第3話 再会ー1

「あれ?アッちゃん?アッちゃんだよね?」


 梅雨に入りかけた6月、家路へ急ぐ人々と共に駅の改札を抜けたスーツ姿のアサヒは、喉が乾いていた。

 ロータリー横のコンビニに入り、ドリンクの棚からダイエットコーラを取り出した時、後ろから声をかけられた。


 振り向くと小柄な男性が立っていた。


 ショートマッシュをベースにサイドを刈り上げたツーブロックのヘアスタイルに、黒縁のオーバルフレームメガネをかけている。

 白地にシュプリームの赤のボックスロゴが入ったオーバーサイズのカットソー、黒い太めのパンツ、ハイカットのブルズカラージョーダン1といったストリート色の強い服装だ。


「いやー相変わらずデカいね。すぐにわかったよ。ていうかデカくなりすぎ。成人式の時は痩せてたのに。そっか成人式ぶりか!でも顔は変わんねーな!ん?コーラ?そういやコカコーラ派だっけ。昔っから好きだったよな。あれ?俺のこと、わかんない感じ?」


 誰だったか思い出そうと悩んでると、男性がメガネを外した。


「オレオレ。マコトだよ。今井誠。酒屋ん家のマコト。ガキの時いっつも遊んだじゃん!」


 小学校時代の同級生だった。


「マコっちゃん?

 うわー久しぶり!

 相変わらず早口だね!」


 店内で大声を出した二人に、横の棚に商品を補充していた店員が冷たい眼差しを向けた。

 視線に気づいたアサヒはダイエットコーラを元の棚に戻すと、何も買わずに店を出た。


 そのままマコトがよく行くという居酒屋になだれ込んだ。


 水曜日だというのに多くの客で賑わう店内で、あまり酒が飲めないアサヒは梅酒のソーダ割、マコトはハイボールで乾杯した。


「ナニ?東京行ったんじゃなかったっけ?中2の時に引っ越しちゃって以来?いや成人式以来か。いつ帰ってきたんだよ」


「最近だよ。最近。

 ちなみに引っ越したのは中3の時ね。

 親父とお袋は、僕が大学1年の時に実家に戻ってきてるよ。

 元々、4年くらいの親父の出張にみんなでついて行ったから」


「そういえば親父さんぽい人を駅前のスーパーで見かけたような気もするな・・・」


「大学辞めたく無かったし、僕だけ東京に残ったんだ。

 そのまま、卒業してからも東京で働いてたんだけど、ちょっと身体壊しちゃってさぁ。

 こっちに帰ってきたんだ」


 お通しの枝豆を摘む。


「ワリィ。ちょっと勘違いしてた。身体大丈夫?まぁ東京に比べればこっちはのんびりしてるし、いいかもしれないな。あんま無理すんなよ?」


「心配してくれてありがとう。

 そういうマコっちゃんは?

 ていうか地元からちょっと離れてるし、こんなところで何してるの?」


「俺?ああ、酒屋継いだよ。一応シャッチョーさんよ、シャッチョーさん。で、この先にタワマンあるでしょ?そこに彼女が住んでてさ。今日、二人とも休みだったから遊びに来てたのよ」


 マコトが横を通りかかった店員を呼びとめる。

「あ、ハイボールもう1杯と、ポテトフライ、だし巻き卵とシーザーサラダ。鶏モツのガーリック炒めもお願いします」


 マコトはスマホの待ち受けにした2歳年下だという彼女とのツーショット写真をアサヒに見せてくれた。


 彼女とラブラブで、ココが可愛いだのと聞いてもいないことをひとしきり話した後に、マコトは小学校時代の同級生のことも教えてくれた。


 仕事を求めて他の街に出ていった者も多いが、地元に残った者もそれなりにいたこと。

 誰それが結婚し、子供が3人もいるなど話題は尽きなかった。

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