第6話【VR?】いざ、もう一つの地球へ

 セイヴァー・オブ・ザ・アポカリスワールドは、攻略サイトどころかネット検索にすらヒットしない謎のVRゲームである。


 そのため数多くあるスキルの中、どれが良いスキルなのか、クリスも視聴者たちも判断しづらかった。

 サポートナビゲーターにも相談しながら、結局のところはクリスの直感で選スキル択することになった。


 そうして出来上がったクリスのステータスとスキルが以下の通りである。



 クリス:第1段階完全適合者(次の段階までEXP1000)

 ステータスポイント:0

 スキルポイント:30

 体力:30

 攻撃力:50

 耐久力:30

 敏捷力:30

 精神力:30

 器用度:30

 スキル:体術Lv2、気功術Lv2、回復術Lv2、第六感Lv2、隠密Lv2、気配感知Lv1、料理Lv1



 スキルを1つ取得するのにスキルポイントを10消費した。

 これはどんなスキルを取得する時でも一緒だと、サポートナビゲーターが教えてくれた。


 そしてLv2にスキルレベルアップさせるには、スキルポイント20が必要だった。

 取得したスキルレベルを1アップするには、次のスキルレベル×10倍の数のスキルポイントが必要になるシステムなのだ。


 スキルポイントは念のため30だけ残してある。

 欲しいスキルがあったらすぐに取得するためだ。

 または取得したスキルの中で実際に使用してみて使い勝手が良かったら、スキルレベルを上昇させるのに使用するためでもある。


・コメント欄

 名無し1   :ゾンビゲーなのにもろ近接戦闘タイプじゃん

 モノヅキ   :ゾンビに感染する可能性がないからこそですね

 鬼苺     :つーかクリスちゃんの名前の横に書かれてるのって何?

 名無し2   :第1段階完全適合者とはなんぞ?

 名無し1   :他ゲーでいう所のレベルみたいなものかな?

 モノヅキ   :ゾンビを倒してレベルアップするんですかね


「たしかに気になるのう」


《ゾンビウウイルスの適合者には第1から第5段階までの適合深度があります。どれだけゾンビウイルスに適合しているかの指標であり、ゾンビを倒すかクエストをこなしていくと、適合深度が高まりその身はより強化されます》


「なるほど。名無し1さんの答えで合ってるみたいじゃな」


《救世主は『ゾンビウイルス完全適合体質』を課金しました。他の適合者は第5段階の者でもゾンビウイルスの感染の危険はありますが、完全適合者となった救世主にはその危険はありません》


 課金の優遇措置が激しい話である。


 ゾンビウイルスに感染する危険がなく、死んでもすぐに拠点で蘇生されるので命の危険もない。

 中身はいつ死んでも不思議じゃないお爺ちゃんだが、ゲームの中では不死身の人間になったわけである。


「それなら課金をしとらんかったら、少し強い一般人にしかならん設計だったのじゃな」


 クリスが気付いたことを口に出した。

 課金しなければ、スキルを一つしか取得できなかったからだ。

 おそらく開発者側からしたら、それが狙いでもあったのだろう。

 初期ステータスポイントが10しかなかったのも頷ける理由である。


《ちなみに言うと課金は今回のみの仕様です。以後は課金は出来なくなりますのご注意ください》


 クリスの一言に反応して、爆弾発言を投下するサポートナビゲーター。 


・コメント欄

 名無し2   :ちょっ、今更の発言!!

 鬼苺     :課金し終えてから教えるとはな……

 名無し1   :クソゲー乙


「ナビさん。そういう事はもっと早くに教えて欲しかったのじゃ」


《課金せずに進むようでしたら教えるつもりでした。以後気を付けます。……ところでそのナビさんという呼び名は当方のことでしょうか?》


「毎回サポートナビゲーターと長ったらしく呼ぶのも面倒じゃからな。気に入らんかったら元の呼び名に戻すんじゃが」


《……いえ、構いません。これからも当方は救世主のサポートをしていきます。意志疎通が早くなるきっかけになるならば断わる理由はありません》


・コメント欄

 モノヅキ   :これはデレましたね

 名無し2   :まさかゾンビゲーじゃなくて、ギャルゲーだったのか?


 暇な視聴者たちが好き勝手な発言をしてくる。

 そんな彼らに対してサポートナビゲーターがぼそりと呟いた。


《うるさい外野ですね》


・コメント欄

 名無し1   :あれ? ナビさん俺らのこと認識してる?

