※第6話

見間違いであって欲しかったが、残念ながら違ったみたいだ…


災害指定害獣アグニ。硬くてデカいだけの単細胞な害獣かと思っていたが、実はこいつ人間並みの思考力を持っていたらしい…


Aランクチームの邪魔にならないよう逃げようとしたらマグニの足元に巨大な黒い魔法陣が浮び上がった


は?嘘だろ、害獣が魔法を使うなんて…

気付いた時にはもう遅かった、そもそも知っていたとしても避けられなかったかもしれない

体が動かせなくなった、急に重力が何倍も重たくなったかのように

立っているのも難しくなり地面に貼り付けになる

重力は時間と共にどんどん重くなり、その圧力だけで骨が軋んできた…

後ちょっとで肋骨が折れる、そう思った所で重力の加重が止まった

それでも指1本も動かせない


倒れる時アグニを見ていた俺はその後のアグニの動きを見る事が出来た


地面に張り付けにされている俺達を見て、アグニは笑った

今度は確実に笑ったと言えるほどニヤリとした


本当はいつでも殺せたのに、遊んでいたのだろう

そして俺達が1番絶望するタイミングで奥の手を使った

こんなのまるで…人間じゃないか


俺はアグニを見ていた事を後悔した


アグニは他のCランクチームのメンバーを咥え、口へと入れた


「やめてくれ!やめてくれ!やめてく…」


叫び声は断末魔へと変わり、その後ゴリゴリと言う人間を押し潰す音が響いた


そうして何人かを食べたアグニは、裕二の前へとやってきた


「やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!」


俺がどれだけ叫んでもアグニは止まらない

なんなら俺の方を見てまたニヤリと笑った


そして祐二も他の人と同じように食べられてしまった


「やめろおおおぉぉぉぉぉ!!!」


さっきまでと違うのは俺の叫び声が響いていたという事くらい


食べるのに飽きたのか今度は踏み潰し始めた

潰す時も叫び声を楽しむかのようにゆっくりと踏み潰し、その後も丁寧に足を捻って遺体をグチャグチャにした


どれだけ叫んでもやめない


1人また1人と潰されていく、Aランクチームの人たちも傑も潰された

そして最後に俺と剛だけが残った


「頼む…もうやめてくれ…」


俺の心は限界を超えていた

早く殺してくれ…

そんな俺の想いを感じ取ったのかアグニは先に剛を踏み潰そうとする

アグニの巨大な足が剛の上にのしかかる


「ぐはっ!!」


そして他の人と同じようにゆっくりと踏み潰されていく

剛は最後の力を振り絞り顔を俺の方へと向けた


ごめん…にげろ


声にすらならなかったが口の動きで伝わった


なんで剛が謝るんだ、こいつの存在は災害なんだ俺達にどうこう出来るはずが無かったんだよ


そして剛が踏み潰された

最後は俺の番だったが俺の心は限界を突破し感情が許容量を越えてしまい気絶した

死ぬ時に気絶とは全くもってなんて人生だったのか…

でも痛みを感じずに死ねるならそれもいいか


目が覚めた


そこは天国でも地獄でもなさそうだった

ただただ広い草原

死後の世界は案外こういう場所なんだろうか?

体を起こそうとするが疲労がすごく、重たい

まるで死んだ時の状態を引き継いでいるかのように


というかこの草原…さっきまでいた草原と似てないか?


なんで…

ようやく理解した

俺は死んでいなかった


なんで、なんで俺だけ生かした…

なんでよりによって俺なんだ!

剛でも良かったろ!裕二でも!傑でも…

なんで恋人や家族がいるあいつらが死んで、俺が…


何度目か分からない絶望感が俺を覆い尽くす

俺は一体これからどうすればいい…?


何度もこのまま死のうかと思った

でも、その度に剛の最後の言葉が俺を引き止める


ごめん…にげろ


こんな俺に生きてて欲しいと願った、親友の想いを踏みにじることは出来ない


俺は事の顛末を報告する為、討伐者役所へと向かった

職員に俺の名前を告げた時はかなり驚かれた、あの戦いへ向かった者は全て死亡扱いとされていた


何故ならマグニはあの後、近隣の街を2つ破壊してどこかへ消えていってしまったから


生き残った俺に待っていたのは同情や労いの言葉ではなかった


「1人だけ逃げた臆病者」

「街を守れなかった恥晒し」

「害獣と繋がっているのでは?」

「独り身だから他の仲間を恨んでいた」

「罠に嵌めてアグニに殺させたんだろう」


様々な罵声を浴びせられた

勿論中には分かってくれていた人もいたが

人々にはこの凄惨な事件の感情をぶつける対処が必要だったのだろう


でも不思議とそんな言葉は気にならなかった


街を歩いていたら偶然、初島と出会った


「和泉…くん」


初島の顔は痩せこけて、何度も泣いたんだろうと分かる物だった


「初島…」


こんな時に不謹慎だが、祐二を亡くしたから俺の事を頼ってくれるんじゃないだろうか?

なんて思っていた


だが初島の反応は正反対だった


「あなたが悪くないのは分かってる…でも、それでも祐二が死んだのに生きてるあなたが憎い!!こんな事…言いたく無いけど、あなたじゃなくて祐二が生きていてくれたらって思ってしまう!!あなたを見ていると私が私じゃ無くなっていきそう…二度と私の前に現れないで!!」


どんな言葉よりも俺の心を抉った

そしてこんな状況、こんな最悪のタイミングで分かってしまった

俺は初島の事が好きだったんだと…


まぁでもそんな事はどうでもいい

俺にはやらなきゃいけない事があるんだから…

上級ダンジョンへと向かった


限界までひたすら害獣を倒し、腹が減ったら害獣を食べる

味なんてどうでもよかった腹さえ満たし、動く事が出来れば

俺を突き動かすのはある目的

それを達成出来るなら他にはなにもいらない


上級ダンジョンに籠ってどれくらい経っただろう?

来る日も来る日も狩り続け

ダンジョンボスも相手にならなくなった


俺の目的は上級ダンジョンのクリアではない

だからひたすら狩り続けた



――そうして5年の月日が経っていた



髪は伸びまくり邪魔だから後ろでくくっていた

髭もボサボサでもう顔を見ても誰だか分からなくなっていた

そこまでしてやっと女神の祝福が聞こえなくなった

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