生還

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「勝った……本物のアーマーで、俺の手で、勝った……」

『おいジェイ、聞きたいことが山ほどあるぞ。その岩だらけの有様はどういうわけだ? どうやって操縦できるようになった? なぜアーマーと接続できたんだ、適正因子が無いのに?』


 そういや何も説明しないまま出撃したんだったな。


「よくぞ聞いてくれた。ここに披露しよう、俺の知恵と工夫の結晶を……」

『!? ……コクピットに乗っていなかったのか!?』


 俺がアーマー頭部後方から姿を現すと、リンピアはたいそう驚いた様子だった。


 ↵


 問題は、アーマーとの接続システムを利用できないということだった。

 だから俺は、接続システムを使用しないことにした。

 直接操作だ。

 パイロットの希望する行動の運動神経を読み取って、システムがアーマーを動かしてくれる──という方法をとらない。

 俺がはじめから機械信号を出し、全ての機械関節を操作するのだ。

 これはリンピアが相乗りをさせてくれたことで可能になったことだ。リンピアの鮮やかな操縦をシステムがどのように変換してアーマーを動かしているのか、間近から観察することでおおよその回路構造がわかった。かなり時間はかかったが、アーマーに信号を流し込みながら試行錯誤を繰り返し、一晩でブースト機動をできるまでになった。


 直接操作でアーマーを動かせるようにはなったが、問題ができた。

 精密な操作が難しいという問題だ。

 ぶっちゃけ、射撃ができない。

 弾を撃って命中させるには複雑な計算が必要になる。まずまっすぐ構えること──これだけでも自分の目と銃の狙いを一致させるために調整が必要となる。そのうえで距離計算、落下軌道計算、偏差計算……これらを同時に短時間で行わなければならない。アーマー操作をしながらこれらを処理するのはかなり難しい。

 だから俺は射撃を捨てることにした。

 近距離特化だ。

 近距離は近距離でもリンピアみたいに蝶のように舞うのではなく、重装甲でゴリ押すヘビーウォリアータイプだ。実は前世ゲーム内でも重量機体は初心者にオススメの構成だ。機体操作に慣れていないうちは装甲で耐えられるほうが誤魔化しが効く。

 幸運にも俺はつい最近、それに最適な回路を獲得していた。デスワームからもらった『表面装甲』の回路だ。素材になる岩もそこらへんで手に入った。俺は装甲になりそうな岩を厳選し、格好良さも重視して貼り付けていった。

 重装甲化アーマーで耐えながら突撃して接近し、太くした腕で敵を殴り倒す。射撃も近距離なら乱れ撃ちで命中する。

 コンセプトは悪くないはずだった。


 重くなり過ぎた。それが新たな問題だった。

 ブースト機動をしても我慢出来ないほど遅いので、とても近距離戦に持ち込めそうにない。突撃見てから引き撃ち余裕です。

 装甲を増やすと重くなる。重くなれば遅くなる。当然の結果だ。

 だが大丈夫だ。シンプルな問題にはシンプルな解決が効く。

 重くて遅くなるのは推力が足りていないからだ。

 なら推力を増やすにはどうするか。

 ブースターを増やせばいいのだ。

 答えはキャンプ地のすみに転がっていた。ニールさんたちのアーマーに使われていたブースターの余りだ。俺のアーマーは壊れた2機のアーマーから無事なパーツを組み合わせて1機に構成アセンブルし直されたものなので、余りのパーツのなかにも問題無く稼働するものがあった。無事なブースターがあったのは運が良かった。

 次なる問題は、ブースターにどうやって動力を供給するか──これは意外と簡単に解決した。空いていた背部武装マウントに、ブースターがくっついたのだ。

 アーマーの主武装は基本的に4つ。手持ち武器を両手に持って2つ、そして背部武装として両肩に2つ。機種によるが肩甲骨あたりに接続用ジョイントが設けられており、動力もここから供給される。ブースターは本来ここにつくことを想定されていないはずなのだが、やってみたらできた。

