ダブルソウル

ぜろさん

第1話

 人間の魂は成仏するといったいどこに行くのだろう。天国や地獄、あの世、別世界、様々な書物に記されている。あれは、確かに正解であり間違いでもある。人間の魂は一度死ぬと現世に残るものあるが、大抵はこちらの世界とあちらの世界の間にある大きな渦の中でぐるぐるとその生きた年月に思いを馳せ、あちらの世界に行くのだ。


 夏の暑い日差し、夏休みまであと3日…。高校に入って先生の授業を受けてきたけど、今日ほど頭に入らないことはない。昼休みだというのに頭は全く回らない。

 龍ヶ峰高校りゅうがみねこうこう。ここは東京都心にある高校だ。校舎は新しく、進学校として開校しまだそれほど時は流れていないが、名門大学に多くの生徒を輩出している。

 「たける、夏休みになったら何する?」

 話しかけてきたのは聖矢せいやであった。いつも美味そうに弁当や購買のパンを食べる。食堂のメニューを頬張る姿はCMを彷彿させるのだ。ただ、今日は弁当のCMが流れている。

 「何って、何も決まってねーよ。とりあえず、ダラダラしたい」

 本心だ。何か学ぶでもなく遊ぶでもなく、アイスを食べて、ダラダラと過ごしたい。

 「武は相変わらず、つまんねーな。なんかこうあるだろ!海!キャンプ!花火!そして、彼女ほしいな!だろ!」

 「暑いのになんで、そんな元気なんだよ。謎すぎ。なんかコツとかあんのかよ。」

 なぜかその日のあの場面の他愛もない会話を覚えている。そして放課後には冷房の効いた図書館で勉強した。ちょうど春に入部した弓道部の顧問がいなかったので休みとなったからだ。そろそろ閉館時間が近づき、利用者が減った頃にその声は聞こえてきた。


 「ぼく思うんだけど、この時間まで1人で勉強してるのとか大丈夫?自分の体ながら心配だよ」

 「そうね。私もそう思う。何より交友関係が狭すぎると思うの。この子は面白い子なのに、ほんとほったいないわ」

 閉館前とは言え、こんなに大きな声で話すとは変な奴もいたもんだ。どことなく聞き覚えがあるような声ではあるが、一体誰だろう。

 武は気になり、ゆっくりと後ろを振り返る。通路があり、本棚が幾重にも並ぶだけで人の気配もない。この位置からはカウンターも見えないし、声も聞こえる距離にはない。勉強のしすぎと思い、ノートを閉じようとした時、目の前に人影を感じた。広いテーブルの反対側には、椅子にではなく、テーブルに腰を掛けるスーツを着た美女。その隣にはふわふわと宙に浮く、同じ黒スーツを着た男の子。

 

 あまりに奇妙な光景に時が止まり、まだ少し明るい窓の向こうにある雲や木々、太陽もこの事態を静観しているようにさえ感じた。そして、美女と男の子と自分、3人の目があった。それからどれほどの時が流れたろう。何もかもが止まり、動かない、動くことのできないそんな空間。まさにその静けさは図書館にふさわしいものであった。

 

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