第9話

「――でも、それでも……やっぱり俺には、このやり方しかできないんだよ」

 けれど、目の前の人はそんな言葉なんて必要としていなかった。

「きっと、もう一度やり直せても同じように生きる。これ以外の生き方なんか分からない……無理なんだよ……」

 体を丸め、おじさんはうずくまる。

「俺はただ、笑顔が見たかった。喜んで欲しかったんだ。本当に、それだけだったのに……」

 とてもささやかな願いだと、ぼくは思った。

 それなのに、どうして叶わなかったんだろう。こんなにも幸せを願い、必死で生きたのに。

「亜佑美……」

 誰かの名前を呟く。きっと、奥さんのものなんだろう。


 ピンポーン……


 唐突に、チャイムが鳴り響いた。

 ぼくは驚き、おじさんは緩慢な動きで顔をあげる。

 コユキはゆっくりと振り返り、ドアを見つめた。

「え……っ、誰?」

「もしかしたら、会社の人間かもしれない。俺、今日無断欠勤になったから……ね」

 そっか。おじさんは独りで亡くなったから、まだ誰も知らないんだ。でも……。

 困ったことに、ぼく達にはあのドアを開ける術がない。どうしたものかと悩んでいると、鍵が差し込まれる音がした。

 固唾を呑んで見守るぼくらの前で、鍵が開けられ――開く。

 現れたのは、一人の女性だった。

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