#22 作戦会議




 言い出しっぺの山田が仕切る形で、話し合いが進められた。



「まず、目指すところやけど、『ストーカーを捕まえるか、もしくは証拠を押さえて警察に通報』でええか?」


「了解」


「それでもう一度確認やけど、この部屋での盗難以外に何か思い当たる様なことは無かったんか?」


「うーん…、無いね。 逆に、大学で何か聞いたことない? 俺に関する噂を耳にしたこととか、例えば俺に気がある子が居るとか」


「無いな!」

「無いな!」


「俺の事、紹介して欲しいとか頼まれたことも?」


「無いな!」

「無いな!」


「俺の事、「結構良いよね」とか言ってる子とかも?」


「無いな!」

「無いな!」


「………」


 三島も山田も、そんなにムキに否定しなくても。


「えーっと、話戻すけど、要は、ストーカーを捕まえるなり証拠を押さえる為には、この部屋で接触するなり罠を張るしかないゆうことになる」


「それしかなさそうだね」


「まず、俺達の身の安全に関しては、作戦実行の時は相手一人に対してコチラは3人以上で対応することにしよか」


「おっけ」

「了解」


「問題なんは、相手が次いつココへ忍び込もうとするかやな。 流石に毎日学校サボって待ち構える訳にはいけへんし、交代で待つんしても、人数減るんは避けたいし、何か誘い込むようなことが出来ればええんやけど…」


「確実じゃないけど、曜日はある程度絞り込めてると思う」


「お?何曜日?」


「金曜日に来る可能性が高いと思う。 5月の時も先週も2回とも金曜日に忍び込まれてる」


「そういやさっき、先週の金曜日に盗まれたって言うてたな」


「うん。 5月にトランクス盗まれた時も似た状況で、気付いたのが金曜の夜で、盗まれたトランクスが水曜と木曜に履いてたヤツだったんだよ。だから、木曜の夜に脱いでから金曜の夜に洗濯機回すまでの間に盗まれてるから、金曜日の日中学校行ってる間か、夜バイト行ってる間。 先週の歯ブラシもそんな感じで消えてたし。 それと、金曜は授業が2・3・4と有るからずっと学校に居て夜はバイトだし、留守の時間も長いんだよね。だから、犯人は俺が金曜日に長時間留守にしてること知ってて、ベランダに忍び込んで施錠の確認して忍び込んだんじゃないかって考えてる」


「なるほど。 今の話からやと、ストーカーは秋山の毎週金曜日の行動をある程度把握しとる可能性は、確かに高いな」


「ってことは、金曜日に張り込むか?」


「っていうか、隠しカメラ仕込んで隠し撮りすれば?そうすれば授業も出れるぞ?」


「うーん、それも手やけど、隠しカメラって結構するぞ? それに、それやと面白う無くない?」


「なんでさ、面白くする必要ないでしょ!」


「いやいやいや、面白うせなダメやろ!」


 いつも冷静沈着だと思ってた山田が、ストーカー捕獲作戦を楽しんでいやがる。 さっきまで、身の危険がどうたらとか安全がうんたらと真面目そうに言ってたのに。


「そうだな!楽しくやろーぜ!」


「お前もかよ!」


 さっきまで乗り気じゃなかった三島まで…


「あんまり思い詰めて暗くなってもしゃあないやろ? そんなふざけたストーカーなん笑い飛ばすくらいで丁度ええやん」


「わーったよ!もうそれでいーよ! で、金曜日に張り込むとして、具体的にはどうすればいいの?」


「忍び込む様子は動画で撮影する必要があるやろな。 一人がカメラ係で二人が確保班の役割分担で待ち伏せて、ベランダに姿現したら撮影始めて、相手を不意打ちする形で確保班が飛び出して抑え込む。 カメラはその間もずっと撮影って感じやな」


