#46 本能



 ベランダでの事を終えて互いに息も絶え絶え脚をもつれそうにしながら室内に戻り、なんとか窓を閉めると二人して床に倒れ込むように寝転んだ。



「これ、ヤバイかも」ハァハァ


 体だけでなく二人の心も1つになって、お互い口にせずとも考えることが同じかの様に最初から全力ダッシュでゴールを目指して駆け抜けるようなセックスだった。

 こんなにも刺激的で充足感のあるセックスは、初めての体験だった。


「うん…すげぇ興奮した。興奮しすぎてゴム着ける余裕なかった。ごめん」ハァハァ



 謝りながらなんとか体を起こして箱ティッシュを取ると、ミキの体に掛けてしまった自分の体液をティッシュで拭き取った。


「ううん。誘ったの私だし、ちゃんと外に出してくれたから大丈夫だよ?」


「でも今度からは気を付けるよ」


「うん」



 ミキも上体を起こすと、返事をしながら俺の首に両手を回して自分に抱き寄せるようにして再び寝転んだ。


「後でシャワー浴びれば良いから、もう少しこうしてたい」


「そっか、わかった」



 ミキと抱き合ったまま横に転がる様にして体勢を入れ替え、仰向けになった俺の胸にミキが顔をうずめて余韻に浸るようにして、落ち着くまで大人しく時間を過ごした。



 照明を落としたままで暗い室内の天井を見上げ、息を整えながらミキの柔らかい髪を撫でる。



「お隣さん、気付いたかな?」


「どうだろ?声は出さないようにしてたし…って、お隣さん寝てるって言ってなかったっけ?」


「うーん、電気は点いてなかったけど分かんなかった」


「じゃあ何で寝てるみたいって言ったの?」


「そうでも言わないと、ヒロくんがベランダでその気になってくれないと思って」


「そんなにベランダでしたかったの?」


「だって、お隣さんに見せつけたいって思ったんだもん」


「その気持ちがよく分からん」


「女の子同士だとそういうのがあるの」


「私の彼氏に手を出すんじゃねーぞ?って感じ?」


「そうだね。 それに、お外でするのにちょっぴり興味沸いちゃったのも本当だし」


「まぁいつもと違う状況で緊張感ある中でするのは、異常な興奮があったね」


「そうなの!めっちゃ興奮した!またしようね」


「それはちょっと…」


 ホントはまたベランダで致すことにはやぶさかでは無いのだけども、余りミキが調子に乗ってエスカレートするのも怖いので、乗り気では無い態度を取り繕った。


 でもミキは、そんな俺の態度を気にすることもなくズズズっと顔を近寄せて、頬にチュっと軽くキスをしてから、「今、すっごく幸せ。 ず~~っとこうしてたいよ。もうこのまま一緒にココで暮らしたいくらい、一分一秒でも離れたくないよ」と、先ほどまでとは違うすがる様な口調で語り出した。


「旅行中に、ヒロくんへの好きな気持ちとか葛藤してる悩みとか色々お話したでしょ? でも、さっきベランダでエッチしてて全部解っちゃった。 私がヒロくんのことが好きなのって、色々な理由あると思って今まで自分なりに考えて来たけど、コレは理屈じゃなくて本能なんだって。野生動物のメスが強いオスに惹かれるのと同じで、本能でヒロくんに惹き付けられてるんだって解っちゃった」


「うーん…分かる様な分からない様な…俺、野性的でも強いオスでもないしな。 でも、俺もさっき裸のままベランダに出てるミキを眺めてて、目が離せないくらいにミキに惹き付けられてたなぁ。なんだか神々しいとすら感じてた。 そういうことかな?」


「どうだろ? でも、私が言いたかったのは、好きでいるのにアレコレ理由なんて要らないんだ。ヒロくんを男性として愛しているんだったら、その自分の本能をただ信じれば良いんだってことなの」


