第40話

――二時間経過



剛に疲れは見えない

それはそうか…今の移動スピードは傑に合わせている

剛だって俺ほどじゃないにしてもかなりステータスはかなり高い

もし二人だけで移動していたら一時間もあれば着いていたと思う


でも仕方ない…傑は、レベルリングに参加出来てなかったからレベルが低い

スキル習得もあまり出来てないから能力値補正も殆どない

数レベル上がっているとはいっても、地球にいた頃とそんなに変わらない

それが分かっているから、今すぐにでも飛び出して行きたいはずの剛も我慢している


傑自身もその事を自覚しているのだろう、時折思い出したように苦虫を噛み潰したような顔になる


俺が両肩に初島と傑を乗せて移動するって方法もあるし、少しやろうかな?なんて思ってたんだけど

初島は拗ねるし、傑の自信だけじゃなくてプライドまでへし折ってしまうのは俺の本望ではないからやめておいた



――さらに30分走り続けた



「ここだ…」


俺が覚えている盗賊のアジト周辺に着いた

俺の予想より30分程早く着いた、それは傑が休憩もとらず全力でここまで走り続けたから

既にボロボロだが、この心の強さというか芯の強さは流石だと思う


いきなり突撃する訳にもいかないのでちょっと離れた所で様子を見る

アジトといっても山中にある洞窟を拠点にしている為そんな大層なものでもない


だが、なんだか様子がおかしい

洞窟含め気配察知の範囲に入ったはず

なのに洞窟周辺には……気配がない?


やっぱりそもそも山本達は盗賊に捕まってないのか?

それとも盗賊自体がいない?もしくは違う場所で活動してるのか…


なんて考えていたらちょっと離れたところで2つ魔力が移動していて、その後方にデカい魔力がいる


追いかけられてるのか?

盗賊にしてはこの魔力はデカすぎるし、他の反応がないのも気になる


「剛っ!もしかしたら緊急事態かもしれない。あっちの方を探してくれ」


「分かった!」


剛は祐二を背負ったまま全力で向かう

そのスピードはさっきまでのものとは桁違いであった


それを見た傑の表情が歪むが、俺に掛けられる言葉はない


本当はあっちには俺が行くべきなんだろうが今の状態の傑と初島、両方を守るならこっちの方が都合がいい


気配察知には反応はないが確認するのは大事だ、なるべく気配を殺しながら洞窟へと向かった



――和泉達と別れ、指示された方向へ…



今回の話を聞いた時

自分らしくない感情が湧き上がった


理由は分かってる、山本の名前が出たから

和泉以外は気付いてるだろうけど、俺は山本の事が好きだ


あの笑顔を見ると元気になる

彼女の元気な声を聞くとこっちまで元気を貰える


そんな彼女が盗賊に捕まって、想像したくもないような酷い事をされている

俺は言葉に出来ない程の怒りを覚えた


そしてその矛先を盗賊ではなく、和泉へと向けてしまった

こうなる事を知っていたんなら…アイツなら止められたんじゃないか?

山本が酷い目にあうこともなかったんじゃないか?

そんな気持ちが湧き上がる


こんな事思うのはお門違いなのは分かってる!!

和泉が裏で色々していてくれたのも分かってる!!


でもっ!!

なら…それなら…

せめてもっと早く教えてくれても良かったんじゃないか?


なんて考えるけど、無理な事は分かってる

本当にもっと早くに教えられていたら、俺は何もかもを犠牲にしてでも助けに行っていたかもしれない


鑑定魔法なんてそっちのけにしていたかもしれない

傑は今、俺たちより遥かに弱い

でもそれはあの戦いのせいだ

だからもしかすると傑みたいになっていたのは俺だったかもしれない


それほどまでに鑑定魔法はすごい

今だからこそ分かる

和泉が拘っていたのも納得出来る…


そう、結果だけ見れば和泉の判断はいつも正しい

和泉はいつも正しい選択をする

でも正しい事が正解とは限らないだろ?


正しいけどたまに人の心がない様に感じる時がある

正しければ人の気持ちは置き去りにしてもいいんだろうか?


暫く走ると逃げるように走る女性を2人見つけた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る