ゆえに、僕は神を愛そう

海鳴ねこ

第一部

はじまり


 ――1人の男の話をしよう。


 ある所に、強さだけが取り柄の世界が存在する。

 その世界では魔法なんてモノはない。

 精霊だとか妖精だとか、そんな神秘は無い、科学が発展した世界。

 虫と植物と、動物……。

 そして、人間が頂点に立つ、至って普通の世界宇宙――。


 その世界で唯一異常と呼べるものがあるとすれば、

 人間の身体に《限界》と言うものが存在していないと言う事だ。


 鍛えれば鍛える程その者は強くなる。

 限界が無いから何処までも強くなれる。

 死ぬほど鍛えれば、神の領域だって越えられる狂った世界。

 でも、人間である以上それは決して訪れない。


 それは仕方が無い事だ。

 身体に限界は無くても生き物である以上避けられないものがある。


 ――それは、老いて死ぬと言う事実。


 生きているのなら避けようもない、どうしようもない事。

 いつか受け入れなくてはいけない平等。


 加えて人間には心と言うものが存在する。

 心と言うのは、身体よりも脆く弱い。


 つまりだ。

 身体に《限界》が無くても、心が《限界》を決めてしまう。

 どれだけ身体を鍛え、精神を鋭く成長させても。

 老いる程に人は自分から「もう無理」だと《限界》を定めてしまう。

 《限界》を決めてしまった人間は驚くほどに弱り、それ以上は強くはなれない。


 この世界は。

 人間は生きている限り何処までも最強で、

 生きている限り、決して強くなりきれない、矛盾した世界……。


 でもそれはきっと正しいのだ。

 心があって、生きているからこそ、必ず訪れる人らしさ。



 ――そんな世界で、その男は生まれ落ちた。

 《限界》のない世界で、結局は自分から《限界》を定めていく世界で、

 その男は唯一、永遠に《限界》を持ち合わすことなく、生まれ落ちた。

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