とある企業の作業員になるはずだったけれど

ヴィジラント

第1話 研修生

 天気は快晴。

 辺りからは、金属音とエンジン音が響く中、とある工場の広い駐車場で朝礼が開かれていた。


「本日よりこの工場に配属された田場湖慧大タバコケイタと申します。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」


「はい、田場湖君は3ヶ月の研修期間中、第5サポート班にて研修するので、班長の柏木君あとは頼むよ」


「はい! 了解しました! じゃあ、田場湖くん着いてきて」


「はい。承知しました!」


 柏木さんと呼ばれた20代くらいの女性は、赤髪ポニーテール、オレンジのツナギを着ている。

 ツナギを着ていても胸部の膨らみが分かるほど、スタイルがいい人だ。

 なんだか良い香りのする柏木さんの後ろを着いていく。 


 車両や作業用ロボットが入り乱れる工場内を、歩道と地面に書かれた場所を通っていく。

 そのうち、舗装された道路がなくなり、雑草の生えた道になった。轍の部分だけ雑草がなくなり土が踏み固められている。


 そんな道の先に、ボロボロのトタンで出来た倉庫が現れた。

 どうやら、そこが目的地らしい。


 ちょっと歪んでいるドアの前に立った柏木さんが振り返った。


「ようこそ! ここが第5サポート班の作業場よ! これからよろしくケイタ君! あ、ここの作業場は基本的に下の名前で呼ぶから、そのつもりでね」


「は、はぁ。あの、班長の下の名前は何ていうんですか?」


「あー、私はいいの。班長って呼んで。そうだ、ケイタ君はいくつなの?」


「俺ですか? 俺は25です」


「あ、私より歳上なんだ。うーん、あの子が18だから……ま、何とかなるか! よし、中へどうぞ!」


 班長歳下なんだ。あの子って誰だろう?

 俺は少し首を傾げながら、歪んだドアを開き……ひら、かない。

 俺は振り返る。


「あ、ははぁ、このドア、コツはドアノブを持ち上げるように回すんだよ。ホラこんな感じ」


 ガチャガチャキィ


 歪んでるなら直せばいいのにという言葉を呑み込んで、班長の後について作業場の中へ。


 作業場の中には、ボディーカラーは元々イエローだったと思われる錆びついた作業用ロボットがあった。

 作業用ロボットは、高さ6メートル程で、2本の腕を持ち、運転席はフレームだけの二足歩行ロボットだ。

 このロボットは主に、荷物の運搬や、重量物を持ち上げて固定し、作業員の補佐をするための機械だ。


「これは……」


「そう! 作業用ロボットの初期ロットだよ! 歴史の教科書にも載ってるんだから!」


「そ、そうですね。俺も見たことがありますよ」


「うんうん! うちに就職するくらいだから知ってるよね。あ、第5サポート班のメンバーを紹介するよ! おーーーーーい! メイちゃーーーん!」 


 班長が、大きな声でメイちゃんとやらを呼んでいる。

 某映画のお婆ちゃんが頭をよぎったが、呑み込んでおこう。


 何度か呼びかけていると、作業場の片隅にある小屋から1人の少女が出てきた。


 見た目は中学生くらいに見える小柄な少女で、銀髪の手入れされていないボサボサミディアム、着ているツナギはダボダボで右腕と左脚だけ捲り上げている。


「……なに、班長。眠いんですけど」


「おいおーい就業時間中だぞぉ? 今日から研修生くるって話しておいたよね?」


「今日が何日か分からない」


「そ、そんなこと言ったら、ここがブラック企業みたいに聞こえちゃうぞぉ?」


 班長はこちらを、チラチラ見ながら、メイちゃんとやらに答えている。

 あれぇ? 優良企業って職安で聞いたんだけどな……まさかブラックなのか?


「ほ、ほら! メイちゃんがそんなこと言うから彼の顔が引き攣り出したじゃない!」


「実際夜おそ「わぁぁぁあわぁあわぁあ」」


「さ、さぁ! 自己紹介しよう! ね? ね?」


「……私は矢代メイ。よろしく新人」


「あ、はい。俺は田場湖ケイタって言います。よろしくお願いします先輩」


「ふ……ケイタは分かっている。いい新人」


 眠い目をしているが、無表情だな。

 最後だけ、ちょっとドヤ顔だったけど。


「おぉ……いつもならここで険悪になって面倒なことになるのに。今回は有望かもしれないわね」


 班長……小さな声で呟いてるつもりだろうけど、ここ静かだから全部聴こえちゃってるからね?

 どんだけ辞めてるんだよここ。

 怖いわ。


「あ、あの、ここはどんな作業をするんですか?」


「あぁ、それはね、この錆び付いた初期ロットを動くようにするのがここの仕事よ」


「え?」


「聴こえなかった? この錆び付いた初期ロットを「あ、いえ聴こえました」そう。なら作業はメイちゃんに聞いてね」


「は、班長はどうするんですか?」


「私? 私は監督だよ。みんなが安全に作業しているか監督するのが私の仕事」


「……メイ先輩、マジですか?」


「先輩、良い響き」


 目を瞑ってトリップしているメイちゃん先輩。


「俺、ここでやっていけるのかなぁ……」


 浪人して、公立諦めて、私立を卒業して、就職失敗して、ようやく入れた優良企業だったはずだけど、3ヶ月後正社員になれるのかなぁ……いや、そもそも3ヶ月もここで働けるのかな……心配しかない。

 

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