 鬼苺     :それこそまさかな話だろ

 名無し2   :ゲーム配信の視聴者に反応するゲームキャラとかメタすぎるわ


 にわかにコメント欄が騒がしくなった。

 だがサポートナビゲーターは、それに気付いていないのか無視しているのか、クリスにゲームの進行を促してきた。


 その様子を中身お爺ちゃんのクリスは生暖かい目で眺めていた。

 孫たちの喧嘩も笑って見て済ませるお爺ちゃんである。


《これから救世主には、もう一つの地球――アナザーアースへと向かってもらいます》


「はて、もう一つの地球かの?」


・コメント欄

 鬼苺     :おい、なんか話が急に始まったぞ

 モノヅキ   :ゲームのプロローグ的なあれでしょう

 名無し2   :もう一つの地球でアナザーアースとかまんまかよw


 サポートナビゲーターが語った話の内容はこうであった。



『クリスたちがいる地球とは異なる時空にあるもう一つの地球――アナザーアース。

 地球と非常に似通った歴史を歩んできたアナザーアースに、ある日、流星群が降ってきた。


 その隕石は大気圏を突破して空中で無数の破片となると、各国の重要施設や軍事基地、または人が密集した場所を狙ったかのように落下したのだ。

 実はその流星群は外宇宙の侵略者からの攻撃で、隕石の正体はとあるウイルスが結晶化した生物兵器だった。


 そしてのちにゾンビウイルスと呼ばれる特殊なウイルスが人類に牙をむいた。

 落下した各地の隕石は有毒ガスを噴出し、瞬く間に世界中にゾンビウイルスが広がったのだ。

 ウイルスに侵された全人類は12時間だけ昏睡状態に陥る事になる。


 その空白時間に6割近くの適合率の低い者たちがゾンビに変異して、生き残った人々を襲うようになった。

 ゾンビウイルスは一部の適合者たちに力と異能をもたらしたが、同様に感染者であるゾンビたちも進化を遂げることになる。

 こうしてアナザーアースは地獄と化すことになるのだった』



「ありがちな話じゃな」


 よくあるストーリー設定だとクリスは思った。

 外宇宙からの侵略者というワードが、無理やりな理由付けには打ってつけだったのだろう。


・コメント欄

 名無し1   :なんかB級映画でこんな内容見たわ

 名無し2   :同意

 鬼苺     :たしかに。だけどこのVRゲームの情報は見つからないんだよなぁ

 モノヅキ   :あとは課金した『スタート地点選択』を使ってゲームスタートですかね


《救世主はアナザーアースを救うためにスペース・ロードより選ばれました。ですが先にも言いましたが、救世主の行動を縛る事も否定する事もしません》


「うむ。ほどほどに頑張って楽しむのじゃ」


 クリスは拳を握って頷いた。

 やる気十分である。


《それではこれから救世主はアナザーアースに行きますが、課金した『スタート地点選択』を使用しますか?》


「もちのろんじゃよ」


・コメント欄

 モノヅキ   :言葉のセレクトに年齢を感じさせますね

 名無し2   :それ以上、追及するなよ!

 鬼苺     :クリスちゃんはロリババア。それでいいじゃないか

 名無し1   :真実なんて闇の中へ消えちまえぇ!!


 視聴者たちの掛け合いを笑って見ていると、クリスの目の前に半透明の映像が出現した。

 1mサイズの地球がホログラムで空中に映し出されたのだ。


《まずはどの国からスタートするか決めて、その国をタッチしてください》


「もう一つの地球だけあって、地形もそっくりそのままなんじゃな。さて、どこがいいかのう」


・コメント欄

 鬼苺     :海外も選べるみたいだな

 名無し1   :別に日本でいいんじゃね

 名無し2   :けどゾンビ相手にアメリカで銃撃戦とか憧れない?


「ふむ。名無し2さんの提案も良いが、ワシは住み慣れた日本にするのじゃ」


 クリスが日本列島をタッチするとホログラムが拡大された。

 見慣れた日本地図が半透明な映像で浮かぶ。


《次は日本のどの地点でスタートするか決めてください》


「おぉ、これは本当に日本にそっくりなんじゃな」


・コメント欄

 名無し1   :うわっ、ストリートビューで詳しく見れるのかよ

 鬼苺     :いい眺めやな

 名無し2   :渋谷100とか店名が微妙に違うしwww

 モノヅキ   :スタート地点の選択を間違えると後悔しそうですね


 クリスは10分ほど視聴者たちと話してスタート地点をどこにするか決めた。

 その地点をタップすると、宙に浮いていたホログラムが消えた。


 同時に、クリスの意識が薄れてどこかに引っ張られる感覚がした。


《スタート地点の決定を確認。ここまでお疲れ様でした。次に目覚めるのは、隕石が落下して12時間後の時になります。それではセイヴァー・オブ・ザ・アポカリスワールドの世界を存分にお楽しみください》 

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