生産施設破壊作戦:1

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 ディグアウターギルド主導による、未確認遺跡の共同アタック。

 参加するのは中堅以上のディグアウターたち4チーム、合計で14名。

 目的地はひと月前に発見されたばかりの未確認遺跡。大量の殺人機械マーダーが確認されており、まだ生きている生産施設がある可能性が高い。当然内部の危険度も高い。目的はこの生産機能の制御もしくは破壊となる。

 遺跡とはこの世界の地中から出てくる超建築物だ。過去の超文明の残滓と言われているが詳細不明。地震が起こるのと同時に地上へ露出する。遺跡の中にはたまに超文明の超アイテムを作れる生産施設があるが、ほとんどの場合はバグっていて、殺人機械マーダー化したガラクタを産み出している。

 放置しておけば地上に殺人機械マーダーが蔓延してしまうので、生産施設の破壊は常に人類全体に求められる課題だ。

 未確認遺跡は宝の山でもある。成功率は低いが、もし生産施設そのものを無傷で制御することができれば莫大な利益を生み出すことができ、参加者たちにもボーナスが出る。

 それが失敗して破壊するだけになっても、作戦後には危険度の低下した遺跡内を一番乗りで漁ることができる。ディグアウターたち個々人にとっては、この宝探しこそが本番という者も多いだろう。


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 出発の朝。

 ジャンク街から正面の沖に、ディグアウターたちが集合した。

 それぞれのアーマーがズラリと勢ぞろいしている。壮観だ。うっひょ~。

 全部でだいたい12機ほどだろうか。相乗りしてる人員もいるようだ。2脚タイプから戦車タンクタイプ、そして一見アーマーのようには見えない車両型のものまで揃っている。


『通信チャンネル同調。各自よろしいか? 確認送れ』


 リーダーっぽい人から確認が来た。団体行動では通信回路を開いておくのは必須だ。


『確認した』

『確認』

『確認よし』

『よろし』

『ヨシ』


 皆こなれた応答を返している。ディグアウターたちは基本的には好き勝手に仕事をしている連中だが、こうした共同作戦もたまにある。特に今回は腕利き揃いだ。おそらく初心者は俺だけだろう。


『確認よし』

「確認よし」


 リンピアに続いて俺も、新参者らしい応答を返した。ロックフェイスのコクピット内に硬い声が響いた。


『通話確認よし。では出発する。フライトモード起動』


 もう出発か。

 アーマーたちがつぎつぎと装甲を開放してブースタを稼働し、青白い稲妻に包まれていく。

 荒野に大きな噴炎を吐いて、次々に飛び立つ。 

 アーマー十機以上もの反重力フィールドが結合する様は壮観だった。リーダー機を頂点として、大きな円錐を描く形をとる。この隊形が重力的に高効率らしい。ときおり機体同士をビリビリと稲妻が伝っていく。反重力フィールドは接続すると塊として振る舞うため、こうして部隊で飛んでいくことが出来る。

 フライトブーストのやり方は練習してきたので問題無く飛ぶことができた。

 ディグアウターがチームで長距離移動するときは大型ヘリコプターや飛行船を使うこともあるが、今回の目的地は意外と近いのでアーマーだけだ。

 このあたりの地域は危険な飛行生物などが居ないため、フライトブースト中はかなり安全なようだ。

 操舵をリーダー機に同期して任せ、俺は空の旅を楽しむことにした。

  

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 フライトブーストで約半日。

 空の旅は予想外に楽しかった。

 ものすごいスピードで流れる土砂の大河、生き物のように転がっていく数キロサイズの大岩……龍震をなめていた。地球とはスケールが違いすぎる。ド迫力の大自然がつぎつぎと眼下を流れていくのは見ていて飽きなかった。

 ほかメンバーのアーマーも見放題だ。街にで見かけるアーマーはほとんどが労働用で、言ってしまえばほぼ重機の非戦闘用アーマー。しかし今回のメンバーは腕利きのディグアウターたちで、ちゃんと武装をしている。地下に潜るため長距離用の大砲などはおらず、短射程向きの兵装が多い。爆発系が少ない気がする、崩落を避けるためか? 

 カメラの視覚情報を処理できるようになったのも大きいだろう。俺はコクピット内でも戦闘モードを起動してカメラで外を見ることが出来るようになった。アーマー頭部カメラは高性能だ。安全な個室内からあちこちをスーパーズームして見回すのは楽しかった。

 リンピアは飛行しながらリーダー機やメインダイバーたちと情報交換をしていた。なかなか興味深かったが、俺は初心者らしく黙って聞いていた。

 うーん、この通話回路ってなんか地味で退屈だな。音声だけだから顔色とか分からないし。もっと分かりやすく面白いものにできないか。


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 昼も過ぎたころ、景色が変化した。

 土砂の大河が終わり、ふつうの地面になる。

 かと思えばバキバキと地割れが多くなり、ささくれ立った岩が剣山のように乱立しはじめた。最近元気よく隆起してきましたという感じだ。

 それらはある地点を中心として引き起こされているとわかる。


 摩天楼が、荒野に突如としてそびえ立っていた。


 高さは雲まで、直径は横に数キロほどもある。岩の街が縦に数十倍伸びたようなサイズだ。大きすぎて遠近感が狂って見える。石のような鉄のような黒い素材で、真新しく見えるのは最近地中から出てきたからだろうか。それとも謎のハイテク素材なのか。


