第6話 真実と嘘

 薄っすらと雲がかかり、月の光がぼやける夜。

僕は、サンファ山のふもとの街で、数名から金と引き換えに情報を得た。

ダークホースのメンバーの一部に、防犯カメラの解析担当がいるため、彼らに直接話したところ、なんとこの国中の防犯カメラを分析してくれた。

そして、恐らくこの山に来たということを判断したのだ。

彼らいわく、今回の事件はかなり話題度が高い……らしく、基本は引き受けてくれない案件だったがうまくいったようだ。


そんなことはさておき、今朝以降にこの山で新しい顔を見かけなかったかと聞く。もちろん出勤していた奴も大勢居たが、一日中家にいた奴も居たようで、今日の夕方すぎに青色のワンピースの女が山を下っていく様子を見たという。

また、その時に近くに居た人物の名前も教えてもらった。それは「ミヤモト・アカネ」という人物で、彼女は10年以上前からこの近辺に住んでいるらしい。


 僕は怪しまれることを覚悟して、「ミヤモト・アカネ」のネームプレートを探した。一時間ほど経ち、見つけたのは木造の立派な家だった。

そして、カーテン越しのライトから中に人がいると判断する。もちろん使いたくはないが、拳銃があることを確かめた。

情報が正しければユミンとアカネという人物がいることになる。

少しだけなのだから、相手の警戒具合にもよるが乱闘にはならないだろう。

彼女ユミンが応答すればいいだけのことだ。

そう信じて、僕はインターホンを押す。


 二人は談笑していた。これまで会えなかった日々を埋めるように。

そんなところに、「ピーンポーン」と無機質かつ機械的な音が響く。

アカネは少し不審がった。

「こんな夜に、一体誰かしら……」

ジュンカは彼女を静止する。

「待って。もしかしたら、なんらかの組織にこの場所が特定されたのかもしれない。私が出るから、アカネは2階で待ってて」

「え、でも……」

「大丈夫、これでも私、元警察官だから」

アカネは何度もジュンカの方を振り返りながら2階に上がっていった。

その様子を見届けた後、彼女はひたいに汗をにじませながらインターホンへと歩く。

微かに震える手で応答ボタンを押した。

「……こんばんは」

彼女はその声を聞いて、一気に瞳孔を開く。汗が頬を伝い、少しの沈黙が落ちる。

「…………すいません、誰ですか? 私は……」

「そこにいることは分かっている。キョク・ユミン。僕はお前と少しだけ話がしたいだけだ。武器は持ってきていない」


彼だ。

「だから、何を言っているか……」

「いい加減にしてくれ。数日前に会ったばかりだろ。所属組織ダークホースのスピアだ。ここでの潜伏は危険だという忠告も兼ねている」

ジュンカは必死に考えていた。どうしてここがバレた? 一体、誰が? ……2階にはアカネがいる。彼が引き下がる様子もないので、話をするしかない。ただ、それは私にとって避けたかったで……。

いや、もうこれしかない。

武器を持っていないというのは恐らく嘘で、応答しなかったら使う気なのだろう。無関係の彼女を巻き込むわけにはいかないのだ。


「……このままインターホン越しで、その話とやらをしてもらってもいいですか? 」

彼は少し逡巡していたようだが、いいだろう、と彼の声が響いた。


彼は言った。

「どうしてもお前に聞きたいことがある。まず一つ目、どうしてあの時に俺を助けた? なぜ、警察を裏切った? 」

私は真実を言った。

「警察官の姿に憧れたとかいう理由で、私は警察官になったのではありません。正直言って彼らはどうでもいいんです。彼らは、他人なので」

彼は言った。

「じゃあ、二つ目の質問だ。どうしてお前は『エターナル』のソウル支部を襲撃したんだ? それも一人で」

私は嘘を言った。

「彼らが目障りだっただけです。アナタだって敵対してる勢力の一つでしょう」

……納得がいかなかったのかもしれない、風の音だけが聞こえる。

だが、彼は反論することなく最後の質問を言った。

「お前は、どうしてを持っていたんだ? 」

彼の指輪は、雲の合間から差し込む月光に照らされて銀色に光っていた。


一瞬、すべての時が止まったように思った。

私は嘘を言った。

「…………私の部下がどこからか手に入れたものです。入手方法は知りませんが、交渉に有利に働くかもしれないと言われただけなので」

彼は、ため息をついた。

「……分かった。とりあえず質問タイムは終了だ。最後に言っておく。僕はお前を殺しに来たわけではないが、刺客が来るのも時間の問題だと思う。今のうちに逃げておくべきだな」


彼はもう戻る気らしい。

私は、つい口にしてしまう。

「アナタはどうして、私のためにこんなところまで来たんですか……? 私とこの数分話すために、どれだけの労力を……」

彼はそっけなく言った。

「さあ、な」

そして、彼の姿は消える。


アカネが1階へ降りてくるまで、インターホンの前から動けなかった。

ジュンカは、虚ろな目で言い続けていた。

ごめんなさい、と。

何度も。

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