第14話

――2周目が始まって10ヶ月が経とうとしていた



あと2ヶ月…初級鑑定魔法の取得も、寮を追い出されるのも、もうすぐだ


1度倒れて以来、体調にも気を付けている

あの厄介者に見付かると大変だからな…


スキルの取得状況が分からないので正直何とも言えないのだが概ね順調だろう


あとはアイテム探しさえ終わってしまえば完璧なのだが、そっちは行き詰まっている

1周目でそれを発見した時はそこまで高いものでもないし珍しいものでも無かったんだがこんなにも見つからないものなのか?


祐二が皆に伝えて探してくれているんだが、そっちも駄目らしい…


焦っても仕方ない、空想上の物を探している訳ではないんだから絶対見つかるはずだ


取り敢えず今日も瞑想をしよう

いつも通り12時間の瞑想を終えると脳内に詠唱が浮かび上がる


「ははっ、まじか!あと2ヶ月あったはずなのに…」


実に何年、いや何十年ぶりだろうか

この感覚は覚えている

嬉しい誤算だ、今の俺にとって時間はなによりも貴重なんだから


喜びを噛み締めながら詠唱する


「我求む、我が魔力を以て、我が能力を映し出せ、ステータス」



和泉 啓介

age:17

レベル:1

職業:無職

体力:2980/680(+2300)

魔力:1050/0(+1050)

技能

力:13(+280)

技:13(+230)

速:13(+150)

魔:1(+105)

スキル

槍術、剣術、斧術、弓術、棒術、槌術、格闘術、空手、武人

魔法

鑑定(初)

EXスキル

極めし者(リセットボーナス)



へ?なんだこの出鱈目な加算値は…

加算値だけで1周目の初めて鑑定魔法を使った時に近いレベルじゃないか

それにEXスキルの極めし者ってなんだ?

1周目を含みこんなスキル見た事も聞いた事もない

リセットボーナスと書いてあるからリセットボタンの恩恵って事か?


当然だがリセットボタンのスキルは無くなってる…


この出鱈目な加算は極めし者のスキルの影響っぽいな

スキルの方もそれなりに取得出来ていたし良かった


「ふぅ…」


失敗出来ない2周目、仲間達と離れた生活、1周目とは違う出来事も起きていて内心では不安でいっぱいだった

そもそも1周目やリセットボタンなんてスキルは俺が見た長い夢だったんじゃないか?なんて思った事もあった


取り敢えず最低限、取り敢えず1歩

だがこの1歩は俺にとってかなり大きな1歩だった



レベルアップの能力値加算は教会でのみ有効だった

じゃあスキル取得による能力値加算も同様なのではないか?もしくはステータスを確認する事で教会と同じ効果が得られるのではないか?


真偽は定かではないがとてつもない力が湧き上がる

まるで1周目に戻ったかのような


今の俺なら中級ダンジョンくらいソロで制覇出来るだろう

これで唯一心配していた討伐者になるってのもクリア出来る


色々不安だった事が一気に解消され、何より毎日12時間拘束されるのが無くなった俺は気が緩んでいたのだろう

あんなこと言うつもりはなかったのに


コンコン


俺の部屋を叩く音がする

こんな所に来るのはご飯を運んでくれる神官か裕二か初島くらい…


あの日からたまに初島がこの部屋に来るようになった

「この部屋の事バラされたくなければ…」

なんて脅してくるから仕方なく相手をしている


俺としてはさっさと祐二とくっついて欲しいのだが…


扉の先には初島がいた


「よぉ、なんだ?」


「あら?珍しく好意的に招いてくれるのね、いい事でもあったの?」


「まぁ、な。で?何の用だ」


「特に予定はないわよ」


そう。この女、毎回予定はないと言いながら度々やって来て会話だけして帰っていく


「そうですか。あ、そうそう暫くここには戻ってこないからしばらく来なくていいぞ」


「え、なんで…」


「理由は言えない、最悪2ヶ月で戻れない可能性もあるし」


「そんな…」


「だからお前に伝えとかなきゃいけない事があったんだ」


そう言うと初島がなんだかソワソワし始めた


「もし俺が2ヶ月戻らなかった時は剛達のチームに入って、俺を待っててくれ」


「………」


「だめか?」


「………」


「おーい」


「………」


なんか唖然とした顔をしてるし、ちょっと怒ってる?


「まさかとは思ったけどやっぱり君はそういう人だよね!!散々分かったつもりでいたけどここまでとは…」


なんかブツブツ言ってて怖い


「あのー初島さん?」


「なに!?」


めっちゃ睨まれたんだけど…怖いやだ


「あの、ですから俺が戻れなかった時は…」


「聞いてたわよ!うるさいわね!!」


なんかめっちゃキレてる、こわい


「何か言いたいことでも??」


「いえ」


「でも私にはそのお願い叶えられないわ」


さっきまで怒ってたのに、急に彼女の表情が暗くなる


「なんで?」


「だって私は…」


「治癒魔法が使えないから?討伐者になるつもりはないもの、か?」


「っ!!なんでっ!?」


1周目の最後、俺が探し求めていた人物は治癒魔法のスキルを取った同級生

それが初島だった

負けるつもりなど少しもないが、万が一の備えとしてどうしても欲しかった

ただ治癒魔法なんて最強クラスのチートそう簡単に使えるはずもない

恐らくだが必要技能がかなり高く、1周目の初島では取得出来なかったのだろう

でも今回は違う、俺が取得させてみせる


「大丈夫だ、討伐者の条件はあくまでチーム。剛達のとこに入れてもらえば戦闘能力がなくても討伐者になれる」


初島の顔はまだ曇ったままだった


「……あー、まぁ安心しろよ。3年以内に俺が治癒魔法を使えるようにしてやる」


そう言った俺の顔を初島がじーっと見ていた

その顔はさっきまでの不安そうな顔ではなく、驚いたような…


「意外と長いのね」


そう言った初島の顔はいつもの顔に戻っていた

まさか文句を言われるとは…


「だからさ…」


だからその力で俺達を助けてくれよ

そう言おうとしたら遮られた


「なら私からも1つ条件」


「なんだよ」


「私の事ちゃんと女の子として見て」


ここまで言われて気付かないほど俺は鈍感ではない

今までの行動でそんな気はしていた、でも1周目の事を言い訳にして彼女の気持ち……を見ない振りしてきた


まさかそれを指摘されるなんて思ってもいなかった


「いや…でも…初島は祐二の事…」


「なんで今、支くんが出てくるの!?確かに告白された事はあるけど…」


告白…

ああそうか、最近の祐二の態度にようやく納得出来た


ただそれでも…


「俺にはどうしても初島の事そういう対象として見る事が出来ない理由がある。それを無くすにはきっと時間が必要で、それまで待ってて貰うとかは違うし、初島を幸せに出来る人はきっと他にいると思ってる」


そしてそれは俺じゃない…

あの時の君はちゃんと幸せそうだったよ


それでも…


「それでも、もし俺のこの蟠りが消えても初島が俺の事想っててくれるなら…」


これが今の俺の精一杯


「その時はデートしようか」


正解ではないかもしれないけど、これで良かったのかどうかは彼女の笑顔が語っていた

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