第8話 落第勇者と異形の邂逅①

「皆、早いと思うかもしれないが、これから何の事について話すと思う?」


 高校復帰2日目の朝、1時限目のLHRでクラス委員長の光輝が教卓の前にたち、皆に問いかけた。

 その言葉に皆はソワソワし出したのが俺の目から良く確認できる。


 何故かって? 

 それは俺がクラス副委員長だからだけど?


 俺は光輝の推薦とクラスの多数決で満場一致となってしまい副委員長になってしまったのだ。

 まぁ大体は光輝に任せていればいいので楽と言えば楽なんだけどな。

 

 しかしそれにしても物凄い盛り上がり……まぁそれもしょうが無いことだろう。

 なぜなら―――


「はいっ! 文化祭ですっ!」


 紗奈が言った通り、待ちに待った文化祭があるからに他ならない。


「そう―――僕達にとっては早く感じるけどこれから文化祭があります!」

「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」

「「「「「「きゃああああ!!」」」」」」


 クラスの至る所で喜びの歓声が聞こえる。

 たかが文化祭1つでこれ程の事に成るだろうか? と疑問に思うかもしれないがとんでもない。

 この学校の文化祭は兎に角すごいのだ。


 まず規模が違う。

 この学校の文化祭はこの街の1つの大きなお祭りと言ってもいい。

 それにクラスごとに配られる資金は何と驚異の50万円。

 何でも市や町内会がお金を持ってきてくれるらしく、学校の負担は殆どないらしい。


 そして50万もあれば大抵の事ができる。

 だから毎年文化祭シーズンは盛り上がるのだ。

 かく言う俺も文化祭のためにこの学校に入ったと言っても過言ではないのだが。

 だってこの学校の文化祭って3日間あるから、その間は勉強しないで済むからな。


「静かに! これから文化祭の出し物を決めよう。何かいい案はあるかい?」


 光輝がそう言った瞬間にクラスの7割位が手を挙げる。

 コイツら授業中は1ミリも手を挙げようとしない癖に現金な奴らだな。

 まぁ俺もその中の1人なのだがね。


 だって文化祭だぞ?

 それに俺にとっては10年振りなんだ。

 異世界でも祭りはみたいなのはあったけど、そんなの目じゃないくらいにここの文化祭は楽しいからな。

 多少テンション上がっちゃってもいいじゃない。


「俺はジムがいい!」

「……それはやめておこうね?」

「なら何でだよ光輝!? なぁ隼人、お前もジムでいいよな!?」

「絶対イヤ」

「のおおおおおおお!!」


 将吾がそんなバカな事を言ったため、俺と光輝は速攻で却下する。

 誰が文化祭でそんなキツイだけの出し物なんてやるんだよ。

 きっと殆どの奴らがやりたがらないと思うぞ。


 一瞬で却下されたことにより将吾は見るからに落ち込んでいるものの、気を取り直して他の意見を聞く。


「俺メイド喫茶がいい!」


 そんな1人の男子の発言に、一気に男子生徒は沸く。


「俺もそれがいい!」

「「「「「俺も!」」」」」

「何たってこのクラス学年一の美少女が2人も居るんだからな!」

「それにこのクラスは美少女が多い!!」

「「「「「「「「おおおおおお!!」」」」」」」


 男子は女子のメイド姿を想像して盛り上がる。

 まぁ確かにこのクラスは他のクラスに比べても顔が整っている生徒が多いのは事実だ。

 一体なぜなのかはさっぱり分からないが、もしかしたらあの忌々しい神がクラス分けを弄ったのかもしれない。


 大盛り上がりする男子にまるで対抗するように女子たちも意見を出し始めた。


「私は執事喫茶!」

「私も!!」

「このクラスには光輝君とちょっと残念だけど顔はいい隼人君がいるからね!」

「後筋肉フェチの人には将吾君がいるもん」

「絶対繁盛するよね」

「「「「「「「ねー」」」」」」


 女子は男子とは違い、店の売り上げまで考えていた。

 やはり男子のほうが精神年齢が低いと言うのは本当なのかもしれない。

 それは別にどうでもいいのだが、ただ1つ言わせてもらいたい事がある。


 ……おい、今俺のこと残念と言った奴出てこい。

 俺の必殺―――音だけ五月蝿い痛く無い鉄拳を喰らわせてやるから。

 そんな事を思案しながら軽く拳を握っていると光輝が小声で「やめときなよ」と言ってきたので諦めるとしよう。


 その後も色々な案が出たが、やはり1番人気は定番のコスプレ喫茶だった。

 男子は女子の、女子は男子のコスプレが見たいんだと。


 やはり今時の高校生には人気なのだろうか?

 俺は精神的には大人なのでそこまで嬉しいとかは……思うな。

 大人でもメイド喫茶に行く人は普通にいるだろうし。


 だが俺は見るのはいいがやりたくは無い。

 此処は全力で女子のコスプレにしようと思う。

 クラス委員にもちゃんと意見を言う権利はあるので全面的に男子を支援する。

 

「えっと俺は―――」

「どちらもやればいいんじゃ無いのかしら?」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」


 クラスのほぼ全員が声を上げた人に頭を向ける。

 そこにいたのは先程俺を大いに困らせた宮園だった。


「(げっ……宮園……)」


 俺は自分の顔が引き攣るのを感じていた。

 何故なら……


「(ふふっ……貴方も道連れよ)」


 したり顔をしながら俺に向けて口パクでふざけた事を抜かしてきたからだ。

 それにこの言葉を否定する者など―――


「まぁそれなら良いか……」

「自分だけやるよりはマシよね」

「コスプレを見る対価とでも考えよう」


 全く居ないからだ。

 この案は二つの案の妥協策だから誰も反対などしないだろう。

 それに何人か居たとしても、


「なら今回はメイド・執事喫茶にしようか」


 光輝の一声で反対意見など失せてしまうからだ。

 もう俺が何を行った所でこの意見を変えることは出来ないだろう。

 どうやら俺は27にもなって執事のコスプレをしなければならなくなった様だ。

 執事とか全く柄じゃないのにな。


 俺はせめてもの反抗として案を出した宮園を睨んでみたが、涼しい顔で流されてしまった。


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