第15話 猫のお姉さん

僕が小学校の頃、近所に『猫のお姉さん』って呼ばれてる人がいた。

 

別にそのお姉さんが猫をたくさん飼っているとか、猫っぽい顔をしているとかではない。

いつも、「猫を探している」から、猫のお姉さんって呼ばれていた。

 

お姉さんが飼っていたのは真っ黒な猫だった。

名前は「みかん」って言うらしい。

なんで黒猫なのにみかんなのかは、今でもわからない。

 

みかんはとても人懐っこくて、よく色々な人の家で餌を食べていた。

僕もみかんを見つけたら持っていたおやつをあげたり、撫でたりする。

 

そして、その後、大体は息を切らせたお姉さんがやってきて、みかんを回収していく。

お姉さんは大体、2日に1回はみかんを探し回って、近所を彷徨っているのを見かける。

 

あるとき、僕は「そんなに大事なら家から出さなきゃいいのに」とお姉さんに言った。

けど、お姉さんは「それだと可哀そうでしょ?」と答えた。

 

そして。

 

「君がお母さんに、いくら大事だからって家から出してもらえなかったら嫌でしょ?」

 

そう言われて、妙に納得した覚えがある。

まあ、今では人間と猫じゃ違うでしょと思うのだけど。

 

とにかく、お姉さんはみかんをものすごく可愛がっていた。

いつも餌をやるときは優しい顔をしてみかんを見ていた。

 

お姉さんには家族がいないらしく、みかんだけが家族と言っていた。

だから、みかんのことを異常に可愛がっていたのだと思う。

 

だけど、みかんは15歳らしく、猫にしてはかなりの高齢だった。

周りはみかんが亡くなったら、お姉さんが落ち込むだろうと心配していた。

 

高齢になってからはみかんはあまり外に出歩かなくなったらしい。

だから、みかんを探すお姉さんの姿自体、あまり見なくなったのだ。

 

そんなある日、僕たちは道でみかんがヨタヨタと歩いているのを見つけた。

どうしたんだろうと思って、僕たちはみかんを捕まえてお姉さんのところへ連れて行こうとした。

だけど、みかんが今まで見たことのないくらい怒った顔をして、暴れた。

そして、隙をついて逃げて行ってしまった。

 

僕たちは必死になってみかんを追った。

すると、物陰に蹲っているみかんを見つけた。

 

僕たちは心配でずっとみかんを見ていた。

するとみかんは最後に弱弱しい声を上げた後、動かなくなってしまった。

 

そのことをお母さんに言うと、お母さんは「猫は死ぬとき、飼い主に見られないように隠れるように物陰に隠れるの」と言われた。

 

みかんが死んだことをお姉さんに伝えたら、きっとお姉さんは落ち込んでしまうだろうと思い、僕たちはお姉さんに知らせなかった。

だけど、それから泣きながらみかんを探すお姉さんの姿を毎日見るようになった。

 

お姉さんがすごく悲しそうで、僕たちはみかんが死んでしまったことを言ってしまおうかと迷っていた。

だが、そんなとき、お母さんがお姉さんに「みかんちゃんは、ある人に拾われていったのよ。きっと、あっちで幸せに暮らしてるわ」と言ってくれた。

 

それでも、お姉さんはみかんを探すのを止めなかった。

いつも泣きながらみかんを探していた。

その姿を見て、お母さんもさすがに死んだことを言った方が良いかもしれないと言った。

 

だから、僕たちはお姉さんにみかんが死んだことを言いに行こうとした。

だが、お姉さんはすごくニコニコしていた。

どうしたのかと聞くと、なんとみかんが戻ってきたと言われたのだ。

 

僕たちは不思議だった。

でも、お姉さんがすごく喜んでいたから、僕たちはこれでよかったと思い、みかんが死んだことは伝えなかった。

 

だけど、それからのお姉さんは笑っているけど、どこか辛そうな感じがするようになった。

目の下にクマが出来てるし、すごく痩せてしまった。

 

それから数日後。

お姉さんが行方不明になった。

目撃者によると、夜にみかんを抱いた状態で歩いていたらしい。

 

結局、お姉さんは見つからなかったらしい。

 

あれからもう10年以上が経つ。

そういえば、こんな話を耳にしたことがある。

 

ペットが死んだときに悲しみ過ぎると、死んだペットが飼い主のことが心配で連れて行ってしまうことがあるらしい。

 

もしかしたら、お姉さんはみかんに連れられて行ってしまったのかもしれない。

お姉さんにとっては残されるのと、一緒に行くのと、どっちが幸せだったんだろう。

 

終わり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る