第六話 人材って人財って言うほど得難いものだよね
「手伝いですか。……お言葉ですが、上様は以前、忍びなど卑しい存在。奉公衆として傍にありたいのなら武士らしくせよとのご下命でした」
和田さんを指揮官なんて勿体ないと思ってたら、原因は俺か!
まったく! なんてことを! 忍者はロマンですよ!
「上様は、今の状況を嘆かれ、幕府再興のため新たな取り組みを計画されているのです」
藤孝くんがさり気なくフォローしてくれる。
俺もその流れに乗るべきだろう。
意識が入れ替わった整合性もつくはずだし。
「申し訳ない。俺は心を入れ替えた。今の幕府は弱く脆い。人材も少ないし、金もない。兵もいない。幕府が強くなるためには、今いる人たちの力で何とかしなきゃならない。和田さんの力も貸してほしい」
「……はい。上様がそうおっしゃるなら、そう致します」
いやはや。危なかった。
俺が見限られる前に是正できて良かったよ。
忍びとしての技能は封印させて武将として働かせるなんて宝の持ち腐れ。
武将としても有能かもしれないけど、優秀な武将は探せる。
でも忍びとして腕も良くて、信用も出来て、なんて見つかる気がしない。
和田さんは、長く幕府のために尽くしてくれているらしいし、その忠義には報いらないと。
無理矢理、働かせるだけ働かせるブラックな環境は根絶せねば。
働きには対価が無いとダメだよね。
「ありがとう。長らく無理をさせてしまって、すまなかった。和田さんの働きに報いたいんだけど、何か望みはあるかな?」
「……いえ。そのお言葉だけで身に余る光栄にございます」
うーむ、何となく壁を感じる。
言葉ほど、和田さんは心を開いてくれていないようだ。
今までのことがあるから、それも仕方ない気もするけど、このままじゃいけないのは間違いない。
みんな、会社にガッカリして辞めていった。
和田さんの雰囲気も少しそれに似ている。
「じゃあ、困ったことはない? 和田さん自身のことだけじゃなくて家族のことでもいいし」
「は……さすれば……我ら甲賀衆をお助けくださいませ。甲賀は山間の狭き平地にひっそりと暮らしており申す。碌に食えず、出稼ぎに大名に雇われても使い捨てにされ、男手はどんどん減っており申す。このままでは家を維持できませぬ」
「そうなると和田さんを頼ってくるんだね」
「左様にございます。しかし、和田家も苦しく支えてやることが出来ませぬ。服部も先代将軍様がご存命のうちに、三河へと流れて行ってしまいました」
ん? 服部って言った?
忍者の服部って、もしや服部半蔵じゃね?
確か徳川家康の家臣だったよね。
「服部半蔵? うちにいたの?」
「よくご存じで。当代は半蔵を名乗っております。
「服部半蔵は離れていってしまったのか」
「ええ、服部は足軽衆にも入れてもらえず、まともに給金を渡されておりませんでしたから」
「それ酷くない? 足軽って農民たちで構成する部隊でしょ。歴とした武士なのに足軽衆にも入れてもらえないなんて」
俺の知っている足軽と違うのか、藤孝くんも和田さんも不思議そうな顔をしている。
「いえ、上様。幕府の足軽衆は、他の大名の足軽とは違います。氏素性のはっきりした武士が、家を離れ、名誉ある将軍の直属の兵として戦うのが足軽衆なのです。なので、その……、服部殿は武士として認めてもらえず、上様がおっしゃったような雑兵のような扱いを受けていたようです」
「なんでだよ! 忍者なんて特別な技能を持った凄い人材じゃないか! それがどうして武士として認められないんだよ!」
俺の言葉を聞いて、驚いたように顔を上げた和田さん。
話し合いが始まってから終始厳しい顔をしていた。
しかし、その瞳は潤んでいて、今にも涙が零れてしまいそうだ。
「そのお言葉だけで甲賀の者たちは報われまする」
深々と頭を下げられてしまった。
ブラックな会社の社長だったら、じゃあこれからも頑張ってと言うのだろうけど俺にはそんな気さらさらない。
「駄目だよ、和田さん。ちゃんと報酬は払うから。今はお金ないけど、六角からでも何でもお金を引っ張ってきて、働きに報いるよ。朽木谷の人々に、匿ってもらっている対価を渡した後だけどね」
「それが宜しゅうございます。我らは食うものさえ困らねば多くは望みませぬ。我らを認めてくださる主に仕えられる幸せを甲賀の者たちにも味わわせてくだされ」
こんな真剣な言葉を受けたら、何とかしなきゃなんないよ。
「うん、頼ってくる人を守れるくらいにならないとね。そのためにも、世に平穏を取り戻して、皆が安心して暮らせる世の中を作らなくてはならないんだよな」
そうなれば俺が三好に殺される未来も回避できているだろうし、一石二鳥だ。
元々、将軍家の力を取り戻すつもりだったし、皆が幕府に期待できて、将来にも希望を持てるような世の中になれば協力してくれる人たちにも報いることができるかな。
やっぱり将来に希望や楽しみがあるって生活の活力だよね。
今なんて、いつ死ぬかわからない戦乱の時代だ。
こんな世の中が良いわけないって。
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