第24話 苦労って

「苦労することは大事だ!すすんで苦労した方がいい!苦労は買ってでもしろ!苦労を避けるな!苦労しない人間はダメだ!苦労しないと人間は成長しないぞ!」


 こうした言葉は実によく聞かれるから、これを受けて……


「死ぬような目にあってみたい!死ぬほど苦労してみたい!」と。


 そして……


「あの苦労があったから今の自分がある!あの時、歯をくいしばって苦労に耐えたことで今がある!」


 こうした言葉もよく聞く。


 私はその人の顔を見るだけで、ああ、この人は苦労人だなとか、苦しい経験をした人なんだなって、ちっともわからない。


 それというのも、話を聞いて見ると、のんびり生きてきたように見える人が、意外に苦労人だったり、苦労を絵にかいたようにやつれて見える人が、お坊ちゃん育ちだったりすることもある。


 せいぜい自分としてわかりそうなのは、当たっているかどうかは別にして、この人は優しそうな人だなとか、厳しそうな人だなとか、いい加減そうな人だなくらいで、見る目がないと、人の性格はわかっても、苦労したかどうかまではわからない。


「あのときは本当にたいへんだったよ!死のうと思ったよ!」


 こうした人の苦労話を聞くと、素直にこの人はたいへんな経験をしたすごい人なんだなと思うこともあれば、その一方で、単なる自慢話じゃないのと受け取る人もいるかもしれない。


 それにしても、命にかかわるような経験って、一生を通じて、誰でもするものなのか?それとも、一部の人だけが経験するものなのか?


「じゃ、自分はどうなの?」って問うと、したかもしれないし……そうでないかもしれないし……


 ただ言えることは、「人に悟られるような疲れた顔はしたくない!」なんて言ってみたら、つっぱんてるんじゃないの……なんて言われそうだね。

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