第9話:ミツオシエのささやき 上

 Tレックスを見下ろしながら、こう思った。

 血を集めれば棒が立つ。母を思えば流される。生地厚ければ窮屈だ。とかくにチンポジはむずかしい。


 どうもどうも、相も変わらずど下ネタから始めたがるティガ君です。このところネタが枯れてきたので、けっこう困っていたりします。


 で、そんなティガくんあらため僕は外出禁止なミサキちゃんのもとをはなれ、ある女の子にお願いにいっていました。


「ねえ、キミ。五万でどう?」


 悪役貴族な僕はとてもゆうふくなので、こうやってパパになるのが得意だったりします。でも最近、ケータイの通信費が高くなりすぎたせいで実家からの仕送りがとめられてしまいました。


 え? まさかオマエ、親の金でパパ活してんのかって?


 はは、やだなあ。僕はヒキニートを極めた男だよ。イモリの親戚にして味がなくなるまでカジカジするオシリカジリの近縁種なんだよ。パパ活代どころか、家賃も光熱費、年金まで払ってもらってるよ。どうだ、おそれいったか!


 ごめん。言っててむなしいです。こどおじですらないんです。追いだされたんです、家から。でも、玄関のまえで丸一日土下座して月々のお小遣いをねだってるんです。


 でも、こんなカスでも言いたいことがあるんです。これだけダメダメな僕でも、


「逝ぎたいっ!」


 ときがあるんだと。うん、ごめんサイテーで。というか僕、仕送りしてもらってる親の顔も知らないんだけどね。


 メルボルン家からのお手紙にまいっている僕は、なんだかくるしい現実から逃げるため、アチョといっしょになってこれから土下座するのだった。まる。


 しかし、土下座ってヤバいよねえ。なんだかよくわからない中毒性があるんだ。ああ、これが底辺の味か、みたいなね。人というステージから綱なしバンジーをやっている気分なんだよ。わかるかな、これ?


 ま、その前に土下座までの経緯をはなしておかないとね。そうなるまえの前日譚を、僕の妄想一〇〇パーセントでお送りします。


「え、ええっ。い、いいのかな、そんなの」


 と、とてもこまったようにワタワタしていたのがマイスイートエンジェルだ。


 それはミサキちゃんの病室で決意をあらたにした帰り道。童貞根性丸出しな僕は、


「ちょっといいですか?」


 と、ショタみたいな声で彼女の袖をひくと、伝説の桜の木のしたであることをお願いしたのだ。


 正直、とてもひどい告白だったと思う。というか前代未聞だろう。


 でも、彼女はエンジェルスマイルの下に隠されたどすけべサキュバスボディをたゆんたゆんさせながら、


「でも……」


 とかいってとてもとても悩んだあと、こくんと恥ずかしそうに首をたてに振ったのだった。


 はい、妄想おわり。なんだかとてもエチエチだね。ま、全然色っぽい話じゃないんだけど。


 そして僕とアチョは彼女といったん別れたあと、食堂のあたりで時間をつぶしていた。


 うーん、それにしても誰も話しかけてこないねえ。主人公くんでさえ僕には興味がないらしい。


 というか、最近の主人公くんは僕たちにちょっかいをだす回数があきらかにへっていた。歯ごたえがないから飽きたのだろう。まあ、撃退したといってもボロ負けみたいなものだったしね。


 代わりなのか夜遊びにお熱みたいで、クラスの女の子に声をかけまくっている。


 今もそうだ。ぜんぜん成功してないみたいだけれど、超がつくほど強引なせいかな。気の弱めな女の子とBぐらいまではいったらしい。あと、舎弟をつれている姿もみた。意外と人気もあるみたいだ。


 やっぱりこの世界、強さが正義だった。ぐすん、くやしくなんかないもんっ!