 こうして推力が確保され、スピード問題は解決した。


 解決できなかったのは、視覚とドメインだ。

 機体どう動かすかに集中していたので、カメラからの映像情報処理には手が回らなかった。ただ、これも時間をかけて適応すればいつかは処理回路が構築できそうな気がする。

 ドメインについてはさすがにお手上げだ。この高度にぶっとんだ技術はどうにもなりそうにない。

 だがこのシステムがもたらすのは『操作性向上』と『搭乗者防護』……つまり、俺がうまく直接操作して、俺が耐えさえすれば、なにも問題は無いということだ。

 アーマーからの視覚を処理できない──

 コクピットがナノメタルで満たされてしまうので入れない──

 ──このふたつの問題を同時に解決するソリューション、それが後頭部にしがみつくことだ。

 肩に乗る……という案もちょっと格好良いので悩んだが、さすがに敵前に身を晒すのはやめることにした。それに後頭部に身を隠せば、外見だけなら普通にアーマーが動いているように見えるし。

 後頭部にしがみつきつつ、ナノメタルを装甲の隙間からコクピットに伸ばし、機械信号を伝達する。コクピットを介さなくても良さそうなのものは、関節に直接ナノメタル線をのばして操作する。銀色の蜘蛛の巣が後頭部から張っているような見た目だ。

 まだまだ粗はあるが、及第点。かなり思い通りに動かせるようになった。

 こうして俺はアーマー接続因子の欠陥を克服したのだった。


 ↵


「というわけだったんだけど、でもさすがに後頭部に張り付くのはどうにかしていきたいな。映像情報処理がなんとかなり次第、戦闘モードでもナノメタルを流さないようにシステムを改変するか、なんなら物理的に流入口をふさぐかでもしてコクピット内に居られるようにして……」

『わかった、わかった。おまえの極めて多大な努力は認める、もうわかった』


 赤兎セキトは額に手をあてた。リンピアがコクピットのドメイン内で同じ動きをしているのだろう。


『ブースターを背部武装マウントに繋げたと言ったか?』

「言いました」

『そこから動力を得て噴射できるようにしたと?』

「しました」

『そうか……つまりおまえには、アーキテクトの才があったということだな』


 リンピアは説明した。

 アーマーは地中からの発掘品だ。内部システムはブラックボックスであり、解析は行われているがあまり進んでいない。そのシステムのルールのひとつに、『構成制限』がある。

 アーマーは人型の範囲内で構成されていないと動かない。首から脚パーツを生やすことはできないし、五体満足でなければ起動しない。

 パーツで有名なのはレーザーブレードだ。この近接武装はかなりの数が発掘されているが、ほぼ全てがアーマーの『左腕』に取り付けなければ認識も稼働もしないという謎のシステムに縛られている。

 ブースターも正しい場所に配置しなければ稼働しない。正しい位置というのは肩や腰や膝などパーツによって異なるが、あらかじめ用意されたブースタ用コネクタがある場所だ。それ以外はシステムから認識されず、エネルギーラインが繋がらないし操作もできない。

 これら構成制限をかいくぐる方法が2つある。

 ひとつは発掘品ではない『複製品』──解析をもとに人の手によって再現・製造されたパーツを使うことだ。ただしこれが実用的なのは構造が単純な一部の実弾武器くらいで、ほとんどは発掘品に到底及ばない質のものしかない。

 もうひとつの方法、それが『アーキテクト』による改造だ。

 人のもつ回路には向き不向きがある。大きな回路欠陥を抱えた者は、ときにそれを補うかのように他分野の才に開花することがある。アーマーの改造が可能なほどの技能と回路を持つ者のことを『アーキテクト』と呼ぶ。


『アーキテクトは貴重な人材だ。おまえのように自らアーマーに乗って戦うアーキテクトなど、前代未聞だろうな』


 アーキテクトか。前世のゲーム内にもその名前はあった。だいたいアーマーの設計者という意味だった。

 この世界ではやや特別な能力者ということになるらしい。俺としてはそんな特別なつもりはなく、いつものように回路のアドリブで無理やり実行しただけだが。

 ……ただ、少し気になることがあった。

 改造を実行しようとしたとき、妙な回路名が頭に浮かんだのだ。

 この世界に来たときの俺はいちいち回路に名前をつけて必殺技のように名前を読み上げていた。しかし最近では回路はもはや自分の肉体と同じ感覚になっていて、回路名など意識せずに実行していたはずだった。

