厨二病の執行者は異世界では最恐です

五三竜

第1戒 異世界は厨二病でも夢だと思う

 数年前、日本であるブームが起こった。それは、老若男女問わず皆が口にする程だった。しかし、そんなブームもすぐに過ぎ去り今では忘れられ口にするものはいなくなった。そのブームを巻き起こした男は現在パソコンの画面を睨みつけていた。


「・・・ふざけるなよ、何が面白くないだ・・・」


 その画面には、たくさんのアンチと、スレが書かれている。どれもこれもその男を批判するものばかりだ。男は何度も何度も読み返した。だが、批判が消えることは無かった。


「もう・・・昔とは違うんだな・・・。死のっかな・・・」


 男がそう呟いた時希望が現れた。


「ん?なんだこれ?」


 パソコンの画面を見ると、そこには自然が見える。そして、見たこともない街が映っていた。


「うわっ、怖いな。ウイルスに感染したかな、これ?」


 そう言って思わず画面に触れると画面からとてつもなく明るい光が部屋を包んだ。目が覚めると周りは自然だらけで少し先の方に見たこともない街があった。いや見たこともないというのは語弊がある。そう、ついさっき見た画面に映っていた世界に来てしまったのだ。


「夢・・・かな?ここ最近ずっと画面とにらめっこしてたからな。寝落ちしたのかもしれない」


 そう言って辺りを見渡した。しかし、夢にしては少し現実すぎる。


「やっぱり異世界転生か?いやそんなわけない・・・。ま、目が覚めるまで待つか」


 ━━それからどれぐらい待っただろう。時計がないから分からないが数時間は待っただろう。しかし、一向に目が覚める気配はなかった。


「もしかして、本当に異世界なのか?それなら、どうやって帰ればいいのか?・・・・・・・・・いや、帰らなくてもいいかもしれない。どうせ帰ってもまた、アンチを見て労働を迫られるんだ。それならいっそこの世界に住むのもいいのかもな」


 そんなことを言いながら立ち上がると街の方へと足を向けた。


「とにかく、街に行ってみるとするか」


 街に着くと、そこには見たことも無いもので溢れていた。


「凄いな・・・。どこに行ったらいいかわかんないぞ。あの1番でかい建物に行くか」


 そうして男はでかい建物の前に着くと中に入った。その中にはたくさんの人がいた。それも、杖や剣を持っている。キョロキョロしていると喧嘩を売られそうだったのでまっすぐ受付のようなところまで行くと向こうから話しかけてきた。


「冒険者ギルドは初めてですか?」


「え?冒険者ギルド?」


「はい。冒険者ギルドとは街の人や村の人が依頼を出してその依頼を達成する人達をまとめる組織のことです。一般的に依頼をこなす人のことを冒険者と言います」


「そもそもここはどこなんですか?」


「ここ・・・ですか?ここは冒険者ギルド本部です。もしかしてこの街に来たのは初めてですか?」


 男は何も分からないがとにかく話を合わせることにした。


「そうです。初めてここに来たんですが・・・」


「そうでしたか。それでは、まず質問ですが冒険者になりたいですか?」


「あ、じゃあ、はい」


「分かりました。ではここにサインをください。これは、もし怪我をした時にギルドが無償で手当をするというものです。そしてサイン(したらこの機械に手をかざしてください。かざしたら、自分の名前を言って貰ってよろしいですか?」


 男は言われた通りにした。そして、機械に手をかざして自分の名前を言った。


久遠陽炎くおんかげろう


 すると、機械がありえない轟音を立てて震え出した。


「あの、これ大丈夫ですか?手、離していいですか?」


「いいですよ。手を離しても問題ありません」


 手を離すと機械からなにか出てきた。


「出来ましたね。陽炎さん。これがギルドカードです。これがあれば、どこのギルドからでも依頼を受注できます。他国に行く時とかも手続きなしで通れるので便利ですよ。しかし、緊急クエストなどで呼び出された場合は必ず受けてください。登録取り消しになる場合がありますので」


「分かりました・・・」


「最後に自分の能力などは手を空中にかざしてオープンと言えば見えますので、今見てもらって職業を教えてください。登録書に書き込まないといけませんので」


「あ、はい。”オープン”・・・出ました。えと、執行・・・者です。これなんですか?」


「なるほど、ありがとうございます。これは私にも分かりませんが知りたい場合は映っている文字を押してもらえると分かります。それでは・・・」


 受付の女の子はそう言って去っていってしまった。陽炎は、ギルドにあった椅子に座って改めて確認してみた。


 <執行者>━━━━━━━━━━━━━━━━

 ・あらゆることを執行する者

 <スキル>

 ・死刑・拷問

 ・尋問・おしおき

 ・生成・加工

 ・ランダム救済・天罰

 <ステータス>

【体力】100

【魔力】10000

【筋力】100

【走力】100

【知力】10000

【防御】100

【耐性】100

 <特性>

 ・おしおき効果上昇・魔法全属性適性

 ・超速情報処理・隠蔽効果上昇

 <状態異常>

 ・厨二病

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 という感じだった。


「これは、どうなんだろ?」


 陽炎はステータスを閉じると、腕を組んで悩んだ。しかし、何も分からなかったのでもう一度受付の女の子に聞くことにした。


「あの、すいません。ちょっと聞きたいんですけど、一般的な人のステータスってどんくらいですか?」


「一般的なな人ですか?一般的だと、100あれば普通じゃないですか」


「なるほど、ありがとうございます」


 陽炎は再び戻ってきた。


(やはりここは異世界なのか・・・。このパソコンの画面みたいなやつも皆は普通と思っている。俺だけってわけじゃないんだな。・・・やっぱり帰る方法を探すべきか?いや、このままの方がいいのかもしれない。どうせ帰っても・・・)


 陽炎は何度も同じ考えに至った。そして、陽炎はついに決めた。


(よし、俺この世界に住もう)


 そして陽炎は依頼を見に行った。そこには簡単なものしか無かった。適当に1つ取ると受付のところまで持っていった。


「これを受けたいんですけど、どうしたらいいんですか?」


「あ、魔物討伐の依頼ですね。それを受けるにはまず試験を受けてください」


「試験があるんですか?」


「はい。魔物討伐は危険な仕事ですので実力がない人は行けないんです」


「あ・・・そうなんですね。へぇ〜、ありがとうございます」


(やばい!絶対落ちたろ!試験ってなんだよ!)


 陽炎は内心めちゃくちゃ焦った。その様子に気づいたのか受付の女の子が言ってきた。


「あの、試験は明日なんですけどもし良かったら合格できるように修行手伝いましょうか?」


 ・・・修行か〜。陽炎はそう思った。まぁ、確かに普通の日本人なら筋トレはあまりしないだろう。好きな人はするが20代だったらもうきつくてできない。だが、この男は違った。そう、厨二病なのだ。そのためこいつにはそういうことがかっこよく見えてしまうのだ。


「あの、いや・・・ですか?」


「・・・フフフ、光栄です!あぁ、私の右腕が疼いて来ました!」


 陽炎がカッコつけながら言うと急に周りの視線が集まった。目の前には顔を真っ赤にした女の子がいた。


「あの、どうしたん・・・」


「行きましょう!」


 女の子は陽炎の手を握ると瞬く間にギルドから出ていった。

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