 とか、ひとりツンデレごっこをしていると、ふと入り口のかげでちょんちょん手招きする女の子をみつけた。


 ナインちゃんである。彼女、仕事が早いなあ。


 僕たちは立ちあがると、つれられるまま普段あまり使われていない準備室にむかった。


 女子高生、放課後、誰もいない準備室。このまま大人の階段を登れちゃいそうな単語だらけだけれど、残念ながらそうは問屋がおろさない。


 だって、この部屋には僕たち以外にもうひとり、ぜんぜんお呼びじゃないけど呼んじゃった男が登場するんだから。


 部屋へ案内したナインちゃんは鍵をかけると、むっつり腕を組んで待つ男を紹介した。


 精悍にも髪をかりあげ、なんだかスポーツ青年風のこの男を僕はまったくみたことがない。それはそうだ。だってこの男は僕たちと別学年、この中間試験をダンジョン側としていどむ「先輩」なのだから。


「お前らか。ダンジョンの詳細な配置図が欲しいとか言ってるのは」


 と、開口一番そう彼は言った。ま、ぜんぜん聞いてなかったけど。うん、ごめんね。でも、僕のポンコツ脳内メモリはモブNPCにさけるほど容量がないんだ。


 でも、これでわかったかな。僕がナインちゃんに何を頼んだのか。


 そう、僕はまるで過去問をもらうみたいに、チェックポイントや敵の配置、罠の位置などを直接教えてもらおうとしているのだ。


 クズだね。ゲームでもできなかった方法だね。


 でも最近この世界のことが現実に思えてきている僕は、なんだかとってもひどい裏ワザみたいなことを思いついてしまったのだ。


 その前にいったん中間試験について整理すると、僕たち一年生が侵入者側、上級生が防衛側としてたたかうのは言ったとおもう。そこをすこし補足すると、これは『一年東組』対『三年東組』の対決なんだ。


 僕たち『チームミサキ』は『三年東組』がまもる十個のチェックポイントから指定された五つをさがす。『三年東組』は『一年東組』からチェックポイントをぜんぶまもる。


 もちろん、会場がいっしょだから三年生の別のクラスとたたかうことはあるけれど、そこに意味はない。あくまでも僕たち同じクラスの先輩後輩の対決なのだ。ま、主人公くんとか例外はあるけれど。


 で、そこで僕は考えたわけだ。同じ地域出身なんだから、学校外の知りあいとかいないかなって。


 まあふつうだったら絶対に教えてくれないんだけれど、こっちには大天使ナインちゃんがいる。ゲーム制作者には完全想定外だろうけれど、何度もいうようにこれは現実だ。そして現実で卑怯なんかいうやつは負け犬なのである。


 そして見つけたのがこの男だ。まあ僕はお願いしただけで探したのもつれてきたのもナインちゃんなんだけど。


 そんな僕らの救世主は、とてもぶっきらぼうに懐から一枚の紙をとりだした。


「これは極秘だ。扱いには注意しろ」


 うやうやしくそれを受けとった僕は、ナインちゃんといっしょにのぞき込み、そしてぱあっと顔をあかるくさせた。


 そこには、知りたかったチェックポイントのおおまかな位置が記されていた。クラスでつかっている軍略図だろうか。巡回ルートなどもこまかく書かれてあった。


 僕たちは顔を見合わせると、両手を握りあって飛びあがった。


「やった、やったよメルボルン君! これがあれば私たちっ!」


 ぽよんぽよんぽよよよよん。圧倒的戦力という名の暴力にさらされる僕は、なかば混乱状態にありながらも満足げな笑みをうかべていた。その性能っ、連邦の新兵器はバケモノかっ!


 まあでも彼女は正しい。だって罠の配置は完璧だし、主な迎撃予定地なども書いてある。彼の担当する場所にいたっては侵入する方向、攻撃すべき時間帯まで指導してくれている。いたれりつくせりの内容だった。


 はあ、ありがたやありがたや。神様、仏様、ナイン様。これさえあれば、僕たちチームミサキもゲームオーバーになって身売りせずすみます。ああ、祈りは通じるんですね。


 感極まったみたいな涙目のナインちゃんをみながら、僕はおもった。



 ま、これニセモノなんだけどね。



 僕はどさくさにまぎれて彼女に抱きつきながらも、賢者モードで紙切れをみた。


 この前にも言ったけれど、この大天使ナインちゃんは裏切り者だ。主人公くんが表だとすれば、彼女は影のフィクサーなのだ。僕たちチームミサキをジャマしている張本人なのだ。


