第47話 翌朝

 次の日、起きると体には毛布が掛けられていた。


「あ、あれ!? ――そっか、もう手を離して大丈夫だった……」


 レイチェルと手を繋いでいないことに焦り、そして、自己完結をする。


 服を着て、姿の見えないレイチェルを探し始めた。


「いた」


 川の方へ行くとレイチェルの姿があった。


「おはよう、アレックス。一緒にどうかな? 冷たくて気持ちいよ」


 レイチェルは川の流れが緩やかなところで仰向けになって、水面に浮いていた。


 俺はレイチェルから目を逸らせなくなった。

 レイチェルが裸だったからだ。


「どうしたの? 昨日、あんなに見たでしょ」


「明るいところで君の裸を見るとなんだか、夜とは別というか、違う魅力があるというか…………」


 レイチェルの白くて奇麗な身体が水を弾き、陽の光を浴びて輝いている。


「あれ? どうしたの?」


 レイチェルが突然、川の中へ身体を沈めた。


「明るい場所で裸になっているのが恥ずかしくなってきたの。それにアレックスの視線が凄く嫌らしいし…………」


 レイチェルは俺に疑いの目を向ける。

 まぁ、嫌らしい視線を送っていたのは否定できないな。


「なんだか、私だけ裸を見られて損した気分…………」


「君が勝手に川へ入っていたんだろ。いつもと同じ自爆だよ」


「うぅぅぅ…………あっ、そうだ、アレックスも服を脱いで川に入ろうよ! 世の中の恋人がやる、って噂の洗いっこをしてみたい! お互いに身体を擦り合わせるやつ!」


「…………」


 何だか色々と悪化している。

 でも、そんなレイチェルのことが俺はたまらなく好きだった。


「朝食も作らないといけないし、体を洗うだけだからね」


 俺も服を脱いだ。


「わぁ! アレックスの、アレックスが、アレックスしている!」


「…………。昨日のしおらしい君はどこに行ったんだい? 君がそんな恰好をしているせいだよ」


「明るいところで見るとこうなっているんだね。小説に書いてあったのは本当だったんだ。本当にそそり立っている。よくこんな凶器が私の…………」


「あ~~、もう! そういうことは言わないでくれ!」


 俺は恥ずかしくなって、慌てて川の中へ入った。


「うわっ!?」


 慌てて川に入ったのがまずかった。

 足元の石が動いて、俺はバランスを崩す。


「危ない!」


 レイチェルが俺の腕を掴んで、支えてくれた。


「ありがとう」


「…………なんだか、やっぱり少し違和感があるね」


「うん?」


「アレックスと手を繋がない時間があるのがだよ。起きた時だって、川で水浴びをしたいから、ってアレックスを起こしそうになったもん」


「俺もだよ。起きた時、手を繋いでなくて焦った。今までずっと手を繋いでいたからね。今考えると一ヶ月くらいずっと手を繋ぎっぱなし、って凄いことしていたよね? それしか選択肢が無かったとはいえさ。正直、大変なこともあったし、気まずいこともあったよ。でも、レイチェルと一緒にいた時間は楽しかった」


「楽しかった?」


 レイチェルは少し不機嫌になった。

 

 なんで? と思ったがすぐにその理由を理解し、

「ごめんごめん、これからも楽しくなるね」

と答えた。


 するとレイチェルは笑う。

「そうでしょ」と言い、俺に抱きついた。


「おい、レイチェル、そんなにくっついたら……」


 俺は理性が飛びそうになった。


「朝食の前に運動する? アレックスも辛いでしょ?」


「いや、君、身体は大丈夫なの?」


 レイチェルだって、昨日は初めてだった。


「痛かったよ。今だって、何かが入っているような異物感があるし…………でも…………」


 レイチェルは顔を赤くする。

 昨日みたいにしおらしい君を見たら、俺は止まれなくなるぞ。


「性欲には勝てないからヤりたい!」


「………………」


 とても直線的な言葉だった。


「…………あの~~、官能小説で培った知識で、もう少し魅力的な言い方は出来なかったんですか?」


「ア、アレックス、どうして敬語になっちゃったの!?」


「さてと朝食を作るかな」


「あれ、アレックスの、アレックスが、オレックスしちゃった!?」


 !!?


「オレックスってなんだよ!? これ以上、変な言葉を作らないでくれるかな!?」


「どうして!? さっきまでやる気満々だったでしょ!?」


「それはね、君がとても頭の悪そうな言い方をしたから、冷静になったんだよ」


「そ、そんな…………一回、一回だけでいいから! 先っぽだけでいいから!」


「それは男側が言うような台詞だよね!? いや、言わないけど! …………今日中にセンドの街に戻る準備をしたいから、あまり時間はかけられないよ」


 しょうがないなぁ、という感じで言ったが、俺だって欲望に身を任せたい。

 昨日だけでは満足できなかった。


 レイチェルは嬉しそうに俺に抱きつく。


 それに対して、俺の体の反応は正直だ。


 結局、今日一日、俺たちは今の場所から動かなかった。

 いや、動くつもりだったけど、お互いに欲望に負けてしまって…………


 でもさすがにこれ以上、色欲に溺れるわけにはいかなかった。


 早く帰って、フリード様たちを安心させないといけない。

 クロエさんのことも心配だ。

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