「なるほど。因みに時間帯は日中と夜のどっちにする?普通に考えたら、暗い夜に忍び込みそうだけど」


「まずは両方張り込んでみるか」


「ちょっとベランダ確認してもいいか? ついでにタバコも吸いたいし」


「了解」


 三島がタバコを持って立ち上がるのに続いて、俺と山田も立ち上がりベランダへ出た。 俺はタバコは吸わないので、代わりにジュースのペットボトルを手に持った。


 ベランダに出て3人横並びになって外の景色を眺めながら、各々タバコを咥えて火を点けたり、ペットボトルに口を付ける。

 一息煙を吐いた山田が、作戦について話し始めた。



「やっぱり当日はココの鍵は開けて置くか。 その方のが一気に飛び出しやすいやろ」


「まぁ3人居れば、もし部屋の中に入られても何とかなるだろうしな」


「了解」


「あとはそうやなぁ。動きやすい服装とか、ベランダから室内覗かれても身を隠せるようにするとか、食事とかトイレもどうするか考える必要あるけど、その辺は追々詰めて行くか」


「そうだな。 留守なのを装う必要あるから、音立てないようにするとか気を付けること色々ありそうだな」


「なんかこういうのワクワクしてくるな!」


「そやな」


「ワクワクなんかしねーよ!俺の身にもなってくれよ!」


「まぁまぁまぁまぁ」

「まぁまぁまぁまぁ」



 室内に戻ると、鈴木にも作戦のことを話すべきかどうかの話になり、鈴木の名前が出てようやく今更になって、山根ミドリが俺の友達と付き合い始めてた情報をミキとヒトミに報告しておくべきことに思い至った。


 鈴木に関しては、「具体的なことは言わずに、金曜日に3人で出かけるから学校休むとでも言えばええやろ。詳しく話すんは落ち着いてからで」と山田が言うので、そうすることになった。


 ミキとヒトミには『俺の友達に彼女が最近出来たんだけど、その彼女が山根ミドリだと発覚した。詳しくは今度話す』とメッセージを送ったら、ミキからは『うわ、マジ!?バイトの時に詳しく聞かせて!』と返信があり、ヒトミからは通話着信がきて電話に出ると『その友達にはミドリちゃんの本性言ったの?言った方がよくない?』と藪から棒に言われ、「全部話したよ。めっちゃ落ち込んで一人になりたいって言って帰ってった」と伝えると、『おっけ。じゃあまたね』と言って電話切られた。



 ◇



 もうそろそろバイトに行く準備始めようかなと思い始めると、山田がいつもの落ち着いた雰囲気で話し始めた。


「俺さ、コッチ来たんが地元の国立落ちて仕方なくやったって言うたことあったやん? ぶっちゃけコッチ来てから『早く地元に帰りてーな。なんで地元に彼女残して俺だけ一人でコッチに4年も過ごさなアカンの』ってずっと内心で腐ってたんやけど、コッチに来て初めて今日は気分が高揚しとるいうか充実しとる気がするわ。 秋山と鈴木には悪いけど、なんかさ、友達が困ってる状況で自分がなんか手助け出来るっていうんが、俺はどうも好きみたいやな」


「あー、なんとなく分かるわ。 頼られると嬉しくて頑張れちゃうみたいな感じ?」


「そうそう! 俺1年浪人してたせいで、そういうんがすげぇ久しぶりなんだよな」


「なるほど。 でも、真面目にやってくれよな?」


「分かってるって!任せとき」



 山田の言いたいことは一応理解出来るが、困ってる自分としては「頼むから真面目にやってくれよ!」という気持ちが強くて、「そりゃ良かったな!」とは言う気になれなかった。


 でも、今の自分の境遇は、「鈴木に比べれば、まだマシだな」とも思った。




__________


いつもご贔屓にして頂き、ありがとうございます。


本日よりGW期間中(4/29~5/7)は1日2話更新(7時と17時)します。

引き続き、よろしくお願いします。



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