 いきなりこんなことを言われても信じられないと思うから彼女の背景から説明するね。


 昔、彼女が大貴族出身のとてもすごい子だということは言っただろうか。実はそれ、正確じゃない。正しくはあとから大貴族になったのだ。


 テンプレといえばテンプレなのだけれど、彼女は御当主さまと使用人のあいだにうまれ、幼いころはスラムで暮らしていた。でも跡継ぎがいなくて呼びもどされた、みたいな子なのである。


 つまり、彼女はメインヒロインのミサキちゃんとは真逆。平民から貴族になった、いわゆる裏ヒロインというやつなのだ。


 そんな彼女の特徴は、天使みたいなやさしい外面でも、サキュバスみたいな身体でも、貴族として受けた教育でもない。


 他者をねたんでやまない、そのゆがみにゆがみまくった性格だ。


 子供時代の影響だね。ほめられた生まれじゃないので力はよわいし、だから家の人にもネチネチいわれる。母は父に夢中で彼女にかまいもしなかった。そこに、ふるい友達からあびせられた嫉妬のまなざしがトドメとなったのかな。


 表向きには大貴族のご令嬢な自分、

 裏では冷遇されている庶子な自分。


 その強烈なギャップが、そんな反目するふたつの立場が、彼女のゆがんだ自尊心をはぐくみ、ひとつの結論へとみちびいたのだ。


 ——だったら本当にひざまずかせてやる、と。


 でも、まともにやったら勝てない。この世は実力主義だ。度をこえた血統、才能主義の世界だ。権威や財、容姿なんてこれっぽっちも役にたたない、怪物ひしめく武と智のるつぼなのだ。


 強ければ官軍。強ければ許される。強さこそが正義。


 それにくらべ彼女のなんとはかないんだろう。もろい庶子という土台、女の肉体、まざってながれる凡夫の血。なにもかもが、高邁なる野望をゆるさない。


 だから彼女は考えた。幸運にも、考えるチカラが彼女にはあった。徹底的に考えぬいた。


 そして、決めた。


 引きずりおろせと。


 自分よりすぐれた人間を、ことごとく地に引きずりおろせばいいと。


 そのためならなんでもすることを誓った。金はぜんぶ美容につかった。鏡を毎日みて、カンペキな笑顔を練習した。極度の面食いを押し殺して、できるだけブサイクにやさしくした。うす汚れたぼろ雑巾に天使の微笑みで手をさしのべた。


 すべては他者を踏みにじるため。いったいどこに、どんな弱みがあるのか見逃さないため。


 今回の件もそう。


 チームミサキが妙にたくさんおそわれるのも彼女が僕たちの進路を報告しているからなのだ。つまり彼女は、コネというコネを利用して才能をみとめたミサキちゃんを妨害し、さらにはそんなダメダメチームに尽くすことで献身的な自分をアピールしているのだ。


 見た目天使で身体はサキュバスなナインちゃんなのだけれど、こんなふうに性格はドグサレブスで、その本性は大魔王サタン様もびっくりな承認欲求モンスターなのだった。うーん、ぐう畜。


 たぶんだけれど、この地図唯一正確なこの男の担当箇所とかいうウソの場所に『三年東組』が全員集合しているんだろうなあ。そりゃ、向こうも楽だもんね。絶対くるってわかってたら。


 僕は察しがいいのだ。だって今もナインちゃん、みえてないとおもって般若みたいな顔になってるし。あ、それは僕が抱きついているからですか。そうですか。


 でもこんなこといいながら正直、彼女のことがキライじゃなかったりする。


 だってこの子。真のハッピーエンドは主人公くんとのラブラブエンドでなければ、悲願のザマァ展開でもなく、なんとミサキちゃんとの戦友・百合ックスエンドだったりする。ちょっと寂しがり屋なだけなのだ。


 そしてミサキちゃんボイスを切ったうえで、その百合♡百合ワールドで三回はヌいている僕としては、彼女のエンジェルスマイルを曇らせるのはオッケーでもあんまりキライになれないのだった。なんなら好きなぐらいだった。うーん、男ってバカだねぇ。


 そんなサロメみたいな畜生系女子がナインちゃんなのである。どう、好き?


