第6話 小さなおっさん

昔から妖精の都市伝説ってあるよね。


家の中に出て来る小さいな妖精。


 


俺が中学のときは、おっさんの顔の妖精の都市伝説が結構有名だった。


その妖精は人が寝てるときに作業をやってくれる、なんて可愛げのあるものじゃなくて、小さなおっさんを見てしまうと命を狙われるってやつ。


 


その当時は部屋の中で出たとか、お風呂場に出たとか、色々なパターンがあった。


ただ、当たり前かもしれないけど、俺はその小さなおっさんを目撃することはなかったし、見たいとも思わなかった。


 


そんな俺も結婚して、今は8ヶ月の息子がいる。


息子は結構、ヤンチャでおもちゃを買ってあげてもすぐに壊してしまう。


俺が好きだからって、戦隊もののテレビ番組を見せてたのが悪かったのだろうか。


 


とにかく、息子に与えるおもちゃはちょっとやそっとで壊れない頑丈のものばかりにした。


一々壊されてたら、金銭的にも厳しいし。


 


で、ある日の休日。


奥さんがゆっくり買い物に行きたいっていうから、俺は息子と一緒に留守番することになった。


 


俺は息子におもちゃを渡して、戦隊もののDVDをかけ流しして、ソシャゲーをやっていた。


すると、いきなり息子の方から「ぎゃあ!」という声が聞こえた。


 


明らかに息子の声じゃない。


野太い、おっさんのような声。


テレビに目を向けても、そんなキャラは出てきていない。


 


ちらりと息子に目を向ける。


俺は正直、心臓が飛び出しそうになった。


 


息子の口と胸、手の周りが血だらけになっている。


 


慌てて息子にかけよる。


よく見てみると息子に怪我はなかった。


なんていうか、返り血を浴びたような感じだ。


 


え? なんで?


血なんて出るものなんて息子に与えていないはずだ。


 


で、よく見てみると、息子の左手に、変な人形が握られていた。


首のない、小さな人形。


 


いや、首がないというより、首が引きちぎられたような感じだ。


首のところからポタポタと血がしたたり落ちている。


 


そして、息子の右手の中には、小さな頭が握られていた。


小さなおっさんの顔をした頭。


 


俺の頭は真っ白になった。


とにかく、証拠を隠滅しないと。


 


息子が握っていた体と頭をトイレに流し、息子の服を着替えさせて、血の付いた服は捨てた。


床も綺麗に拭いた。


ホント、フローリング良かった。


さすがに絨毯だと誤魔化しきれないところだ。


 


奥さんが帰って来る頃には、証拠隠滅も完全に終わっていた。


 


でも、その日からだと思う。


俺は息子に違和感を覚えるようになった。


 


なんていうんだろうか。


息子を息子と思えないような変な感覚だ。


それは奥さんも同じようで、自分でも不思議がっていた。


 


そして、息子自身にも変化が出てきた。


あんなにヤンチャだったのに、今はおもちゃを壊すようなことをしなくなった。


好きだった戦隊もののテレビも見ることはなくなった。


今、息子が好きなのは、ホラーものとアイドルが出て来る番組だ。


 


なによりびっくりしたのは、今までは這い這いがやっとだったのに、普通に立って歩くようになった。


 


で、一番不気味に思ったのは、息子の笑い方だ。


前はキャッキャッキャと可愛く笑っていたのが、今はニタニタと不気味に笑う。


 


奥さんはノイローゼになって寝込んでしまった。


俺は休職して、育児に専念している。


 


奥さんや他の人に相談しようと、何度も考えた。


けど、そんなことは絶対に信じてもらえない。


 


今も息子はテレビで怖い話のDVDを見ながら、ニタニタと笑っている。


 


俺はこのまま息子を育てても大丈夫なんだろうか。


 


終わり。

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