第25話

「おにぃ! 早く行くよっ! そんなにだらだらしてたら優奈さんに愛想つかれちゃうよ!」

「何で俺まで……今から行くよ」


 組織に加入した次の日、俺は優奈さんをしに使われていつもよりも早く家を出ていた。

 何でも文化祭が明後日だから準備で忙しいんだとか。


 でもそれって俺がいるか?

 どうせ遥のクラスとは離れているし、助っ人なんて頼まれてもいない。


「それで何で俺まで一緒に行かないといけないんだ?」

「ん~~何となく?」

「…………」


 コイツの気分だけで俺は起こされたのか?

 少しイラッと来るが、まぁ遥は俺の大事な妹だから許してやるか。

 つくづく甘いもんだな俺も。


「はぁ……今度ジュースでも奢れよ」

「妹にたかる兄ってどう言うことよ……と言いたいとこだけど、今度一緒に服を買いに行ってあげるわ。優奈さんとのデートのためにね」

 

 「私、気がくでしょう?」とでも言う様に自信ありげに胸を張る遥。

 何故そこまで自信満々何だ……と言いたくなるが、正直めちゃくちゃありがたいので何も言えない。


 そう言えば言っていなかったが、俺は昨日優奈さんの連絡先とRainを貰ったので、昨日から連絡を取り始めている。

 そして今度の文化祭にも勿論呼んでいる。

 その時には絶対に光輝に合わせない様にするが。

 アイツに会ってしまったらどうなるか分からない。

 俺はNTRが大嫌いなんだ。 


「あ、ありがとう! 流石は俺の愛する妹よ!」

「はいはい私も大好きよ、おにぃ。と言うかどうしたのそれ?」


 そんな茶番をしながら学校へと向かっていると、遥がふと気付いたかの様に俺の耳に付いているイヤリングを指差す。


「そんなの付けてなかったよね? ちょっと厨二病ぽいけど結構カッコいいじゃん」

『そうだろうそうだろう。我の良さに気付くとは中々やるな、主人の妹は』


 遥に褒められて満更でも無さそうなカーラ。

 だが満更では無いのは俺も同じ。

 

『当たり前だろ? 何と言っても俺の妹だぞ?』


 妹を褒められるのは嬉しい事だ。

 朝から少しハッピーになりながら俺たちは歩を進めた。


 











