第30話

 結果的に言えば、俺が追いついた頃にはゴブリンエンペラーは学校から1km程離れた山の巨木に激突していた。

 巨木は幹が抉れ辺りの草木は倒れているが、奴には俺の殴った所から血を流している以外にこれと言った傷は無さそうだ。


「相変わらずタフな野郎だな……」


 うんざりとした感じで深いため息を吐いてしまうが、今回はしょうがないと思う。

 これでも俺は結構本気で殴ったのに、殆どダメージがないんだぞ?

 あんまり長引いたら先に俺の体が壊れるっていうのに。


 俺が辟易としていると、ゴブリンエンペラーが巨木から身体を起き上がらせて俺へと目線を向ける。


「オマエ……ツヨイナ……」

「……はぁ……喋れるのも同じ。やっぱり俺のいた異世界の生き物で間違いなさそうだな」


 モンスター達は、高位のモンスターになるに連れて大陸共通語を話せる様になる。

 その為ドラゴンやグリフォンと言ったモンスター達は殆どが何かしらで会話可能だった。

 目の前のゴブリンエンペラーも異世界で高位のモンスターの一種だったので話せるのも納得だ。


「話せない方が俺的には罪悪感が湧かないから良いんだがな」 

「オマエツヨイ……イマカラホンキダス」


 そう言った瞬間にゴブリンエンペラーから大地を揺るがす威圧感が発生した。

 

「むっ……これは相当だな……」


 俺はその威圧感に後退りそうになるが、ギリギリの所で耐える。

 モンスターとの戦いでは、先に怯えた方が負けを意味するのだ。

 ここで引くわけには行かない。


「【身体強化:Ⅷ】」


 俺は更に1段階身体能力を強化。

 すると地面が威圧だけで陥没する。

 そのお陰でゴブリンエンペラーの威圧から完全に抜け出すことが出来た。

 しかし奴も俺の威圧感に怯えた様子はないので、この状態でも実力が拮抗していると言う証だ。

 

「一気に行かせて貰うぞ―――はッ!!」


 俺は音速を超えてゴブリンエンペラーに接近する。

 地面を蹴った音が聞こえくる時には既に奴の懐に入っており、破壊剣カラドボルグが眼前に迫って初めてゴブリンエンペラーが俺の接近に気付くが――もう遅い。


「はぁぁあああ!!」


 破壊剣カラドボルグを一瞬の内に何十回も振るう。

 勿論ただ単純に振るうだけではなく、袈裟斬りや横薙ぎ、振り下ろしや振り上げを駆使して、四肢を中心にバラバラに攻撃していく。

 しかし奴の皮膚が硬すぎるのと、俺が弱体化している事によって破壊剣カラドボルグも弱体化しているのか、致命傷となりそうな深い傷を負わす事は出来なかった。

 だが、その攻撃は奴を怒らせたようで、


「グゥゥゥ……ニンゲン! オマエハコロス!!」

「!?」


 ゴブリンエンペラーが怒りに任せて片手で巨大な大剣を横薙ぎしてきた。

 その速度は軽く音速に達しており、反射神経で避けるのは当たったときが危険なので【感知】によって軌道を予測して体を逸らして避ける。

 そしてその状態のまま一旦剣をイヤリングに戻し、腕を地面に付けてブリッジの様な体勢から足を空中で曲げて一気に解放する。


「お返し―――だッ!!」

「グォォッ!?」


 俺の渾身の蹴りは見事奴の鳩尾に入り、ゴブリンエンペラーが1、2歩よろける。

 その隙を逃しはしない―――ッ!


「カーラッッ!! 解放だ!」

『よし来た、この我に任せろ。―――《破壊》ッッ!!』


 破壊剣カラドボルグからドス黒いオーラが発生し、刀身がオーラに染まったかと思うと、刀身が1mほど伸びる。

 この技は破壊の概念を宿したオーラを刀身に纏って、触れた対象を再生不可能なまでに分解すると言う恐ろしい技だ。

 本来なら再生能力のある敵に対して使うものだが、こう言った外皮の硬いモンスターにも効果抜群である。

 破壊のオーラを纏った剣が奴に触れると、そこから何の抵抗もなくスッと刃が入っていく。


「ナ、ナンダト……!?」


 自身の自慢の体をあっさりと通っていく事に驚愕の表情を見せるゴブリンエンペラー。

 すぐに焦りながら大剣で俺の剣を跳ね返そうとするが、


『そんななまくらで我を止める事など出来るわけないだろうが』


 カーラの吐き捨てたその言葉通り、剣は止まる事なく一瞬にして大剣の方が真っ二つに割れた。

 そして折れた刀身が吹き飛び、運良くゴブリンエンペラーの体に突き刺さる。


「グルァァァァ!? イタイ!」

「―――安心しろ、すぐに楽になる」


 俺は腕に力を入れて剣を振り切って胴体を真っ二つにする。

 しかしこの程度では強者ともなれば、死にたくてもすぐに死ねず、1分以上生き残る。

 俺はそのを知っているため、更に剣を振るって細切れし、即座に命を刈り取った。

 

「―――ッ」


 バラバラになったゴブリンエンペラーは、何も言う事なく灰となって消えていく。

 俺はそれを見ながら剣に付いた血を払い、帯刀する。


『久しぶりに歯ごたえのある相手だったな主!』

「俺的にはもう戦いたくないけどな」


 お陰で体がバキバキなのだ。

 正直もう家に帰ってフカフカのベッドにダイブしたいが、まだ文化祭は始まったばかりなので俺だけ早退するのは少し気が引ける。


「……戻るか」 


 俺が学校に戻ろうと踵を返そうとしたその時―――


「―――貴方にはまだ此処に残って貰います」

「!? ―――だれだ!?」


 俺が声のした方に顔を向けると―――



「―――【召喚】―――」


 そこには既に誰の姿もなく、その代わりに大量のモンスターが犇めいていた。


「……モンスターなんてクソ喰らえだ」

『やった! 再び楽しい戦闘の時間だ! 主、やるぞ!!』


 俺は無駄にハイテンションなカーラに若干引きながらも仕方無しに鞘から抜き放った。



 

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