 足し算掛け算をするのに気合を入れて計算方法を名乗る人間は居ない。……いや複雑な計算をするときはブツブツ喋るか……デスワーム戦では気合い入れて呼び出してたし……まあともかく普段は回路名なんて意識しない。

 しかしアーマーを改造しようとして回路を構築したとき、頭に文字が浮かんだ。

《機械信号回路:牧野式改造アセンブル許可証》

 なんなんだよ、牧野って。

 地下にいるとき、高性能化した機械操作回路に思いつきで『デウスエクス牧野』と名前トリガーを設定したが……

 機械信号系の回路を使おうとするとき、たまにこの名前が出しゃばってくるんだよなあ。


 ↵


 ところで、聞いておかなければならないことがある。

 俺たちを襲ってきたやつらの処遇だ。


「コイツらはどうする? 今すぐ治療したら助かるかも……というか、コアを回収すれば助かるんだっけ?」

『……私も癖で動力を殺しただけだ。どうしよう』


 決まってないんかーい。クセで動力だけ撃ち抜くって、スゴイな。

 以前に揉めたときは喧嘩のようなもので、死傷者は無かったのだという。しかし今回は完全に不意打ちを狙った犯罪行為だ。

 でもこの迷い方は、どう助けるべきかを考えているのではなく、どう処分するか思いつかないという悩み方のようだ。


「証人とか、必要?」

『ああ、それは必要ない。ジャンク街での揉め事でもやりすぎれば警備隊が動く……が、裁きは公正だ。人間と機体の記憶を吸い出して調べることができるからな。この盗賊共をどう処理しようが、問題は無い』

「それは素晴らしい」

『もしコイツらを助けるとするなら……』


 リンピア先生の授業が始まった。

 助けるとするなら、非常に面倒くさいことになる。

 まず本人たちをそのまま救助するのは論外だ。そのためには機体の胴を開放しないといけないが、攻撃で歪んでいるため手間がかかる。そもそも生きているかどうかも怪しいし、少なくとも重い怪我をしている。顔を合わせてお世話をしながら街まで送り届けるのは御免被りたい。

 現実的なのは体内のコアだけを回収することだが、これも面倒には変わりない。こちらも装甲を切り開く苦労がある。そしておそらく汚い肉塊となっている中からコアを探すことになる。それだけ手間をかけても、そもそもコアガード処置していなければすでに完全死亡しているため、全て無駄になる。

 ここまでやって、助けるメリットはほぼ無い。犯罪奴隷として売るにしても二束三文……だが近くの街には奴隷市場が無いらしい。

 善行をつんだという精神的メリットは……いや、無いな。


「じゃあ、ってことで」

『そうだな』


 我ながらあっさりと決めた。リンピアも全く気後れしていない。

 人を殺すということに、ためらいはなかった。この世界でこの肉体になってから精神が強くなっているからというのもある……が、なにせ相手がクズすぎた。あいつらはずっと、脳内ミュートにしても伝わってくるくらいに胸糞の悪い暴言しか吐いていなかった。


『気にすることはないぞ。街の外での攻撃は殺人罪に等しい。この環境でアーマーが壊れたら、待っているのは死だからな。こういう連中はどうせ余罪もたっぷりある』

「いや、気にはしてないって。ありがとな」


 要らない中身なんかよりも、大事なのは外側のアーマーのほうだ。


「んじゃ、お楽しみの剥ぎ取りタイムといくか!」

『あー、それなんだが、あんまり美味しくはなさそうだぞ』


 リンピアは倒れたアーマーを蹴り転がし、見やすくしてから解説し始めた。


『見ろ、鉄板で補強してるだけで、ほとんど最下級パーツだ』

「なんだと」


 よく見れば、アーマーの装甲は攻撃を受けていない箇所もところどころ歪んでいて、その隙間から骨のような最下級パーツが見えていた。


「たしか、最下級パーツって……」

『ああ、ガラクタ同然だ。燃料棒1本にもならん』


 発掘数が多く低性能、ゆえに安い。重量あたりの価値──コスパならぬウェイパが悪いためそこらへんに捨て置かれる、それが最下級パーツ。ウェイパ……よく使っていた中華調味料が思い出されるなあ。

