第41話 ☆4.6

 部屋でぼーっと三人で冷蔵庫にあったアイスクリームを食べていたら、女の子たちが帰ってきた。


 湯上がりに浴衣に着替えた女の子たちってなんであんなに破壊力を増して来るのだろう。昨日一昨日の風呂上がりはみんなTシャツにショーパンだったのでそれはそれで目に毒だったけど。

 季里は言わずもがな。幼く見えていた凛ちゃんまで大人っぽく、艶っぽく見えるのだから浴衣マジック恐るべしだよ。


「夕飯は勝手に六時にしちまったけど大丈夫だよな?」

「僕は大丈夫だよ。季里は?」


「私も大丈夫だよ。みんなは?」

 季里が問いかけるとみんなが頷いたので問題はなさそうだ。


「ねぇねぇ、俊介君。ご飯って何が出るの? ただで泊めさせてもらっているんだから贅沢言わないし、食べられるだけでありがたいんだけど」


「わからんけど、他の宿泊客と一緒じゃないか? わざわざ別メニューで俺らの飯作らすほうが迷惑だし」


 そうするとかなりいいものが出てくるってことだよな。さっきスマホでここの旅館の情報を漁っていたらこの旅館☆4.6付いていたし、料理も豪華だったんだよね。

 牛肉の朴葉焼きに季節の魚介の刺し身に煮付け。他にも小鉢が沢山写真には出ていた。ヤバ、よだれが溢れてくる。

 このまんまが出ないにしてもこれはきっと期待できる食事になるはずだ。


 時間になったので小宴会場へと移動する。もう腹の虫がグーグーと煩い。

 そのままお膳の据えてある席につくと献立表が置いてあった。


 前菜:季節の野菜のサラダ

 お椀:真鯛のお吸い物

 小鉢:蛸と胡瓜の酢の物

    山芋のおろし和え

    あさりの甘露煮

 刺身:地魚の刺身盛り合わせ

 温物:金目鯛の煮付

 肉料理:伊豆牛のステーキ

 ご飯物:富士山の湧水で炊いた白ご飯

 香の物:自家製の香の物盛り合わせ

 デザート:季節の果物のソルベ


 野菜サラダと小鉢以外は全く食べたことのない未知の料理だ。ただ字面だけでとても美味そうだ。


「誠彦さん、材料さえあれば私だってこれくらい作れるからね!」


 別に旅館の料理に対抗意識持たなくても大丈夫ですよ⁉ 季里の料理が僕にとって最高のご馳走であることは一切の変わりはないからね。




「伊勢海老の刺し身って初めて食べたけど、プリプリで美味しかったね」


「僕は金目鯛の煮付に感動したな。よく聞くけど金目鯛って初めて食べたよ。美味いんだな」


「あたしはなんていってもステーキだよね‼ 俊介せんぱいには感謝しないと」


 季里は伊勢海老の刺し身に凛ちゃんはステーキに心を奪われたようだ。

 水美は全部美味しかったとここでも大はしゃぎだった。それを諫める遊矢って構図もいつも通り。


 俊介と綺羅莉は普通にしていたけどこういうもの普段も食べているのだろうか?

 俊介なんかいつもコンビニの菓子パンばっかり食っているイメージしかないんだけどな。



 食休みしたらまた温泉に浸かる。


 前半は海で遊びまくったからこうやってのんびりするのもとてもリラックスできて最高な気分だ。


「俊介、親父さんにお礼を言っておいてくれよな」

「別に礼なんかいらないさ」


「それはだめだよ。これだけ素晴らしいもてなしを受けたんだからお礼ぐらいは伝えてもらいたいぞ」


「そっか。じゃあ言っておくよ。まあみんなが喜んでいたって聞けば親父も気分はいいだろうからな」


 ほんといいお湯だな。お腹いっぱいで身体も温まって眠くなってくるよ。


「遊矢は今回の他に水美とどっかに遊びに行くのか?」


「おれたちは夏フェスに行く。あれだ、有名なやつ。水美がチケ取りしたからあまりおぼえていないんだが……サマソニだっけかな」


「おお、サマソニか。チケ高かったんじゃね?」

「バイト頑張ったさ」


 俊介と遊矢が夏休みのこの他の予定を話しているが、僕は予定といっても実家に行くぐらいしか予定はないな。


 流石に実家に帰る、とは言えないからね。一応まだ僕は実家通いのていで話は通してあるまんまだからね。


「遊矢ってなんのバイトしてんの? 僕もバイトしたいんだけど何がいいか悩んでいるんだ」


「おれはファミレスだぞ。ホールで入ったけど愛想がないって言われてキッチンに移された」


「まあ遊矢だしな」

「おれに愛想って言われても困るんだけどな」


 遊矢が明るいテンションで『いらっしゃいませ~』って言っているのは想像できないもんな。


「マコちゃんは家の方でバイト探すのか?」

「村の方は無理っしょ。まず何もないからね。町の駅前でも駅前にある高校の生徒が優先されるだろうし、やっぱ川越市内だろうね」


「そうすると、販売系か飲食系かになるんだろうな。遊矢もだけどマコちゃんの『いらっしゃいませ』も無愛想ぽいよな」


「確かに否定はできんが、そこまで酷いつもりもない。あとマコちゃん言うな」


 あまりお金には困っていないけど、洋館の固定資産税ぐらいは本当に自分で払いたいところなんだよね。だからバイト代は月に三万ぐらいでいいんだけどな。


「市内でいいならバイト募集のポスターはあちこちに貼ってあったからそこから選べばいいんじゃないか?」


「マジで? 今度からそう言うの見ながら歩いてみるよ。さんきゅ、遊矢」


 僕は料理も得意だからな――最近はご無沙汰だけど――喫茶店とかカフェなんかいいかもしれない。確かじいちゃんの知り合いがカフェやっているって言っていたな。今度聞いてみよう。


「俊介は、バイトは?」

「俺は部活があるからな。この旅行の後もお盆中以外はずっと部活だぞ。バイトなんかしている暇なんてないさ」


 大会出場を目標にこの夏は精一杯頑張るんだそうだ。なんか打ち込めるものがあるって眩しいな。


「がんばれよ」

「おう、さんきゅ。バレーボールだけになっちまうからこの旅行はホント楽しめて良かったよ。綺羅莉にも感謝しかないな」


「僕も誘ってもらわなかったら、せいぜい湘南か県民プールで終わっていたかもしれないしな。貴重な体験をさせてもらったよ」


「マコちゃんは季里ちゃんともっといっぱい思い出を作らなきゃいけないだろ? 俺の分までガンガン遊んでくれよ」


「ん、季里に言っておく。遊びのプランは彼女のほうが一枚も二枚も上手だからね」

「まったくもう。そんなところまで既に尻に敷かれているのかよ」


 これは尻に敷かれているとかいないとかじゃなくて得手不得手の問題なんですよ⁉ 僕はね、やっぱりそういった遊びについては無知なんだよね。


 もうこの旅行も終わりだけど、まだまだ暑い夏休みは半分以上残っているんだ。やっぱり遊びまくらないとな!

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