第9話 家族とは

「早いもんで今日でもう二週間か?」

「新学年になってから? そうだね。俊介は勉強できる方だし、二年になって授業内容が難しくなっても余裕なんだろうな」


「んなわけ無いじゃん。そんなのマコちゃんと俺と大して変わんないって!」

「そうかな。僕なんてもうついていくのがやっとって感じだけど? つっかマコちゃん言うな」


 僕は季里よりも早く家を出るようにしているので、けっこう早く教室に着くことになる。通学途中で一緒のところを見られることの防止のためだけど、これも季里を説得するのが大変だった。

 一方の俊介は部活の朝練があるのでそもそも来るのが早いだけ。


「今日の一限ってなんだっけ?」

「ん……現国じゃなかったっけ。しゅん――」

「おっはよー‼ ウルトラおっはー!」


 教室に入るなり、全員に向かってクソ元気に挨拶している石築がやかましくやってきたので俊介との静かな語らいは終了。ここからは大体いつも石築の独演会に頷くだけの人になる。


「……ぉはよ」

「あっれぇ~桒原くんテンション低っく~朝なんだから元気もりもり行こうよ~」

「あ、ああ。すまないな、僕は君みたいにはなれないんだけど……」


 さっきまで俊介と言うならば一等星ぐらいの明るさで話していたのだけど、目の前に石築のような太陽がやってきてしまうと星の輝きなんてかき消されてしまうのだよ。


「それはそれで~桒原くんに飯田くん聞いて! 昨日ね、帰りに時の鐘の所通ったらね~」

「ちょ、ちょい待ち。ゆ、遊矢。この話は?」


 いつものように石築の隣にいる遊矢にまずは問い合わせ。実は超ローテンションの遊矢と超ハイテンションの石築はなぜが付き合っているんだよな。二人でいるときどんな話をしているんだろうといつも気になっていたりする。


「ん。話が長い割にはオチがないな。あと別に内容もさして面白くもないかな」

「あ~ん酷い! 遊矢ったらいけず」


 石築が遊矢の肩をポコポコ叩いている。軽く叩いているって感じでどう見てもじゃれているようにしか見えない。


「なんかコイツラ急にいちゃつき始めたぞ」

「俊介、もういいから放っておこう。HRが始まる前に僕はトイレに行ってくるよ」


「あ~俺も行っとくわ。ひとりここに残されるのも癪だしな」

 そうして今日も平和な日常が始まっているのであった。


 🏠


 昼休み。僕と石築は弁当組で俊介と遊矢は学食組だけど、僕と石築は弁当持参で学食まで向い、俊介たちと一緒に昼を過ごすのが常だ。


「マコちゃん。マコちゃんちの母ちゃん最近夜勤ないのか?」

「ん、なんで? 俊介、マコちゃんはせめて人前では止めろ」


「だってマコちゃん、ここんところ毎日弁当じゃん。一年の頃は母ちゃんが夜勤明けだと弁当無いって言っていたよな?」


「あ、ああ……。う、うん。そうだな、そんな感じ」

「ふ~ん。まあちょっと気になっただけで、だからどうってこともないんだけどな」


 びっくりした。今食っている弁当は季里が作ってくれているので、学校のある日は普通に毎日作ってくれている。言われてみれば確かに以前は持ってこなかった日があった。

 俊介は飄々としているようで意外と鋭く観察しているところがあるんだよな。これは他の点においても気をつけないといけないな。


「ねぇ見てみて! あそこ。みんなは知ってる?」

「え? 何が。石築は主語や目的語がよく抜けるから僕には君が何を話したいのかわからないよ」

「あの子。ほら、栗毛のむっちゃ可愛い子。あの子一年の主席の子なんだって! で、めっちゃ可愛いから学年一の美少女ってもっぱらの噂なんだってよ」


 石築は人の話全く聞かずに、むっちゃだのめっちゃだのと言いたいことだけ一気にまくし立てた。彼女の指差す先には男女の小集団が形成されていてその中心には季里がいた。


「うぉっ、まじ可愛いじゃん! ちょっと後で冷やかしに行こうか?」

「……まあ、可愛い方なんじゃないかな。ボクには関係ないけど」


 俊介と遊矢の反応はこんな感じ。


 僕はと言うとコメントに窮していた。だって、彼女が主席なのは知っているし、可愛いのも知っている。名前も住んでいるところだって知っているけど、そんなことは言えっこない。


 なので、

「あ、うん。そうなんだ」

 というなんとも中途半端なコメントしかできなかった。


「遊矢はいいけど、桒原くんの反応つまんない! もっとうわぁ~っとかすげ~っとか反応できないの?」


 石築がいちいちめんどくさいことを大声で言ってくる。ここは学食なんだからもう少し声のトーンは落としてくれないかな?


 石築のでかい声に反応したのか季里がこっちを向いた。で、僕の存在に気づいたのか、やらなくていいのに小さく手を振ってきた。


「おっ⁉ 俺に手を振ってくれたぞ。早速俺様いい男発見ってか? ごめんな俺ことは諦めてくれ」


 そう俊介ははしゃいでいるけど、なんともおめでたいやつだとは思うよね。僕は手を振り返さずこっそりと目礼だけしておくに留めておいた。

 やれやれ、帰ったら余計なことは学校ではやらないように注意しておかないといけないな。


 🏠


 新入生も入学から凡そひと月も経つと浮かれ気分は落ち着き完全に通常モードに移行していくようだ。

 部活紹介も終わったので、すでに部活動に努めるもの帰宅部を選択し放課後を自由に謳歌するものと様々であった。


 季里もなにか部活動をするのかと思っていたが、一向にその気配がない。ほとんど毎日放課後は自宅に直行して帰ってくる。

 なぜ知っているかというと、僕も帰宅部だからだ。僕の場合は一年生の間は通学に時間がかかっていたので部活などやっている暇がなかったというのもある。

 時間があってもそもそも部活動をやる気もなかったけどね。


 帰りのHR前後にLIMEが季里から飛んできて、近所にある三つのスーパーのどれかに行くために待ち合わせするのが最近の流行りだ。


 近所にあるスーパーは全国チェーン展開しているエオン、ローカルチェーンの南武ストア。あとは小規模一店舗のみの地元密着型スーパーのマルカワ商店だ。


 自宅からも一番近いのは南武ストアで一番利用している。エオンの店舗は学園から自宅を通り過ぎた先にある。マルカワ商店は小学校先の路地を抜けていった先にありちょっと自宅から離れている。


 季里はどこから仕入れてくるのか特売情報を駆使し、どこかしらの店に放課後に寄って帰ることが多い。それにお供するのに待ち合わせしているんだ。

 ま、お得情報がなければ自宅直帰なんだけどね。


「今日は何がオトクなの?」

「今日、こっちのエオンはサラダ油が安いの。だけど、マルカワの方はお砂糖が安いから、帰りは遠回りだけどそっち経由で帰るよ」


「はしごするんだ……」

「なに? いいでしょ。あと、両方とも一家族一点限りだから誠彦さんは別のレジに並んでね」


「僕らって家族扱いなの?」

「‼ き、気にしないでいいの! 誠彦さんは言われたとおりにして!」


 食費等の家計は互いに持ち寄っていつにしているから、その点で言ったら家族っちゃ家族なのかもしれないけど……。なんか季里が真っ赤な顔しているから余計なことは言わないでおこう。




★★★

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一生懸命書いているつもりなのに評価がつかないのはかなり凹みますね・・・

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