 ———15分後———


 あれから事故など特に無く、遥と仲良く学校に着いたのだが……


「……早く来ててよかったねおにぃ……」

「そうだな……まさかこんなに酷い状態だったとは……」


 俺と遥は目の前の惨状を見て苦笑しながらそう溢す。

 発端は遥の一言だった。


「ねぇおにぃ、おにぃのクラスの出し物が見てみたいんだけど」


 と言われたので遥を連れて教室へ登校してきたら、そこには文化祭を待ち望む楽しげな雰囲気など微塵もなく、皆が朝なのに疲れ切った顔をしていたのだ。

 何故かと疑問に思い、会話を聞いてみると直ぐに原因が分かった。


「ぜ、全然衣服が集まらない……と言うかここら辺に売っているところがまず無い……」

「まさかメイド服がこれ程手に入らないとは……」

「学校にあるメイド服は……」


 男子たちはこの世の終わりの様な顔をしている。

 どうやらメイド服が集まらない様だ。

 それで学校の備品を使おうとしたみたいだが、


「このメイド服絶対に入らないのだけど……主に胸が」

「それにヨレヨレだしねー。こんなの着たく無いよね」

「どうせなら新しいのがいいよねぇ……」


 と言った感じで女性陣にはメイド服が不満らしい。

 それで男子は必死に借りれる場所を探しが中々見つからないと言うことか。


 俺は近くの男子———将吾に準備は後何が残っているのか聞くために話しかける。


「なぁ将吾、後何があれば準備が終わるんだ?」

「後……メイド服服だけだ……」


 あの常に元気一杯の将吾ですらこの調子と言うことは、相当苦労したのだろう。

 その間に優奈さんにアプローチしていた身としては少々罪悪感が芽生える。


「ふーん……ちょっと待っててくれ」


 俺はその罪悪感を晴らすため、一旦クラスメイトや遥から離れると、とある人物に電話をかける。

 3コール程で相手の声が聞こえ始めた。


『もしもし、隼人君? どうしたのかしら?』

「もしもし清華? 悪いんだけどさ、今何処に居るんだ?」


 俺が電話をかけた相手は、宮園———あっ、清華と呼べと言われたんだったな———である。

 何故名前呼びになっているかと言うと、昨日俺が優奈さんと仲良く雑談していた時だ。

 何気なく俺が宮園と呼ぶと、清華に「初対面の人には名前で呼ぶのに、何で私は宮園なの?」と言われて無言の圧力を掛けられたため、俺が折れてこうしてお互いに下の名前で呼び合う事になった。


 始めは優奈さんが居る目の前で他の女性と名前呼びするのはどうかと思ったが、優奈さんは、


「全然大丈夫ですよ? 皆んなで仲良くしましょうね?」


 と慈愛の笑みを浮かべながら言ってくれた。

 その時に優奈さんは、異世界の聖女よりも素晴らしい人格の持ち主だなって俺は思ったね。

 それと同時にこれが歳上の余裕なのかとこれでもかと見せつけられた。

 この言葉には清華も「な、何て器が広いの……」と愕然としていたのをしっかりと確認している。


 俺が昨日の事を思い出していると、電話の向こうから少し不機嫌そうな声で返ってきた。


『……今家にいるわ。起きたばっかりだもの』

「あっ……それは悪いことしたな。それで寝起きの所悪いんだが……1つ頼み事いいか?」

『んー? ……た、頼み事? 隼人君が私に……?』


 俺が頼み事と言った途端に電話越しの声が少し明るくなった気がする。

 もしかして頼られるのが好きなのか?

 もしかしてママ系同級生ですか?


「そうだ。実は———」


 俺は清華に現状を詳しく話す。

 メイド服が学校の備品では古くて誰も着たがらないのと、メイド服を借りれる場所がないこと。

 そのため男子が抜け殻の様に萎れている事などを事細かに説明する。

 そしてそのためにメイド服の伝手がないかも聞いてみる。


 全てを話し終わった後で清華は一瞬黙ったかと思うと、直ぐに何でもないとでも言う風にあっさりと了承してくれた。


『いいわよ。今から私の方で用意しておくわ』

「ありがとう清華。ほんとに寝起きの所悪かったな。じゃあまた後で」

『ええ、また後でね』


 俺は最後にもう1度ありがとうと言った後に電話を切り、将吾たちの元に戻る。

 するとほんの数分しか経っていないのに先程よりも意気消沈としたクラスメイトの姿が。

 そしてこの空気に耐えられなかったのか、遥はいつの間にか居なくなっていた。

 これは早く報告せねば。


 俺は教卓の前に立ってクラスメイト全員に話しかける。


「はい注も~く。ここでいい報告がありまーす!」

「「「「「いい……情報……?」」」」」


 途端にザワザワとし出すクラスメイト達。

 そんなクラスメイト達に俺は宮園財閥の令嬢の言葉を代弁して神のお告げを告げる。


「メイド服……宮園財閥が何とかしてくれるそうですっ!!」


 俺の言葉にしんと静まり返る教室。

 しかしそれはほんの一瞬で、途端にクラスメイトから歓声が上がる。


「ま、まじかっ」

「やったぁぁ……これで徹夜して近場のメイド服取扱店を探さないで済む……」


 男子はいつもとは違いあまり騒ぎはせず、ホッと安心した様で胸を撫で下ろす人が殆どだった。

 まぁ自分たちのせいでメイド服が遅れるとなれば責められるのは自分たちだと分かっているからな。

 しかしそれとは反対に女子はいい所のメイド服が着れると大喜びだ。

 

 取り敢えず準備が終わった様なので一安心だな。 

 俺は他の男子と同様にホッと胸を撫で下ろした。





 しかしこの時は知らなかった。

 まさか文化祭で大変なことが起きるとは―――


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