 最下級パーツは性能こそ劣悪だが、ナノメタルによる修復効率だけは良いらしく、街の中で補給整備ができないアウトローがよく使うらしい。銃を持って撃てればいいという考えで、脅しや奇襲なら実際それで事足りるのだろう。


『まあ、そう気落ちするな。フレームのほうは無価値だが、ナノメタルと燃料は回収できる。それだけでもそこそこの小遣いにはなる』

「おー、なるほど」


 前世で暇つぶしにやったオープンワールドゲームを思い出す。そのあたりの雑魚山賊を倒しても、低質な剣や鎧は重くかさばるばかりで金にならず、もったいなく思いつつも置いていくしかない。かわりに金貨や宝石などだけを抜き取っていくのだ。よくできたゲームだった。……残念ながら鬱状態だった俺の脳は楽しいと感じることができなかったが。


『では……ナノメタルはすべて、おまえのアーマーに譲ろう』

「ん、いいのか? 赤兎セキトに補給したいって言ってなかったか?」


 ナノメタルはいろいろな機能を果たすが、アーマーにとって重要なのは補修液となることだ。多少の傷から関節の摩耗まで、ナノメタルが埋め合わせてくれる。脅威のメンテナンスフリー機能だ。


『ナノメタルは、ドライバーズドメインを形成する触媒にもなる……だからその……』

「ああ……了解。俺のロックフェイスで回収しよう」


 言われてみればそうだ。戦闘モード中のドライバはドメインという名のナノメタル風呂に浸かることになる。気持ちの問題として、あんな奴らの使っていたナノメタルに身を包まれるのは抵抗があるだろう。

 俺ですら、あいつらのナノメタルは飲む気にならない。愛機に補給させるくらいなら問題ないが。 

 倒れたアーマーの装甲をこじ開け、燃料棒を抜き取り、ナノメタルをホースでチューチューしていく。タダ飯おいしい。

 結局、ナノメタルと燃料棒以外で収穫と言えるのは、俺が戦闘中に奪ったもの──銃剣ならぬ銃斧つきライフルだけだった。

 威圧感を出そうとしたのか、鋼材で何重にも補強をほどこされた代物だ。むしろ斧に銃がついていると言ったほうが正しいほどに丈夫で重く、重装甲のロックフェイスには似合っている。射撃機能は粗雑だが、どうせ近距離で乱射するくらいにしか使わないので問題無い。

 これまでは普通のライフル1本だけだったので、これで両手に武器が揃ったことになる。見栄えが良くなって満足だ。

 右手に斧、左手に長銃……カッコイイじゃん。


 ↵


 キメラ虫の群れは倒した。

 デスワームも倒した。

 ニールさんとヴィンティアさんを救出した。

 屑肉拾いで燃料を絞った。

 雑魚どもも返り討ちにして、小遣いも稼いだ。

 もう、ここでの用事はすべて済んだ。


『よっし、では帰るか』

「了解」


 忘れ物はないか。

 忘れてはならないのは抽出機だ。前回はやむなく放棄したらしいが、今回はアーマーが2機いるので絶対に持って帰る。リンピアは食料ほか仮設テントなどの雑貨品を持っているので、抽出機は俺のロックフェイスの背部にくくりつけている。

 アーマーを戦闘モードにしていざ飛ぼう、というところで俺は思い当たった。


「……大事なこと忘れてた。俺、飛べないわ」


 俺はアーマーを動かせるようになったが、地上をでブースト移動するくらいが精一杯だ。とても空中でバランスをとれる自信はない。


『それは問題ない。フライトブースト中は私が舵をとろう』

「えっ助かるう~」


 リンピアが教えてくれた。

 フライトブーストは反重力フィールドを発生させつつブースターを最大効率で噴射させる、アーマーの最速移動法だ。この反重力フィールドは近くのものと結びつく性質を持ち、結びついているときはひとかたまりの物体として振る舞う。