「なるほど…、確かに俺も自分の中で色々と理由付けしがちだから、そういう考え方を聞くと、うならせられるな」


「でしょ? それくらいさっきベランダでしたセックスが私にとっては濃厚で刺激的な体験だったの。 だからまたしようね?」


「分かったよ。 でもたまにだよ?毎回あんなことしてたらその内だれかに見つかってマジで苦情くるからね?最悪管理会社に苦情行って退去させられちゃうからね?」


「ふふふ、それは流石に不味いね」



 ミキって、これまでは恋愛初心者にありがちな恋に恋するロマンチストだと思ってたけど、なんだか哲学的なことを言い出した。

 これも、俺との喧嘩と仲直りを経て刺激的な性体験をしたことでの変化なんだろうか。


 ただ確実に言えるのは、ミキの俺に対する気持ちがより強く感じるってことだ。 昨日俺もミキに対する気持ちが強くなるのを自覚したし、お互いの気持ちが上手く絡み合い始めたとも言えるだろう。



 しばらく裸のまま床で抱き合って余韻に浸っているとミキが寝落ちしてしまい、何とか抱え上げてベッドに移動させて、クーラーを切って窓を網戸にしてから、結局シャワーを浴びないままミキと抱き合う様にして眠った。



 ◇



 翌日、日曜日。

 早朝6時前に目が覚め、ミキも起こしてから一緒にシャワーを浴びて、さっさと着替えを済ませた。


 先週末は帰省してたし今週は金曜夜からミキが泊まりに来てたせいで、毎週土曜日のジョギングをサボってしまっているので、ミキも誘って軽く流す程度のジョギングをすることにしていた。


 お互いTシャツにハーフパンツの軽装で、頭にはキャップを被り首にハンドタオルを掛けて、準備完了。

 施錠を確認してから外へ出ると、まだ7時前だというのに既に外は暑かった。


 軽く下半身の柔軟しながらミキに話しかける。


「コースはA大構内でいい?」


「うん、おっけー」


「途中、車とかバイクとかには気をつけようね」


「うん、わかった」


 ゆっくりと走り出し、ミキのペースに併せる。

 ミキは元々ガチの運動部だったし今でも体形維持目的で運動を続けているので運動能力は高く、男の俺と走っても遅れるようなことは無く、折角二人でのジョギングなので横に並んで走る。

 けど、走っている間はお互い無口。

 喋りながら走るとペースが乱れたり息が上がるのが早まるからで、俺もミキもそのことをよく分かっているから、黙って走ることに集中する。

 

 一人で走る時と同じいつもの大学構内のルートを2周すると、家を出てから40分ほど経過していたので、ミキに声を掛けて休憩することに。


 自販機でスポドリを2本購入してテクテク歩きながら芝生へ移動。

 腰を下ろして、スポドリでゴクゴクと喉を潤す。

  

 既に日差しは強くなり、俺もミキも汗でびっしょりだが、まだ息が上がるほどでは無かった。


「やっぱり体動かすのは気持ちいいね」


「そうだね。 にしても、やっぱミキは体力あるね。昨日の夜結構激しかったし今もそれなりのペースで走ったけど、まだまだ余裕ありそう」


「うん、まだ全然余裕あるよ。帰って直ぐにでも昨日の続き全然いけちゃいそう」


「ん?続き? ……あ」


「うふふ」


「相変わらず朝からサカり過ぎ。どんだけハマってんだよ」


「冗談だから」


「ミキが言うと冗談に聞こえん。 昨日の朝だってそうだったし、だいたいミキは普段から体力だけじゃなくて精力も余らせすぎで、うんたらかんたら―――」


「あーもうイイじゃん!」


 俺が小言を言い始めると、ミキはそう言って俺の肩を掴み強引にキスして唇を塞がれた。



「え?なんでここでキスになるの?そういう流れじゃなかったよね?」


「だってぇ、汗で濡れたヒロくんの表情が、カッコイイなぁ?って思っちゃったんだもん」 

 

 そう言って再びキスで唇を塞いで来るミキ。

 幸い、夏休み中で朝の構内は人は少なく、今居る芝生のエリアから見える周囲には人影は無かったので、俺もちょっぴりその気になってしまい、しばらくチュッチュとキスを繰り返した。


 2~3分続けているとミキは満足したのか、唇を離してニンマリとイヤらしい笑顔になった。


 それを見て、一言。

「結局、ミキが精力余らせてて直ぐサカっちゃうってのは間違いなかったってことじゃね?」


「さて!そろそろジョギング再開しよっか!」


「あ、誤魔化しやがった」


 コレも、ミキが言う本能って奴なんだろうか。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る