第4話 目を覚ました勇者
俺はレイチェル様を背負って、枯れた森の外へ出る。
レイチェル様の強さを感じているのか、それとも呪いの気配を感じているのか、魔物には一切遭遇しなかった。
「疲れた……それに気を使った……」
レイチェル様を運ぶのは本当に苦労した。
気を失っているのもだが、手を繋いでいないと呪いが再発してしまう。
その為、俺はレイチェル様を運ぶ最中も今もずっと彼女の手を握っていた。
現在、俺は川の畔で食事の準備をしている。
料理の最中もレイチェル様の手を握ったままなので、調理にはかなり苦戦した。
それでも何とか干し肉と野菜の煮込んだスープを完成させる。
すでに日は沈み、辺りはうす暗い。
「うぅぅぅ…………」
レイチェル様が項垂れた。
「大丈夫ですか?」と俺が声をかけるとレイチェル様は目を覚ます。
「…………あなたは?」
「多国籍軍後方補給部隊所属のアレックス・ロードです」
俺が名乗るとまだ完全に覚醒していないレイチェル様は繋がれた手に気が付いた。
「………………!」
レイチェル様は驚き、咄嗟に手を放そうとするが、俺はその手を強く握る。
「すいません。無礼だとは思いますが、手を握ったままにいてください。そうしないとあなたの呪いが発動してしまいます」
レイチェル様は俺に言われて、自分の体の呪いを思い出したようだ。
「私は……私は……」
レイチェル様は泣き始めた。
「もし宜しければ、何があったか聞かせてくれますか?」
するとレイチェル様は泣きながら、何があったかを教えてくれた。
俺の予想は大体当たっていて、やはり呪いは魔王から受けたようだ。
それに魔王が消滅した今でも発動しているということは半永久的に呪いは続くのだろう。
解呪するか、それともレイチェル様が死なない限り、彼女は周りの全てから命を吸い取ってしまう存在だ。
「それにしてもなぜ、あなたは平気なんですか?」
自分のことを一通り話し終えたレイチェル様は俺に興味を示す。
「俺は異常なほど呪いへの耐性が強いんですよ。それに俺は触れている相手の呪いを止められるんです。昔からどんなに強い呪いも止められましたけど、まさか魔王の呪いにも効果があったのは驚いです」
「ということは、アレックスさんに触れている間、私は誰も殺さずに済むということですね」
レイチェル様はホッとしたようだった。
そして、安堵したからなのか、俺にも聞こえるほど大きい音で「ぐ~~」とレイチェル様のお腹が鳴る。
「えっと、これは……」
レイチェル様は顔を真っ赤にした。
こう見ると勇者ではなく、どこにでもいる普通の女の子に見えてくる。
「空腹になるのは生きている証拠です。俺が持っている食材で作ったもので良ければ、どうぞ」
俺は煮込んでいた干し肉入りの野菜スープを鍋からよそって、レイチェル様へ渡した。
「ありがとうございます」
レイチェル様はスープに口を運び、咀嚼し、微笑んだ。
「美味しいです。とても優しい味……」
「レイチェル様に喜んでもらえてうれしいです」
「あのアレックスさん、一つ、お願いをしても良いですか?」
「なんでしょう?」
俺はてっきり今後のことかと思ったが、
「私のことを『様』付けしないでください。それと敬語もない方がいいです」
「別に構いませんけど、理由くらい聞いても良いですか?」
「単純に嫌なんです。勇者とか英雄とか救世主とか、もっと言うと神みたいに扱われて…………うんざりなんです」
レイチェル様は本当に嫌そうな表情になる。
それを見て、俺は自然に笑ってしまう。
「分かりました。ただし、交換条件があります」
「なんでしょうか?」
「こちらが一方的に気軽な言葉で話すのは嫌なのであなたも同じように話してください。これからはアレックスと気軽に呼んでください」
俺が言うとレイチェル様は困った表情になった。
「実は私、誰かと砕けた言葉で話したことないんです」
「じゃあ、練習ですね。レイチェル様が気軽に話さない限り、俺もこの口調でいきますから」
俺が宣言するとレイチェル様は少しムッとした表情になる。
「アレックスさん、優しそうなのに意地悪です」
「違いますね?」
俺が催促するとレイチェル様は少し躊躇ってから、
「アレックス、優しそうなのに意地悪……これで良い?」
レイチェル様はぎこちない口調で言った。
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