 そうして僕は、彼女にバブバブして曇らせまくったあと、その破滅にみちびく地図を大切そうにしまったのだった。


 え? なんでだって? はぁ、わかってないなあ。言ってるでしょ。僕はやる気がないんだって。だからこれでいいんだよ、これで。


 最悪、土下座すればいいんだから。世の中それでまるく収まる。


「でも、いいんですか?」


 でも、僕は礼儀というかもはや儀式みたいな感じで一応たずねておいた。この会話、いみねーな。


 でも、このアンポンタン君はめちゃくちゃふつうにボロを出しやがった。


「ナインさ……そこの女から対価はもらっている。それに後輩が消えるのは忍びない」


 ちょっとチミィ、演技がお大根さまじゃあるまいか? ほら、ナインちゃんも眉をひそめてる。


 今のやりとり、このアホなアチョでもキミをあやしく思っちゃうぞ。とおもってアチョをみると頭のうえのヒヨコをさがしていた。うーん、アホ。


 しょうがないので僕は気がつかなかったフリをして、


「センパイ、素敵っ!」


 みたいな感じで目をウルウルさせておいた。ナインちゃんからの好感度がまた落ちた気がするけれど、僕は自分の女優っぷりに満足していた。


 で、なんだかんだ注意とかを聞いたあと、僕たちは解散することになった。一応用心のため、一人一人時間をあけて出ていくことを提案する。


 レディファーストということでナインちゃんを送りだすと、


「またね」


 と、彼女は手を振って去っていった。しばらくして、さあそろそろとおもったとき僕は鼻息荒い先輩に壁ドンされた。こういう趣味ないんだけどなあ。


 でも無能先輩は、そんな僕のことなどおかまいなしにとてもコワイ顔で凄んできた。


「お前、ナインさま……彼女とどんな関係なんだっ!」


 うわ、たしかにフィッシュしようと思ったけどかかりすぎだろ。ふつうに敬称で呼んじゃってるし。そしてまったく付き合ったりはしてないけれど、そもそも今日のキミ〇点だったからね。


 でも彼は、気安く触っていい相手じゃないとか、彼女は素晴らしい人なんだとか、聞いてもいないことを言ってきた。こわ、信者かよ。


 まあでもどうやらナインちゃんのことは学園にくる前から知っているらしい。そりゃそうか。だからアイドルに洗脳されたみたいになってるんだな。


 なんだかちょっと楽しくなってきた僕は、


「あなたこそ、彼女のなんなんですか?」


 みたいな、ちょっと生意気そうな間男を演じてみた。別に今は付き合ってないけれど、平民のお前に関係ある? って感じね。あと、内心ビビってるっていう調味料をフリフリしておいた。超楽しい、これ。


「ふん。冥土の土産におしえてやる。これだ」


 そう言って、彼は胸元から安っぽいペンダントを取りだした。てか冥土の土産って。隠す気ある、キミ?


「これは彼女がくれたんだ。本当に信頼できるのは俺だけだって言って。いいか、わかったな。もう二度と近づくなっ!」


 いやいや、そんな安っぽいペンダントで絆されないでよ。知ってるよ。それ、市場の百均みたいなところで売ってるやつでしょ。もっと冷静になったほうがいいよ。キャバ嬢に入れあげてるリーマンみたいになってるから。


 僕は真っ赤になって怒鳴る無能先輩をみながら、そんなことを思った。うーん、ナインちゃん。ナチュラルに悪女やってるなあ。でも、もうちょっと丁寧にやってあげてもいいんじゃないかなあ。これじゃ無能じゃなくてピエロだよ。ちょっと同情しちゃうよ、僕。


