第4話

 単刀直入に言おう、俺は高校デビューに失敗した。


 それは高校入学と同時に見た目を派手にしようとして失敗したりだとか、突拍子もない自己紹介をしてしまってクラスの皆から距離を置かれてしまったりだとか、そういうことが原因ではない。


 もっと地味な失敗の仕方だ。


 というのも、当初は俺はこの高校に来る予定ではなかったのだ。

 この高校には一度不合格を提示されていて、もう少し偏差値の低い高校へ俺は通う予定だった。


 そっちの高校には中学からの友人がたくさん進学する予定で、中学と似たような日々がこれからも続くと、俺は気楽に春休みを満喫していた。


 しかし幸か不幸か、春休み終盤に繰上げ合格の連絡の電話が届いたのだ。


 俺はどうするか迷ったが、母親の強い勧めもあり、その繰上げ合格を受け入れることにした。


 今考えれば、その決断はすべきではなかった。

 俺は、身分相応の学校へ進学すべきだったのだ。


 なんとなくこの高校に入学した俺は、授業のレベルについていけないどころか、生徒間同士の会話のレベルにもついていくことができなかった。


 そのレベル差を埋められるような、コミュニケーション能力や向上心を持っていなかった俺は、そのまま自然とクラスから孤立してしまった。


 そのため、高校に入学してからまもなく1ヶ月が経とうとしているが、俺には友達らしい友達が1人もできていなかった。


 ——そんな地味で寂しい学校生活を、俺は送ってはずであるのに……。



「(じーーーーーー)」

「…………っ」


 3時間目の数学の授業中の現在、右隣の席の美少女に俺はなぜか凝視されていた。


 バレないように横目でそっと確認したが、彼女はこれでもかというくらいに俺のことを凝視している。

 

 (な、なんでえええ!?)


 わけがわからなかった。



 ちなみに、俺を凝視してくる彼女の名前は、土屋 愛。


 絶世の美女と噂される彼女は、クラスメイトからだけではなく学校中の生徒や職員から、一目置かれていた。


 すらっと長い手足に、ブロンドカラーのロングヘアー、シュッとしたフェイスラインに、すうっと綺麗で高い鼻。


 そんな彼女の圧倒的すぎる美貌は、噂を聞きつけた他のクラスの生徒が、休み時間などにうちのクラスへ覗きにきてしまうほどのものだった。


 きっと前が見えないほどの暗闇でも、彼女が隣にいれば、彼女の持ち前の神々しいオーラによって難なく歩けるようになるだろう。


 おまけに彼女は、勉強も運動も高水準でこなしていた。


 入学早々に行われたテストでは学年で1桁の順位の成績を収めたと話題になっていたし、体育の授業でもその運動神経の良さを遺憾なく発揮していた。


 クラスメイトからも支持されていて、いつもクラスの中心におり人望もある。

 完全無欠という言葉はきっと、彼女のために作られた言葉なのだろう。




「(じーーーーーーーーーーーー)」 

「…………っっ」


 そんな彼女が絶えず、俺のことを凝視してくるのだ。


 俺と彼女は大した接点がなかったし、それこそ俺は、彼女とまともに話したこともないんじゃないだろうか。


 そんな関係性でしかないのに、なぜ俺のことをそんなに凝視してくるのか。


 昨日はaiさんと夜遅くまでゲームをしてしまって寝不足だったので、授業中に寝てしまうんじゃないかと不安だったが、そんな不安は杞憂に終わった。


 もっとも、それよりも重大な事件に巻き込まれているような気がするが。


 昨日aiさんには『隣の美少女と一度目が合って、ニコって微笑まれたら好きになっちゃうかも』みたいなことを言ったが、こんな意味の分からない状況で目を合わせれば、石化でもしてしまいそうだった。


 ただただ、怖ぃ。


 幸い、俺たちの席は1番後ろの列で、この不思議な状況をクラスメイトの誰かに見られているということはなさそうだった。


 こんな様子を見られてしまえば、学校中の男子に土屋さんとなにがあったんだ、問い詰められていたに違いないだろう。

 


 ……しかし、ずっとこのままというわけにはいかない。

 一度、土屋さんと目を合わせてみて、様子を窺ってみるべきだ。


 もしかすると土屋さんは、何か俺に重大なことを伝えようとしてくれているのかもしれないし、はたまた、何か助けを求めているのかもしれない。


 それを無視し続けるのは、さすがに良心が痛むというやつだ。


(仕方がない、覚悟を決めよう)


 この不可解な状況から一刻も早く解放されたかった俺は、そう決心を決めて、ついに土屋さんの方へ視線を向けた……!



「っ!」

 

 当然、土屋さんとバッチリと目があうことになる。


 肌が白い……。

 まつ毛が長い……。


 思わず目を手で覆いたくなってしまうほどに、土屋さんの発するオーラは眩しかった。


 まるで日光に照らされ純白に輝く雪を、見ているかのような気分だった。

 それでもめげずに、俺は目線を合わせ続けた。


 

 一方の土屋さんは俺と視線があったのが分かると、なんだか不思議な表情になり……。


「…………フッ」


 次の瞬間、土屋さんは俺のことを鼻で笑った。


(!?!?!?)


 そんな奇天烈な状況に俺はただただ、呆然とすることしかできなかった。

 

 しかし土屋さんは、そんな俺に今度は目もくれず、1つあくびをした。

 そして先生にバレないように前の席の生徒の影を使って、睡眠学習を始めてしまった。

 


 …………もしかして俺は今、煽られたのか?

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