こえた。


 ……帰ってもいいですか!?


 そのとき、壁に写真が飾られていることに気づく。

 幼いころの楽々と沙羅――そして両親だと思える二人が写っている。


 俺の視線に気づいた咲さんが言う。


「楽々ちゃんと沙羅ちゃん、とっても笑顔でしょう。二人のお父さんもお母さんも、娘のことが大好きだったわ」

「たしかに、それが伝わりますね」


 そしてその後ろ、見覚えがある小さな男の子が写っていた。いやこれは……俺だ。


「律さん、あなただと思うわ。二人がいつも言っていたもの」

「全然記憶にないですね……」


 そういえば……なんとなくうっすら記憶がある。

 写真を撮影する際に、俺も入ってほしいと言われたのだ。恥ずかしくて、もじもじしていて隠れていた。


「だから私たちは昔から律さんのこと知ってるんですよ。むしろ、二人から引き離してしまって、ごめんなさいね」

「いえ、そんな……気にしないでください」

「ふふふ。どうぞ、お気になさらず奥の部屋に。お茶を入れますわ」

「はい、お邪魔します」


 歓迎ムード、ではないだろうが、入ってもいい、そんな気がした。


 通路を渡って奥の部屋に入ると、むすっと座っている三郎さんがいた。

 楽々と沙羅はすっかり自宅モードで、畳の上で寝ころんでいる。

 気兼ねなくだらけている沙羅は本当にめずらしい。気を遣わないでいられる場所なのだろう。


 咲さんの案内通り、俺は三郎さんの向かい側に座る。


「ありがとうございます。その……すいません、突然押しかけてしまって」

「ふん、突然ではない。ちゃんと聞いておる」


「もー! どうしてそんな律に当たるのー? 怖がってるじゃん!」

「そうですね。さすがに可哀想ですよ」


 さすがに見かねたのか、二人が割と真剣な顔で三郎さんに注意した。

 俺としては仲良くしたいのだが……孫娘というべきか、娘というべきか、男を連れてきたのなら気持ちは複雑だろう。


「律よ、ならば答えよ」

「……えっと、何をですか?」


 突然、真剣な表情で問いかけてくる。眼光が鋭い。


 固唾を飲んで待っていると、ゆっくりと口を開く。


「沙羅と楽々、どっちと結婚するつもりじゃ?」

「……え? ど、どういうことでしょうか?」

「そのつもりで来たんだろう?」

「え、いや……その、友人として遊びに来ただけなんですが」


 すると三郎さんは、一気に砕けた表情で首を傾げる。


「……あれ? 違うのか? 友人なのか?」

「はい、仲良くはさせてもらっていますが、そうです」


 どういうことだ? という顔をしている。その後ろで咲さんが笑い出す。

 それも大声で。


「うふふふ、うふふふ、冗談ですよお父さん、真に受けちゃって可愛いわねえ」

「やっぱり咲さんが何か言ったんだ。そんな事だろうと思ったー」

「冗談はだめですよ。叔父さんすぐに信じますし」

「ごめんなさい、つい面白くて。結婚の挨拶なので、しっかりしてくださいねって言っちゃった」


 三人は笑みを浮かべながら、楽しそうにしていた。どうやら三郎さんは騙されてしまったらしい。

 再び視線を戻すと、随分と砕けた表情で、「ご、ごほん!」とせき込んだ。


「す、すまんな律君、歓迎するよ」

「あ、はい……よろしくお願いします」


 手を差し伸べられ、俺はゆっくりと掴む。その後、小声で言う。


「す、すまんのう……いつも咲に揶揄われるのじゃよ……」

「あ、いえ……僕もよく二人に揶揄われるので……」


 どうやら三郎さんは、咲さんに手玉を取られているみたいだ。


「ふふふ、どうぞお茶です。二日間よろしくね、律さん」

「はい、宜しくお願いします」

「あ、でも本当に結婚の話なら、いつでも聞きますからね」


 悪だくみかのように笑う咲さん。美人だが、意外に小悪魔的だ。


 楽々と沙羅曰く、私たちを足して、さらにユーモアを足すと咲さんになる、らしい。

 なるほど、あながち間違いではないかもしれない。


「うふふ、賑やかで嬉しいわあ」


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『咲さん美人だけどこわい!?』

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