第19話 落第勇者、組織へ出向く

 俺は如何にも高そうな黒塗りのリムジンの様な車に乗り込む。

 リムジンの中は以外に広く、何か小さな家みたいだった。

 

「これは凄いな……」


 この世界にもこんな部屋みたいな乗り物があったとは。

 まぁ異世界ではこれよりもっと広くて快適な馬車には何回も乗ったけど。

 一応S級冒険者だったからな。


 俺がほんの少し感心していると、既にリムジンに乗っていた小学生程の男の子が俺の所に駆け寄ってきた。

 その子はキラキラとした目を俺に向けてくる。


「ねぇねぇ、お兄さん誰? 僕は三河颯太みかわそうたって言うの!」

「俺は藍坂隼人だ。颯太はどうしてここに居るんだ? まだ小学生だろう?」


 俺が目線を合わせて―――元々座っているのだが―――聞いてみると、


「何か『この車に乗ってみたいかい?』って言われたから乗りたいって言ったら乗せてもらえた!」

「バリバリの誘拐じゃないか」

「ち、違うわよっ! ちゃんと親御さんにも連絡済みよっ!」


 宮園が少し焦りながら言って来るが、正直信用ならない。

 だってまずこの組織って所が信用できないし、仮に異能を颯太が持っているのだとしても、この子は子供だし、もし何かあったらどうするのだろうか。

 ここは俺がこの子に話をして説得しなければ。

 きっとご家族が悲しんでいる筈だ。


「颯太、お家に帰りな。これから危ない所に行くかもしれないんだぞ?」

「大丈夫! 僕慣れてるからっ! 僕が隼人お兄ちゃんを守ってあげる!」


 そう言ってむんっとドヤ顔をしながら胸を張る。

 その姿はちょっぴり可愛いが、慣れているとはどう言う事だろうか?


 俺は意味を確かめるために宮園の方を向く。


「おい、お前……まさかこんな子供に戦わせてないよな?」

「まだ戦わせてないわ。彼のお姉さんは既にウチの組織の戦闘員だけど」

「そうだよ! だからこれからお姉ちゃんに会いに行くんだっ! 隼人お兄ちゃんにも会わせてあげる! お姉ちゃん『彼氏が欲しい……』って言ってたから!」

「そ、そうか……それは楽しみだな……」


 颯太よ……それは何て反応したらいいのか分からないぞ。

 ただ、颯太のお姉さんは可哀想だなと切実に思うよ。

 知らない男に自分の事情をバラされたんだからな。


 俺が名も知らぬお姉さんに同情していると、コホンッと咳払いをした宮園が突然真剣そうな顔になり、俺たち2人に向かって話し始めた。


「……そろそろ雑談はお終いにして……それでは2人に何故呼ばれたのかを説明します」

「どうせ勧誘だろ? それか企業紹介的な事か?」


 逆にそれ以外で俺が呼ばれる理由が分からない―――いやもう1つあるな。

 俺を抹殺、又は捕縛か。

 もしそうなら全力で抗わせて貰うが。


「もしお前達の組織が俺の捕縛、又はる気なら今すぐ俺は帰るぞ?」


 俺は颯太と宮園、運転手以外の異能力者に向けて軽い・・殺気を向ける。

 しかしそれだけで何人かは泡を吹いて気絶し、残りもガタガタと震えている。

 だが俺の良心は全く痛まない。

 

 こちとら異世界で何百人と殺しているからな。

 まぁ全員俺を殺そうとしたから仕方なくだが、それでも人を殺した事には変わりない。

 異世界では生き物の命の価値が軽いのだ。


 颯太はいきなりみんなが気絶したり震えたりし出した事に一瞬首を傾げるも、何かを察した様に「あっ!」と声を上げた。

 そして初め会った時よりも瞳を輝かせる。


「もしかして隼人お兄ちゃんが【威圧】の異能使ったの!?」

「ちょっと違うけどそんなもんだ。頑張れば颯太も使える様になるぞ」

「本当!? 今度教えてね!!」

「機会があればな」


 まぁ威圧なんて強くなって殺気をコントロール出来るようになれば誰でも出来る。

 まぁ殺気をコントロールするのが結構大変何だがな。


 そんな風に俺と颯太で仲良く話していると、何も知らない運転手が扉を開けて驚愕に目を見開く。


「藍坂隼人様、三河颯太様到着いたしまし―――な、何があったのでしょうか……?」

「気にしなくていいぞ」

「気にしなくていいぞっ!」

「いえ、しかし……」


 俺と俺のマネをした颯太が気にするなと言うが、流石に異能力者が何人も気絶している事が気になる様で食い下がって来るが、ため息を付いた宮園が運転手を止める。


「大丈夫よ……私たちの実力不足だっただけだから……」

「は、はぁ……?」


 イマイチ釈然としていない様だが、自分の立場を弁えているらしく、「失礼しました」と俺たちに謝罪をした後去っていった。


 ああ言う人ほど信用が出来るんだよな。

 余計な事には突っ込まないから気も楽に接することが出来るし。


 俺は先にゆっくりと車を降り、その後で颯太を降ろす。

 降りた先に広がっていた光景は、何処にでもある一軒のマンションの様な所だった。

 しかし、そんな物は俺たちが見ている・・・・光景に過ぎない・・・・・・・


「……【感知】」


 その瞬間に周りの物の全ての情報が入って来る。

 そこにはここ一帯を覆っている結界の様な物も勿論感知済みだ。

 これは異世界でも中々見れないくらいの高度な結界だな。

 確か……


「……幻影結界とか言ったか」

「よく分かったわね。これはウチの最高の実力者が張った物なんだけれどね」


 いつの間にか復活していた宮園が少し眉尻を下げて不服そうに言う。

 どうやら相当この結界を張った人を尊敬しているらしい。

 本当は幻影結界の他にも空間拡張結界が張ってあることに気付いたのだが、それは話さないでおこう。

 何故なら幻影結界よりも厳重に隠されていたから、何か大事なものでもあるのだろう。

 まぁもし殺されそうになってらそれで交渉するのもありだな。


 だが、異世界ではこれくらいの結界程度なら張れる人間などごまんといる。

 それこそパトリシアさんの結界は、異世界の時の俺でも本気で集中しないと見つけられないほどの隠密性だったからな。


 しかし幻影結界が俺達の入室を許可すると、先程とは比べ物にならないほどの広さを持った土地が現れ、更には様々な巨大な建物が立ち並んでいた。

 公園もあればマンションもあるし、一軒家も何十軒かは確実にある。

 そして飲食店や大型ショッピングモールの様な所まであった。

 

 ふむ……これは1つの団体じゃなくてもはや街だな。

 確実にこの組織の後ろには俺が想像しているよりももっと大きなものも絡んでいるだろう。


「ようこそ、私たち異能者の組織―――《異端の集まり》へ」


 宮園の歓迎の声を聞きながら、俺は警戒度を何個か上げる事にした。


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