第6話



 俺は子供用のブレザーに身を包み、ぴっしりとした格好で新幹線と言う馬の引かない電気で動く車に乗った。

 子供の洋服など半年もしない内に着れなくなると言うのに、シッカリとした一着で最新のゲーム機数体分の値段を見た時は流石に驚いた。


 揺られる事数時間。俺が生きていた当時朝廷の影響範囲ギリギリであった東国……へ着いていた。

 父のスーツは少しくたびれたものではあるが、シッカリとした繕いであり間違いなく高級品と言って差し支えないように思う。 

 母のドレスも艶やかであり、この時代のいわゆる上流階級と言った井出達ではあるが……張り子の虎であることは言うまでもない。


「はーちゃん。言うまでもないけど大人しくしててね。ご当主様や他の子たちに悪い事はしちゃダメよ?」


と母が優しい声音で諭すように話す。


「わかった!」


俺はわざとらしいぐらいに大きな声で、返事をして母に抱き着いて見せる。


「なんで七歳で集まるの?」


「神さまの子供が七歳までだからだ」


 なるほど七五三になぞらえてあるという事か……と春明は納得したがそれは事実ではない。陰陽師とはいえど収入には大きな格差があり、使用する道具も消耗品が多い上に馬鹿みたいに高価なものが多く、皆あまり子供にお金をかけられないと言う実情があり、入学式で衣装を使いまわせるから七歳なのだと言うのは大人のプライドもあって言えないのだ。


モノレールに乗るとホテルの目の前に駅があった。ホテルのロビーに着くと達筆な筆文字で「倉橋家主催 陰陽懇親会」と書かれている。

 少なくとも陰陽師は一般に認識されていないハズなのだがこんなに堂々と会を開いてよいのだろうか?


「倉橋家とは何ですか?」


俺の質問に父が答えた。


「倉橋家は祖。安倍晴明様の子孫である我ら土御門家の遠い親戚にあたる家で、現在では土御門よりもよほど名のある家で、この国では五本指に入る陰陽の名家だ」


 なるほど分家とすれば本家に従うのが筋のハズだが……恐らくは同じ姓を名乗る事を禁じられたか、何かしらの理由でしなかった家系なのだろう。


「なるほど遠い親戚ですか……」


「で、でもね百年以上も前に分かれたお家だから他人に近いのよ」


 ――――と母が解説を挟む。

 なるほど俺が無礼を働くと思っているのだろう……確かに分家風情に仮にも本家筋のかばねである。土御門を名乗る俺がへいこらするのは気に食わないだが、それが通らぬ時代である事はドラマや漫画などを通じて理解している。


「別の苗字を名乗っている時点でそんな無礼な真似はしません」


と言うと両親は安心したような表情を浮かべた。


「ならば安心だな」


と言って二人ともカラカラと笑っている。



 エレベーターに乗って会場のあるフロアまで登っていく。ドアが開いた瞬間周囲の視線が注がれた。

 ドア付近に立つ男女が一様に俺を視てくる。霊力を目に集中させて俺の霊力を暴こうとしてくるのだ。

 エレベーターホールから数メートルでパーティーの受付に、辿り付けるのに術者達の威圧感は凄まじい。


 父もそれに気が付いているのか「何でもない」と言った態度を崩すことは無い。

 俺も普段通りに振る舞う事にする。


 広いエントランススペースの奥に細身で長身の女が、壁に腰を預けているのが見える。一人だけ纏う雰囲気さえも異質な女性は周囲に擬態するように巧く気配を消している。


 優れた隠形だな。

どれ一つ遊んでみようか……


「パパあの人可笑しいよ?」そう言って俺は彼女を指さした。


「どれ?」そう言って父は瞳に霊力を込める。霊や式の類ではないかを確認するために見鬼けんきを強化したのだ。


「何にもいないよ?」


「貸して」そう言って俺は強引に父の呪符を奪い。木気を込めて呪符を飛ばす。


「縛れ! 救急如律令」


七歳児とは思えない動作を見て周囲の大人の視線が集まる。


刹那。


「金克木! 救急如律令」


 女性は呪符を使い金気を生じさせ、刀印を組んだ右手に金気を集中させ刃見なすと、俺が生じさせた木気をその手刀で切断してみせる。


 姿を消すのではく、誤魔化し気配を周囲に紛れさせ一体化すると言う高いレベルでの隠形を使う上に、火気に変質させるのではなく金気で切り裂く判断を即座にとれ、なおかつ背中に背負った刀を出さなかっただけでも、この場にいる陰陽師の中でも指折りの実力者であることは先ず間違いないだろう。


「流石は陰陽道宗家。土御門家の分家筋の御子息、腐っても霊狐の末裔と言ったところですわ」


 女の気配が背後からした。一瞬だけ存在感を放ってから即座に姿を認識できなくなるレベルの隠形をして背後に回り込むとか、コイツバケモノかよ……。


「ご安心ください。私は敵では御座いません」


そう言って俺の肩に手を置いた。


「君はだれかね?」


と父が訪ねる。

子供たちを品定めするために、エレベーターから降りてすぐのパーティーの受付エントランスにいる術者達でさえ、その動きを捕らえて居るものは少ない。


「これは申し遅れました。武家系陰陽師の嵯峨源氏さがげんじが末裔、渡辺菖蒲わたなべアヤメと申します」


「これはこれは高名な剣の陰陽師の一族にお会いできるとは……武家の術者とは珍しい」



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