 ゆえに、部隊でひとつにまとまって移動できるらしい。

 さらにあらかじめペアリングしておけば、1人のドライバによる全体の操舵が可能で、残りの人員は休めるようになるらしい。便利い~。


『フライトブースト始動。操舵獲得、ロックフェイス。行くぞ』


 バチバチと青白い稲妻がほとばしる。赤兎セキトとロックフェイスが反重力フィールドを発し、2機のフィールドがくっついて大きなひとつの球形になった。かっこいい。

 背部メインブースター周りの装甲が開放され、甲高い唸りをあげてブースターが噴炎を伸ばす。


『出発だ』


 うごごごごご……俺は後頭部にしがみついているだけなので、加速Gがけっこうキツイ。巡航速度に達するまでは辛抱だ。


 ↵


『そろそろ着くぞ。ようやく、帰ってきた』


 空を飛ぶこと半日。

 なんとなく見覚えのある地形になり、そしてあの大岩の街が見えてきた。巨大な壁の上でクレーンが反復している。壁外のジャンク街にはアーマーやホバートラックが出入りしていて活気がある。

 あの街ではまだ1日しか過ごしていないが、ホッとした気分になる。


『あらためて礼を言おう、ジェイ。おまえがいなければ、この成功は無かった。あの夜おまえに出会わなければ……私は燃料も満足に工面できないまま飛び出し、荒野の塵となっていたことだろう』


 ……それ以前に攫われてもっと酷い目にあっていただろうと思うが、……まあ結果は同じようなものか。

 俺もリンピアと出会ってよかったと思う。彼女たちは助かったし、俺自身にとっても貴重な友人を得られたという利点は大きい。


「このくらい、お安い御用だ。俺はやるぜ。俺はアーマーにドンドン乗ってバンバン戦う。ガンガン稼ぐ。雇い主様にも楽させてやるよ」

『頼もしいことだな。この街には、仕事はたくさんある。龍震が多発する遺跡発掘の聖地だ。大勢のディグアウター、多数の発掘品が集まる。アーマー馬鹿のおまえにとっては天国だろうな』

「腕がなるな、任せとけ」

『ふふ……これから、よろしくな』

「ああ、よろしく」


 ここからが本番だ。俺の二度目の人生、アーマーの実在する最高の人生がここからはじまるのだ。地底とかいうクソスポーン地点から始まったが、ようやく楽しい生活になりそうだ。

 俺は一流の傭兵を目指そうと思う。傭兵、それは格好良い言葉。アセンブルコアの主人公は伝統的に傭兵だ。ああでも、ディグアウターも良いな。この世界は発掘品ありきで成り立ってるみたいだし花形の職業だ。なんでもやるか。頼まれたらなんでもやる傭兵ってことで。とりあえずはリンピアの傭兵として働こう。


 街までもう歩いても着くというところで降下。

 フライトブーストを終了して着地しなければならない。

 街にそのまま近づくと警告がきて、無視すれば撃墜されるらしい。戦闘モードも切らないといけない。言われてみれば当然か。領土内の領空を無断で横切るのは違法だ。いくらでも奇襲がかけられてしまう。アーマーという武力が身近だからこそ、そこらへんは厳しいだろう。


『フライトモード、オフ。着地する』


 地上数メートルで、重力が復活した。股がヒュンとする。

 このとき、『着地ポーズ』を格好良いものにしようとして頭が一杯だった俺は、気づいていなかった。

 この高さからの落下はまだ経験したことがなかった。動かせるようになったのは地上の水平移動だけ。着地体勢はシミュレートが不足していて、アーマーの関節制御は最適化されていなかった。


「ロックフェイス、フォール!」


 俺はのんきにロックフェイスを着陸さた。スーパーヒーロー着地のポーズだ。見た目は格好いいが脚に負担のかかる着地だ。


 バキッ──着地と同時、嫌な音が鳴った。

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