第32話

 隼人がモンスターの大群と戦闘を開始する少し前。


 異能者である優奈と清華は隼人の家族を探して学校を走り回っていた。


「はぁ……はぁ……見つかりませんね……」

「え、えぇ。遥さんはどうやら家族と回りに行った様です。クラスには残念ながらいませんでした」


 既に粗方の場所を探し終えた2人だったが、走って探したため、息も上がっていた。

 

 優奈がキョロキョロと周りを見渡して根気よく探しながらも困った様に眉を潜める。


「一体何処にいるんでしょうか……」

「組織に聞いてみますか? もしかしたら場所を知っているかもしれません」


 清華はスマホを取り出して組織に電話を掛ける。


『……もしもし、何の様だ』

「どうして機嫌が悪いのか知りませんが、隼人の家族が何処にいるか知りませんか?」

『…………アイツの家族ならグラウンドの木陰に居るはずだ。発信機を付けているのが服だから、服を脱いでいなければな』

「そうですか。ありがとうございました」


 清華はプツッと電話を切ると、優奈に笑顔で報告する。


「優奈さん、見つかりました! どうやらグラウンドの木陰にいる様です」

「分かりました! なら早速行きましょう!」


 2人が走り出そうとした時——


 プルルルルルッッ!!


「「!?」」


 突然2人の携帯が一斉に鳴り出す。

 突然の事に一瞬固まる2人だったが、直ぐに我を取り戻し電話に出る。

 すると電話の向こう側から宗介の焦った様に声と慌ただしい音が聞こえてきた。


『モンスターだ! それも藍坂隼人の家族の近くにいるッ!』

「えっ?」

「了解しました。今すぐに対処します」


 驚く清華とは違い、組織最強の名を冠している優奈は冷静に返答するとすぐに電話を切って走り出す。

 それに清華は「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、優奈さんっ!」と叫びながら追いかけて行った。













 2人が隼人の家族の下へ着くと、何と隼人の家族がオーガと向き合っていた。

 オーガは通常種でもB級中位の力があり、一般人である遥や隼人の両親の勝てる相手ではない。

 

 清華は【気配遮断】を発動して隠し持っていた特殊なナイフを取り出すと、全速力でオーガの懐に入り、脚の腱を斬り付ける。

 突然の痛みにオーガが悲鳴の様な呻き声を上げて、膝をつく。


「グルァァァァ……」

「くっ……やはり私ではこれが限界ね……」


 清華はもう1度攻撃する事などせず、大人しくオーガから離れ、優奈の隣へと戻る。

 そしてナイフに目を落とすと、ナイフの刃が欠けていた。


「これ世界でもトップクラスに硬い金属使っているのに……どれだけ硬いのよ……」


 そんな姿を見た優奈は清華の肩に手を置くと、


「貴女はここで待機。絶対に割り込んでこないでください」

「し、しかし——」


 清華は言い返そうとするが、優奈は断固として許可しない。


「ダメです。正直に言いますと、貴女の実力では邪魔になります。これは上司命令です」

「…………はい……」


 清華は不承不承と言う感じで引き下がる。


「清華さんは隼人君のご家族を安全な所へ」

「……分かりました」


 清華は気配を消して遥達の元へと移動して行った。

 それを見送った優奈はポツリと呟く。


「それでは早速殲滅するとしましょう。——【超電磁砲レールガン】」


 優奈が何処からともなく取り出した拳銃が言葉に反応すると、銃口から紫電を迸らせながら弾丸が射出され、一瞬にしてオーガに到達すると額に10cm程の風穴を開ける。


「ガ、ガァ……ァ……」


 眉間を撃ち抜かれたオーガは灰になって消えていく。

 異世界でも上位の強さを誇るはずのオーガを倒すのに掛かった時間は僅か1秒ほど。

 これが組織最強だと言わんばかりに実力を見せつける優奈。


 そんな彼女の異能は【電磁操作】。

 これは自由自在に電磁を発生させて操作出来ると言うシンプルだが扱いにくい異能である。

 しかしこの異能を優奈は持ち前の戦闘センスと感覚で使いこなしていた。

 

 因みに先程の攻撃は、銃の内部で電磁を操作して反発し合う力を極限まで高めて発射すると言う方法を使っていた。

 

「す、凄い……」

 

 優奈を見ていた遥が呆然として呟く。

 隼人の両親である透と冬美は開いた口が塞がらないと言った風に驚愕している。

 そんな遥達の下へ清華が気配遮断を使用しながら近付き、話しかけた。


「——遥さん」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 突然話し掛けられてビクッと身を跳ねさせる遥に清華が告げる。


「今すぐ私と一緒にここから離れましょう。……大丈夫です。優奈さんは私達の何十倍も強いので1人でも何とかなります」

「わ、分かりました……———パパ、ママ早く逃げるよ!」


 遥の疑問を先回りして答えた清華に押された遥が二人の手を引いて逃げようとしたその時――


 ピシッ……ピシピシピシッッ!


 突如空間が裂けて、中から先程のオーガの1.5倍ほどの大きさのオーガが出てきた。

 そのモンスターの名前はオーガジェネラル。

 異世界でも強敵として知られているA級下位のモンスターである。

 

「な、何という威圧感……」


 優奈は驚愕に目を見開いて呟く。

 優奈ですらこれなのだ。

 優奈よりも弱い清華やそもそも戦う力を持たない遥や隼人の両親はガタガタと歯を鳴らし、全身を震わせており、顔色も病人の様に悪い。


 この状況で1番に動いたのはやはり優奈。

 再び異能を発動させ、先程よりも威力を倍増させる。


「【超電磁砲】ッッ!!」

「ア? ナンダコレ?」


 先程よりも早く鋭い一撃は、オーガの皮膚に当たって血を流させる程度で止まってしまった。

 それだけでも驚愕に値する物だと思うが、それよりも驚いていたのが、


「……モンスターが喋った……?」

「優奈さん! 喋るモンスターに今まで会ったことありますか!?」

「いいえありません! ですが……やる事は同じです」


 優奈は何発も連続で【超電磁砲】を発射。

 しかしその全てが硬く厚い皮膚に弾かれ、剣で跳ね返される。

 

「っ——! やっぱりこれではダメですか……なら……!」


 優奈は新たな異能を発動。


「【能力上昇:拳銃】」


 この異能は様々な物の性能を一時的に上昇させるスキルで、それは生物でもそうでなくても使えるが、その代わりに1つまでしか発動させることが出来ない。

 性能の上昇した銃で再び発射。


 すると先程とは違い、皮膚を突き破ってダメージを与える事に成功した。

 

「ガァアアアアアア!! ユルサナイゾニンゲン!」


 しかしオーガジェネラルもタダでやられる相手ではない。

 大剣肩に担ぐとその巨体からは信じられない程の速度で優奈に接近する。


「優奈さん!!」

「ッッ!?」


 接近を許してしまった優奈にオーガジェネラルは大剣を大振りに横薙ぎする。

 優奈は即座に身体に電気を流して脳の伝達の速度を上げ、ギリギリの所で回避。

 その瞬間に一気に距離を取る。


「はぁはぁはぁ……私は近接格闘は苦手なのですが……」


 しかしそんな事を言っている時間をオーガジェネラルはくれない。

 

「アレヨケル、スゴイ。モットオレヲタノシマセロ!」

「それは少し難しいお願いですね!」


 優奈はそう言いながらも拳銃を構え、オーガジェネラルに向けて連射した。

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