第3話 落第勇者、スキルを試す

 俺は取り敢えずぼたぼたと流れる鼻血を拭いながらベッドに戻る。

 

「はぁはぁはぁ……まさかスキルが使えるとは……」


 間違いなくあの時俺は【感知】スキルで病院の全てを感知した。

 体は10年前に戻っているのに、スキルの熟練度は変わっていないんだろうか。


 スキルには表示などはないが、熟練度と呼ばれるものがあった。

 これはどれだけそのスキルを知り、最大限の力を引き出せるかを表し、例えD級のスキルだったとしても、熟練度がMAXならC級にも劣らない様になる。


 因みに俺のスキルに対する熟練度は【感知】が90%、【身体強化】が100%だ。

 【感知】は人間の体では100%の力を使うことは不可能だった。

 もし使おうとすれば脳が破裂して死んでしまう。

 【身体強化】は、MAXで使っても体がボロボロになるだけで、高等回復魔法を使ってもらえば問題なかった。


 ……なら【身体強化】も問題なく使えるのだろうか?

 【感知】が使えるならこっちも使えるよな?


 こっちは日常生活でも結構活躍しそうな気がするので使えていて損はない。

 俺は1番弱く発動させてみる。


「【身体強化:Ⅰ】


 すると―――案外簡単に発動してしまった。

 見た目的には何も変わらないが、先程は歩くのも大変だった体に力が満ち溢れている。

 今なら2回転バク宙すら出来そうだ。


 俺はベッドから降りて軽くジャンプしてみる。

 すると天井に頭がぶつかりそうになってしまい、ギリギリの所で空中で一回転し、天井を軽く蹴って地面にスタッと着地する。

 どうやら体の使い方も染み付いているようだ。


 しかしそんな状態は長く続かず……


「……痛いなぁ……幾ら何でも俺の体貧弱すぎだろ」


 僅か30秒ほどで体が貧弱すぎて筋肉痛が発症してしまった。

 全身ギチギチで痛い。


 その後は大人しくベッドに体を預けながら色々と試してみた。

 今の自分がどれくらいの強度に耐えられるのかや、異世界の時とどれくらい身体能力が落ちているのかなどなど。

 【感知】は自分の体の感知のみを行った。

 たった病院の全てを感知したくらいでこれ程の症状なので、今の俺が使うには速いと感じたからだ。

 ただその代わり自分の体がどれくらい貧弱なのかがよく分かった。

 しかしどうやら勇者の身体スペックを引き継いでいるらしく、何日か経つと異世界の2年目相当のスペックに戻ったのは嬉しい誤算だったが。

 

 しかし身体強化を使っていた途中で医師たちが来た時には本当に焦った。

 いきなり筋肉痛になった事をバレない様にしないといけないし、鼻血が出たのも誤魔化さないといけなかったから。

 まぁ結局鼻血のことは普通にバレたけど。

 

 そして記憶の件は「混乱してたからおかしな事を言った」って事にした。

 ちょっと苦しい言い訳かもと思ったが、偶に記憶が混同してそんな事を言う患者も居るらしく、思った以上に特に怪しまれる事は無かった。

 偶に居る患者って俺と同じく異世界転移経験者じゃないかと思ったけどね。


 その後俺の体は筋肉痛な事以外特に異常はなかったので1週間経った今日、遂に退院となった。

 外には俺の家族が車を停めてくれていると医師が言っていた。


 しかし待ってくれている家族には少し申し訳ないが、俺は病院の外に出る前にグルグルと無駄に病院を回る事にした。

 一度感知したこともあり、病院の構造は熟知している。

 なのに何故病院内を回るのかと言うと、光輝に会うためだ。

 

 しかし俺が感知した時に光輝が居た場所には違う病人が居て、他のクラスメイトもいなかった。

 看護婦に聞いてみた所、どうやら俺がクラスで最後だったらしい。


 光輝が居れば感謝を伝えようと思ったんだけど……。

 アイツのお陰で俺はこの世界に帰還できたと言っても過言ではない。

 だがまぁ、また直ぐに会えるだろう。

 学校同じだし、毎日一緒に行ってたし。

 その時はついでに異世界での事とかも色々聞いてみよう。

 会うとしたら……5年ぶりくらいか。

 最後に会ったのは光輝が魔王討伐の旅に出る前だったし。


 あの時はお互いに目の前のことに必死で禄に話すことが出来なかった。

 当時俺はやっとB級冒険者として仕事を始めれていた時で、光輝は魔王討伐への長い旅に出る前だったが、あの時の光輝は既にS級に届くほどの実力を持っていたはずだ。 

 魔王討伐の時には一体どれくらいの力を有していたのか……。


「早く会いたいな。そして結局誰を選んだのかも聞きたい所だ」


 俺的には幼馴染みの少女を選んでくれていたら嬉しいと思うが……案外選んでいない線もあるな。


 あのムカつくほど良い奴の顔を思い浮かべて小さく笑みを溢し、俺は看護婦にお礼を言った後で踵を返して病院を後にした。


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