第9話 初めてのダンジョン配信、事件発生

ゆあがまた時間をかけてスライムを討伐する。


 "そんなにスライムに時間かけてたら効率悪くないですか?"


 コメントを読むのが俺が壊滅的に下手だということで、コメントを読むのはゆあの担当になった。


「それがそうでもないの。普通にスライムを取るとこのくらいの魔石しか採れないんだけど……時間をかけるとこのくらい採れるから。ね、齊宮?」

「そうですね。だから実はダンジョンの中では、初めてスライムを討伐した人たちが多く魔石を採れるってデータがあるんですけど、それはやっぱりこの仕組みがあるからなんですよね」


 "はえー、ためになった"

 "ゆあちゃんそれを1人で見つけたの? すごいね!"

 "これからスライム討伐するとき時間かけよう"

 "いやでも普通に難しくね? 時間かけてやるの"


 様々な意見が飛び交っている。

 最後のコメントに関しては、ゆあのセンスが飛びぬけていいのは確かだ。


「いや、これは齊宮に教えてもらいました」

「整備士長くやってると、色々な発見があるもんで」


 2人でまた進む。次はコウモリ型のモンスターだ。


 石を投げると、彼らは寄ってきた。

 それを、ゆあが討伐する。


 "ゆあちゃんどうして石投げてるの?"

 

「これも齊宮から教えてもらったんだけど、石を投げたらおびき寄せられるんだって。だから、こうやってる」


 ゆあはコウモリ型をばっさばっさとなぎ倒していく。

 あぁ、やっぱりこの子、センスがいい。


「ゆあ、犬型いかないか?」

「えっ、もう?」

「コウモリ型をここまで倒せるなら、実力はある。大丈夫、俺がカバーするから」


 俺だって、犬型くらいまでは倒せるだろう。

 魔力はない……から探索者にはなれない。だけど、ステータスは……


「わかった。じゃあ、犬型、いってみます」


 薄暗いダンジョンの中をひたすら進む。途中スライムやコウモリ型がいたがそれも難なく討伐し……

 たぶんゆあはさっきの戦闘でレベルアップして、現在レベル2くらいはあると思う。第2層までいくには最低レベル3は必要だが、犬型を討伐するにはこのくらいでも大丈夫だろう。


 簡単な雑談を続けながら進んでいくと、犬型の巣が見えた。あいつらはダンジョンの地面に穴を掘り、そこで生活している。


「ゆあ、いくぞ」

「うん」

「まず犬型だ。あいつらはすばしっこいし、嚙む力が強い。一度噛みつかれたら、ちぎれるまで離さないからな」

「えっ、そうなの……」

「まぁ一般的におすすめしたいのは巣に奇襲をかけることなんだが……これはもうちょっとレベルを上げてからしよう。あいつらは群れを作ってるから、数が多くなることがある」


 "そうなん!?"

 "マジでためになるな"

 "俺中ランク冒険者なのにそんなこと知らなかったんだが"

 "齊宮、何者?"

 "齊宮の豆知識がガチで有能すぎる"

 

「うん」

「となるとだ……一匹だけに反応させたいから……魔石をつかうか」

「えっ、魔石?」

「犬型は魔石に反応する。だからこうやって」


 俺は小さな穴の近くに魔石を近づけた。大きさから言ってたぶん一匹か二匹。

 これならゆあでも倒せるだろう。

 だいたい1分も経たないうちに、犬型が巣からでてきた。


「ゆあ、急所を狙うとかは考えずに、いったん攻撃を当てろ!」

「う、うん!」


 ゆあが犬型へと剣を構える。ゆあの武器は大きな剣だから、一発当てればそれなりの打撃にはなるだろう。

 ガルルルル、と犬型がうなり、ゆあに飛び掛かる。

 ん? ゆあの足、めっちゃ震えてない?


 ゆあは大きく剣を振ったが


「ゆあ、危ない!」


 ――攻撃は当たらなかった。

 むしろそれでバランスを崩してしまい、ゆあは尻餅をつく。犬型がゆあに襲い掛かろうとしたところで、俺は犬型を切り捨てた。

 うえ、あぶな。でもこのナイフが使えてよかった。

 俺はほっと息をつきながら、友人からもらった特殊なナイフを見つめた。常に魔力に満ちている、俺だけの特別なナイフだ。


「こ、こわかった~~~」


 ゆあがボロボロと泣き出す。そりゃそうか。あんな犬に襲われかけたら

 でもここはダンジョン。一瞬が命取りになる。泣いている場合ではない。


「ゆあ、立てる? 一回ここから離れよう」


 ゆあは気づいていないようだったが、岩陰からは犬型たちが俺たちを見つめていた。


 "マジでヒヤヒヤした"

 "齊宮、すごかったな"

 "ゆあちゃん、怖かったよね。大丈夫?"

 "他の配信してる探索者に凸しにいくところだったわ。マジでこわ"

 

「すみません。もうちょっと討伐してから来るべきでしたね」

「ゆあ、犬が苦手だったから……」


 えぐえぐと泣きながらゆあが続ける。あ~、なるほど、そういうことか。


「それはまぁ、克服しよう。犬型は倒せないと、第2層のモンスターなんて倒せないし。今日から俺がサポートするから対犬型訓練始めようか」

「うん」


 ゆあはようやく泣き止んだようだった。

 良かった。年下の女の子に泣かれたらおじさんは辛いんです。


「えーっと、今日はあとスライムを討伐して、配信を終わろうと思います」


 視聴者に一応声をかけておく。


 "楽しかった"

 "齊宮のおかげで知識増えたわ"

 "ゆあちゃん、頑張ってな"

 "齊宮、ゆあちゃんを守ってくれてありがと"


 ひとまず肯定的な意見が流れているのを確認し、俺は安堵のため息をついた。

 今日は何事もなくて、ほんとに良かった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る