6話 黒色パーティー




 それから宿に着くまで、『粉』や商会の人員についていろいろと話す羽目になった。


 すごい偶然もあったものだ。


 俺のクソみたいな経験でも役に立てて良かったと思う反面、この件が終わってもまだ役に立てるのだろうかという不安がある。


 今は考えても仕方がないことだ。


 これからご主人のパーティーメンバーに会うんだから気合い入れないとな。


 ご主人がこれだから、ちょっと不安。



 比較的大きな木造の建物の前で、俺は地面に下ろされた。ここが宿のようだ。扉を開いたご主人の後について建物の中に入る。


 入ったところはテーブルセットがいくつか並んだ食堂のようになっていて、奥に受付らしきカウンターが見える。

 わかりやすく『食堂兼宿屋』である。


 ご主人は受付にいるゴツい男性のほうにズンズン歩いていった。



「おう、旦那。泊まるの一人増えたから帳簿につけといてくれ」

「あいよ……子供?」

「ああ」

「大人の半分の料金だ」

「わかった」


 それだけ。愛想も何もないが、詮索もないやりとりだった。こういうのいいな。


 受付の横にある階段で上の階へ向かう。泊まっている部屋は三階にあるらしい。


 木造だがしっかりした作りの建物で、太い梁や柱に支えられている。階段が軋むということもない。



「あー、その、なんだ……ちょっと怒られるかもしれん」

「?」

「ほら、俺昨日は外で情報収集がてら飲みに出かけて……丸一日帰ってない上に、お前を買ってすっからかんなわけだから……」


 扉の前で躊躇っているご主人。


 うーん、ちょっとダメっぷりがひどい。怒られてください。


 ぐいぐい背中を押すと、押しに弱いご主人はやっと取手に手を掛けた。


 ちなみにこの国のドア、ちゃんとドアノブっぽいものがあります。



「おーう、帰ったぞ……」

「どこ行ってたんだ!遅いよ!」


 第一声が怒声だった。


 ちょっとどころじゃなく、めっちゃ怒られてるが。


 俺はビビってご主人の後ろに隠れた。

 ご主人が俺の後ろに隠れたそうだったので、先手を取った。



「ハルク!お前が支部で紹介された借家はなんか嫌だって言うからわざわざ宿を取ったのに!なんで丸一日帰ってこないんだよ!勝手にフラフラすんな!バカ!」


 全体的に白い感じの人がむちゃくちゃ怒ってた。門限破って帰ったときに玄関で仁王立ちしてるお母さんみたいだ。


「お前はいつも勝手に行動して!今回は連携して動かないとヤバいって言ったろ!そうでなくても街がきな臭くなってきたのに」

「例の商会のことか?」

「なんだ、知ってたのか。明らかに黒なのに証拠が掴めなくて……え?誰それ」


 出るタイミングを逃しちゃったので、白い人の怒りがちょっと鎮火したあたりで、ご主人の後ろから顔を出した。


 これけっこう高い部屋なのでは。見える範囲でベッドが四つに、続き部屋もあるし、カウチのようなものまである。奥には小さめのベランダのようなものも見える。


 わがまま言ってこの部屋に移ったのにそりゃ本人不在じゃあ怒られるよ。

 よくわからないけど、黒色パーティーとやらは稼ぎがいいのかもしれない。

 いいところに就職できたようだ。


 まあ、今はことによっては絶賛解雇の危機だが。



「ハルク、その子供はどうしたんだい」


 奥からやってきた騎士っぽい雰囲気の人が穏やかな声でご主人に問いかける。この人がリーダーかな?ぜったいにそう。



「あー……買った」

「へえ、買ったの……買ったぁ!?えっ、何だって?」

「いやだから、そこの奴隷商で」

「はあ!?こんなときに奴隷買ったのお前!何考えてんだ!バカだろ!!」


 やっぱりそう思うよね。

 俺の紹介は丸く収まりそうになかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る