第19話 鍛練の始まり

「若様、鍛練の時間です」


「分かった」


 俺が魔法適性検査を終えてから、随分と経ち、俺は5歳になっていた。俺が魔法適性検査を終えてから、俺の周囲には様々な変化が起こっている。


 まず、魔力適性検査の結果、基本属性の全てに適性があったことが判明したのだが、傅役のユクピテ卿と家令が話し合った結果、魔力適性検査の結果については秘匿されることとなった。そのため、公然と魔法の訓練を行うことが出来ないことが判明する。

 しかし、俺にも魔法の訓練をする機会は与えられていた。ユクピテ卿や護衛の家臣たちが魔法の訓練を行う際に、俺も見学の名目で同行し、魔法の訓練をしていたのだ。

 基本的には、ユクピテ卿などが指導役として見守る形でしか魔法を使うことは許されておらず、生活魔法しか使わせて貰えなかった。風属性や闇属性などバレづらいものなどは、魔法訓練場の外でも密かに使っていたが……。火・水・土・光属性など使ったらバレやすかったり、室内では使えない魔法は魔法訓練場で練習するしかなかった。

 また、貴族が使う攻撃魔法については、使用や練習を禁止されている。一応、初級魔導書についてはサヴァルとともに読み終え、記述されている詠唱やどの様な魔法かは把握しているのだが。

 初級魔導書を読み終えてたので、引き続き中級魔導書を読みたいと所望したのだが、まだ許可が得られていない。中級魔導書を読むのが許される間にと、別の本を読まさせられている。それらは貴族として読むことを推奨されている教養書ばかりだ。魔法より貴族らしい教養を身に着けて欲しいとユクピテ卿や家令は考えているのだろう。

 こうして、決して順調とは言えないが、魔法の鍛錬はそれなりに行うことが出来ていた。


 また、俺の周囲の家臣団も再編されている。基本属性の全てに適性があったということで、その情報については箝口令が布かれているものの、いつ情報が漏れるかも分からない。

 ユクピテ卿の話では、領主である父が統治に関する職務を放棄してしまったため、領内では不穏な空気が漂っているそうだ。なので、魔法の才能がある俺が次期当主だと都合が悪いと考える者が悪心を抱く可能性があった。

 加えて、俺が魔法の才能があることが知れ渡ると魔法貴族が誘拐する可能性もあるそうだ。過去にそう言った事例もあり、気を付けなければならないとのこと。

 そして、俺の家臣団の再編のきっかけとなったのが、乳母であるナーリャの妊娠である。ユクピテ卿の邸宅に戻ったナーリャは、夫婦の営みで新たな子を授かったのだ。

 そのため、通いで乳母として女中を束ねていたナーリャは奉公が難しくなり、家臣団を再編せざるを得なくなったのである。

 新たな家臣団は傅役であるユクピテ卿を中心に、新たな護衛や学問の教師役などが追加されていた。従僕も増えるかと思われたが、今回は増えていない。家令の意向では、サヴァルの弟たちを付けたいと考えている様だ。

 女中たちの取り纏めについては、女中長の推薦を受けた者が、ナーリャの復帰まで担当することとなった。因みに、俺に付く女中の数も増えている。

 こうして、俺の周囲にいる家臣は護衛を軸に増え、家令とユクピテ卿の息のかかった者たちで固められたのであった。


 4歳になってからは、外に出る機会も増え、中庭でテトと共に身体を動かして遊ぶことが多くなった。ユクピテ卿としては、領主貴族として相応しい様に身体を鍛える必要があると言うことで、外で運動する機会を増やしたそうだ。

 勉強についても教師役の者が教えてくれる様になったが、領主貴族としての教養や作法を教える者ばかりであった。魔法について、もっと学びたいのだが……。

 因みに、テトは4歳で最低限の文字を覚えることが出来た。貴族の子息でも4歳で文字を覚えるのは早いらしく、俺に影響されて文字を覚えてくれたとユクピテ卿は喜んでいる。

 そんなこんなで、4歳の期間は軽易な運動と教養の勉強に費やされたのであった。


 そして、5歳になったことで、俺とテトの武芸の鍛練が始まった。まだ5歳と言うことで初歩の初歩と言った内容であるが、貴族は5歳の内から武芸の鍛練を始めるのが一般的らしい。

 こうして、俺は魔法の練習よりも、身体の鍛練や貴族としての教養を身に付けさせられる日々が始まったのであった。

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