『遺跡を視認。タワー型……報告よりも隆起しているな……』  


 遺跡は外見でもある程度の危険度がわかるらしい。

 洞窟型、大穴型……これは地震でたまたま地下にあった遺跡が露出したパターンで、機能は死んでいることが多い。危険もお宝も少ない。

 一方、タワー型というのは生きた機能によって自発的に地上へ生えてきた遺跡だ。当然内部には稼働している機械が多く、大量の殺人機械マーダーと発掘品が待っている。

 つまり俺たちがこれから攻略するのはリスクもリターンもマシマシのデスバトルテーマパークということだ。テンション上がるなあ。


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 少し離れたところに拠点を設営することになった。タワー型は出入り口もちゃんと機能していて閉ざされているため、マーダーは簡単には出てこない。出入り口が開くときはすぐわかるらしい。

 拠点の設置は想像以上に簡単に済んだ。『仮設テント』と同じような拡縮自在な発掘品、それの大型拠点版が持ち込まれていたからだ。準備作業は邪魔な岩をアーマーで適当にどけたくらい。

 荷運び役として参加しているタンク型アーマーが、人間でいうとダッフルバッグくらいのコンテナを地面に置いた。それはあっという間に展開して大きくなった。

 逆ピラミッド型のSF軍事拠点のようなものがあっという間に出現する。

 すげえ、絶対に不安定なはずなのに超頑丈そうで安定している。なるほど接地面積が少ないので整地も不要というわけか。出入り口は地面に接している中央の細い部分。逆ピラミッドのネズミ返しでキメラ蟲くらいならシャットアウトできるようだ。

 アーマーが逆ピラミッドの下に入って待機姿勢をとると、ちょうどコクピットのそばまで橋が伸びてくる。建物から直接アーマーへ素早く乗り降りできるようだ。

 逆ピラミッドの上部には移動式クレーンのレールがついていて、下に停まっているアーマーを吊り上げて整備することもできるようだ。ガレージ機能も完備とは素晴らしい。

 背中を向けて駐機姿勢をとると、自動で橋が伸びてきた。ハイテクだなあ。コクピットハッチを開くとピッタリと足場が接していてバリアフリーで中へ入れた。


「内部は印象が違うな、木造で、ログハウスみたいな……すごいな」

「ジェイ、あまりキョロキョロするな」

「木製だ……やっぱり木っていいな。木って貴重だよな? 高級品?」

「高級品だが、これは発掘品だ。本物の木ではないんじゃないか?」

「あーそっか。発掘品ってすごいな。本物そっくりだけど」


 逆ピラミッドの中は外見に反して、落ち着きのあるログハウス風の内装だった。

 まずは割り当てられた部屋へ行く。予定では1週間ほどここでお世話になる。

 えーっと、俺の部屋はS05……S03、S04、S05、ここだ。なんだか林間学校とか旅行でチェックインする時を思い出す。楽しい。


「おお、広い部屋。風呂トイレ付きか。窓もある……ように見えるけどこれディスプレイか? 攻撃受けたら危ないもんな。お、スイッチで別の景色に変わる。わざわざ景観まで配慮してるのか、すごいな発掘品」

「いい部屋じゃないか。うちのガレージよりもよほど上品だな」


 リンピアがドサッと自分のバッグを置いた。


 ん!?


「ちょっと待て、二人部屋なのか?」

「当然だろう。この広さを独占できると思っていたのか?」

「いや、そうじゃなくて、男女は普通ベツだろ?」

「仕方ないだろう、同じチームなんだから。気にするな」

「気にするなって……」

「そもそも私達は同じガレージで寝泊まりしているだろう」

「そうだけどさあ」


 ガレージは同じ屋根の下ではあるが、小さな個室が別にあった。しかしここはダブルルームだ。いや、ツインルームか? どっちがどうだっけ。


「作戦中だ、諦めろ」

「了解……」


 リンピアはちっこい。せいぜい中学生女子だ。だから大丈夫だ。


 ……と考えて一緒に過ごしてきたのだが、正直最近はきびしく感じている。少なくとも子供ではない、少女だ。前世、中学生のときには同級生に初恋していた。完全に何も感じないというのは不可能だ。

 最近気づいたのだが、実はリンピアはスタイルが良い。背こそ低いが手脚はすらりと大人のバランスをしているし、女性らしい丸みもある。いつもはモフモフの髪とジャケットで隠れているのだが、ガレージで一緒に暮らしているうちに気付かされてしまった。

 気まずいのは俺だけなんだろうか。なら、普通に振る舞ったほうがいいか……。

 リンピアはバッグから生活用具を取り出して並べつつ、しきりに髪を撫でている。まっすぐ梳いたと思ったらモフモフさせてボリュームを出したりしている。

 リラックスしているのだろうか。気にしてなさそうだ。俺が意識過剰なのかな。


『全員へ通達。10分後、中央会議室にて作戦会議を始める。遅れず集合するように』


 荷物を整理していると、リーダーっぽい人から通信がきた。集中できなかったせいか、あんまり整理できなかったな。

 リンピアはモコモコしたニット帽をかぶって部屋を出た。

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