第3話 念願と残酷

2年後・・・


蒼一郎は未だに物見塔で襲撃に備えていた。だが、この2年の間で毎日のように来ていた襲撃が多くて月に1回程にまで減少していた。世界が平和に向かっていくのを実感しながら晴天の空をじっと眺めていた蒼一郎のもとに1人の男性が多くのスーツ姿の男性を連れてやってきた。


 「貴様が群青蒼一郎か。」


 「はいそうですけど。あなたは?」


 「俺は外務省副大臣の沢渡新之助さわたりしんのすけだ。我々についてこい。」


 「ですが、ここにいないと襲撃が来たときに対応が・・・。」


 「いいからついてこい。貴様は我々の言う通りにしろ。」


沢渡副大臣は蒼一郎の言葉を遮り、睨みつけた。蒼一郎はこれ以上言っても変わらなことを悟りついていくことにした。蒼一郎が立ち上がった瞬間、副大臣の後ろにいたスーツ姿の男性たちが近づき、蒼一郎に手錠をつけた。


 「貴様に暴れられると困るからな。」


手錠をつけたまま蒼一郎は副大臣に連行された。

その頃、防衛省では今日の出来事の不安と夜の楽しみのことで全体が浮ついていた。


 「大臣、遂に今日ですよ。」


 「あぁ、うまく事が進めば今日が終戦の日だ。本当に長かった。」


そう、今日は総理が他3か国と終戦協定を結ぶ日である。終戦協定を結ぶことができれば国の方針であった和解による終戦と植民地国の独立化が果たせる大切な日である。それと同時に、今日は蒼一郎の誕生日でもある。無事に協定を結ぶことができたら、夜には蒼一郎の誕生日パーティーを開く予定となっているため皆そわそわしていた。


 「大臣、今総理が会場に着いたようです。」


 「そうか、みんな気を抜くなよ。結び終わるまで何があるかわからない周辺の警戒を怠るな。」


 「「「はい!」」」


協定を結ぶ様子は生中継されており、国民の全員が食いつくように映像を見ていた。少しの間、各国の代表が対談した後に協定を結ぼうとした瞬間、ある速報が流れた。速報のタイトルには『戦争犯罪者公開処刑』と書かれていた。


 「なにこれ?なんでこんな速報が・・・!」


 「どういうことだ?なんでこんなことに?」


流れてきた映像には手足を後ろで縛られて、昔の百叩きの刑のように警棒で何発も殴られている蒼一郎の姿だった。


 「八坂君!この中継の場所はどこだ。」


 「ここから車で30分くらいの外務省の敷地内です。」


 「今すぐ向かうぞ。他の職員は総理達の方の警戒!蒼一郎の方にも動きがあったら報告!」


 「「「了解!」」」


 「行くぞ!八坂君。」


 「はい!」


高宮防衛大臣と美琴は直ぐに車に乗り込み、外務省へ向かった。


 「でもなんで急にこんなことをしたんでしょうね。外務省は。」


 「外務省は蒼一郎のことをあまりよく思ってなかったからな。会議でも蒼一郎のことを『戦争の長続きさせている張本人』って言ってたしな。」


 「もしかしてかもしれないですけど外務省の人たちは蒼くんに今回の戦争の全責任を押し付ける気じゃ。」


 「ありえないとは言えないな。とりあえず急ぐぞ。」


急いで現場に向かい、到着した頃には大量の人だかりができていた。人だかりを何とか進んでいき、蒼一郎をギリギリ視認できるところまで進むんだ。美琴たちの目に飛び込んできたのは血まみれで所々が赤く腫れあがり、全身あざだらけの見るに堪えない蒼一郎の姿であった。美琴たちは急いで人だかりを進んでいく。


 「やぁ犯罪者、よく死ななかったな。反省はしたかね。」


沢渡副大臣の質問に蒼一郎は何も言わず、下向いたまま動かなかった。


 「だんまりか。まぁいいだろう。お前は今から戦争を継続させ、国民を危険にさらした責任を取ってもらうぞ。最後に何か言いたいことがあるなら聞いてやらんこともないぞ。」


蒼一郎は正座の体制で背筋を伸ばし、沢渡副大臣をまっすぐ見つめて何も言わなかった。


 「まただんまりか。まぁ反省したってことにしてやろう。その反省を生かせよ・・・来世でな。」


沢渡副大臣は数歩後ろに下がり、左手を上げると13人のライフル銃を持った男性が来て構えた。


 「本来、わが国の処刑方法は絞首刑のみだがその状態では歩けないだろう。だから射殺に変更だ。疑似的な『死の階段』を味わえ。」


沢渡副大臣の左手が下げられた瞬間、13発の銃弾が蒼一郎の体に命中した。なんとか人だかりを抜けた美琴たちだったが、抜けた頃にはすでに13発の銃弾が命中しており蒼一郎は倒れていた。


 「蒼くん!」


 「蒼一郎!」


美琴と高宮防衛大臣は直ぐに蒼一郎のもとに駆け寄り抱き上げた。


 「蒼くん!蒼くん!しっかりして。お願い・・・目を覚まして。」


美琴の呼びかけに反して、蒼一郎の鼓動はどんどん弱くなり無慈悲に血が流れていく。


 「沢渡貴様!なんてことしてくれたんだ!なぜ蒼一郎を殺した。どこに殺す必要があった。」


 「何を言ってるのですか防衛大臣殿。彼は他3か国の兵士たちを殺し続け、この戦争を長引かせた張本人ですよ。彼という存在がなかったらこの戦争はもっと早く終わっていたはずです。現に植民地になった国の人たちは誰か戦死しましたか?してないでしょう。つまりそういうことなんですよ。」


沢渡副大臣はなんの悪びれもなくつらつらと語った。


 「蒼くん・・。」


 「・・泣かないでください。」


目を覚ました蒼一郎は右手を美琴の頬にあて涙を拭きとった。


 「蒼くん!待ってて今救急車を。」


 「いや、間に合いません。これだけを血を流したらもう助からないでしょう。もう充分です。あなたたちは俺に居場所を与えてくれた、深い愛を注いでくれた。十分です。一緒にお酒を飲めなかったことだけが心残りですけど。」


 「本当に防衛省の皆さんには感謝しています。こんな俺と嫌な顔せず関わってくれてみんな大好きです。美琴さん、最後にこんなことを言うのはずるいかもしれませんが俺はあなたが好きです。1人の女性として。」


 「嫌だよ、最後なんて言わないでよ。私もあなたが好きなの、あなたのやさしさも強さも弱さも全部が好きなの。お願い生きたいって言って、好きな人を失いたくないよ。」


美琴は気づいていた。こうしている間にも刻一刻と蒼一郎が死に近づいていることに。鼓動が弱まり体がだんだん冷たくなっていっていることに。呼吸も浅くなり目も開かなくなっていることに。

蒼一郎は口から大量に吐血し何かを悟ったかのような顔をした。


 「ごめんなさい。お別れの時間です。さようなら俺の大好きな居場所、大好きな人。」


美琴の頬にあてていた右手が地面へ落ちていった。高宮防衛大臣が急いで蒼一郎の首に手を立て脈を確認した。


 「・・・群青蒼一郎死亡確認。」


7月24日真夏日、雲一つない晴天の下。群青蒼一郎、出血多量で死亡。享年20歳。

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