 彼女のドクズっぷりをあらためて実感したところで、僕は肩をおおげさにすくめた。


 もういいか。めんどくさいし。


 土下座だ、土下座。


 知ってる? 土下座はすべてを解決するんだよ。


 DOGEZA。世界共通語だしね。


 ——するの、僕じゃないけど。


「アチョ」


 僕は指を鳴らした。反応は激烈だった。それは事前に決めていたことだった。ボーとしていたアチョがすっ飛んできた。


 油断していたのだろうか。あっさり片羽締めの体勢にもっていかれた先輩は、ブクブクと泡をふきながらアチョの腕を叩いている。


 僕はそれを死んだ魚の目でみる。


 やっぱ無能だな、こいつ。アチョを警戒しろよ、アチョを。僕がやる気なさそうなのはみてわかるだろ。あとくさい口ちかづけんな。


 ころころと彼の大切にしていたペンダントが転がってくる。僕はパンパンとほこりをはらうと、彼の目のまえでしゃがみこんだ。


「一度しか言わないのでよく聞いてください。本当のチェックポイントはどこです?」


 僕はアチョに首をゆるめるよう言うと、地図を差しだした。


 とても人がしていい色ではない真っ白な顔の先輩は、おおきく何度も咳きこむと、ツバを飛ばしながらいきおいよく叫んだ。


「お、オマエっ! なにを——!」


 パチンと指を鳴らす。言ってんだろ、一回しか言わないって。話聞け、話。


 また首を絞められた無能がブクブクと泡をふく。僕はツバをつけられた腹いせに顔をおもいっきり蹴った。あ、歯折れた。いたそう。


 僕も前世で一度、前歯を折ったことがあるからわかる。自転車を漕いでいた当時の僕は、踏切が降りてきたことにおどろいておもいっきり転んだのだ。で、前歯ボキ。超痛かった。……そこっ、ド陰キャとか言わない。


 まあ、かわいそうだし待ってあげるか。でもオエオエはつづけるね。気絶しないぎりぎりぐらいのところで止めたりして遊んでいると、十回目ぐらいで彼は泣きついてきた。


「——う、ウソなんて、ついてないっ。ほ、本当だ。信じてくれっ!」

「ご主人っ! 本当だって言ってるぞっ!」


 なわけないじゃん。ケツアナ確定させんぞ。


 しかし、どうも尋問ってのはめんどうくさいなあ。嘘はわかっても、本当のこと言ってるかわかんないし。ウソ発見器とかないのかなあ。ないか。現代でもちゃんと訓練を受けた人じゃないと使いこなせないらしいし。


 なんだかどうでもよくなってきた僕は、はぁとため息をついて立ちあがった。


 アチョにもっと強めろと言う。さっきから無能くんの抵抗が弱々しくなっている。もうちょっとかな?


 でも、何も口にしないところを見るとまだ余裕はあるみたいだ。腐っても候補生だしね。僕はもっともっと強くするようアチョに言った。


「ご主人っ! それじゃ死んじゃうぞっ!」


 アチョはなんだかとても焦ったような顔で言った。


 はぁ。やっぱりアチョはアホだなあ。そしていうまでもないけれど僕はとてもやる気がない。そしてやる気がないから考えたりするのもニガテだ。だからウソもあまりつかない。めんどくさいからだ。だれかにウソをついて、それが得になるということを考えることさえイヤなのだ。


 そして何度も言っている。僕は屑だということを。


 それは正真正銘本当のことなのだ。僕の自己評価がどれだけ正しいか自信がないけれど、それだけは神に誓っても本当のことなんだ。空が青いように、雲が白いように、天変地異がおこっても不変でありつづける真理なんだ。真理とは止揚だ。アウフヘーベンなんだ。なら、そこにあやまりはない。そんなの、小学生だって知ってることだろう? ま、アホに期待するほうがバカなんだけれどね。


 なんだか僕の目をみた無能くんの顔色が急激にわるくなった気がする。だからさあ、遅いんだって。即断即決、こんなの常識でしょ。


 僕は彼が大切にしていたペンダントを踏みつぶすと、あくびをしながら言った。


「だから?」


 さっさと殺せよ。オスなんて四、五匹減ったところでなんだっていいだろ。


 もう忘れたの?


 言ったはずだよ。僕は『悪役』貴族Tレックスだってさ。



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