03
少しずつ食事量も増え始め、今やスープ皿のパン粥を全部平らげるまでに進歩したのは、偏にイリザとハンクの献身的な介護の賜物だ。
療養の暇潰しに始めたウォーキングが実を結び、痩せこけて見る影もなかった身体には、薄らとだが脂肪と筋肉が付き始めていた。
最近は夜明け前に起床するイリザを手伝って同じ時間帯に起床して家畜に餌をやり、畜舎を掃除したあとはイリザと共に牛の搾乳をこなす。
日が昇りきるまでに無理のない範囲で手伝いながら毎日を過ごすうちに、エマの様子は見違えて好転し始めた。
それはまず、表情に顕著に現れた。
出会った当初のような緊張した硬い表情はなりを潜め、様々な作業を手伝いながらよく笑い、穏やかな表情をするようになったのだ。
おそらく…広大で穏やかな景色とイリザの優しい人柄が、心の
「さすが軍人さん、力持ちだねえ。助かるよ」
「小麦の束はこれで最後だが、作業はこれで終わりか?」
分析しながら、ハンクは畑から運んできた最後の小麦の束を倉庫に収納して額の汗を拭った。
「あとはエマに畑の水やりを頼んでたんだけど、いないねえ。……エマ〜…そろそろお昼だから、戻っといで!」
返事は、ない。
薄曇りの空の下、湿気を含んだ冷たい風が畑を吹き抜けていく。
……まさか、迷ったのではないか?
イリザはふと嫌な予感を感じて、掌を握りしめた。
そうだ。ここに嫁いできた時は自分も田舎に不慣れで、同じ景色ばかりが広がる畑で迷子になった事があった。
あの時の自分のように、
「あの子を探す…って、もういない。こらーっ、土地勘もないくせに突っ走るんじゃないよ!」
傍らを振り返った時既にそこにハンクの姿はなく、遥か彼方の畑の畦を走る背中が僅かに立ち並ぶ果樹の狭間から見えるだけだった。
「ったく仕様がないねえ。どうせ行先は一緒なんだから、私ゃゆっくり行くよ」
恰幅の良いイリザは、横に太い巨体をえっちらおっちらと揺らしながらハンクの後を追いかけるのだった。
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