第二章 第2話

状況がうまくつかめずに私は戸惑いながらも弟と繋がる事ができて、話しを続けていった。


「天国ってどんな世界なの?」

「この周りは……人間として生きていた時の場所よりも、とにかくどこまでかはわからないけど、果てしなく白い景色が続いている」

「白い?類以外の人たちは一緒にいるの?」

「ここは魂の集まりだよ。1番偉い人なのか生き物なのかから聞いたんだけど、魂たちはこれから順番に並んで待つみたいなんだ」

「待つ?何を?」

「それも聞かされていない。また話しをするみたいだから、それまでは何かと従わなければならないみたい」

「順序があるんだね。ねぇ、この電話に繋がる事はあなたは知っていた?」

「いや、知らない。姉ちゃんも誰かから教えてもらった?」

「私のスマホに知らない人からメールが来たの。それを開いたらこの電話の存在を知った。」

「もしかしたら、身近な人から連絡が来た可能性もあるかも。思い当たる人はいそう?」

「ううん、全く思い浮かばない。誰なんだろう……」

「姉ちゃん、仕事うまくいってる?」

「なんとかね。給料は良いけど、時間が短くなって。今から掛け持ちしたらどこかで倒れそうかも」

「とにかく1人だからさ、気をつけてよ。俺……うまくいくように祈ってる。……ああ、もう時間だ。また話しがしたいね。かけれそう?」

「今日はもう話せないの?」

「規則だって。次の魂さんが待っているんだ。だから、また別の日にかけてほしい。……じゃあまた。必ずかけてね」


そう言って弟とは電話が切れた。電話ボックスの中で1人、しばらく俯いて考え込んでいた。

今日はもう繋ぐ事ができないと言われ仕方なく扉を開いて外に出ると肌寒い風が吹いていた。

持っていたストールを首に巻いてまたバス停へと戻った。

数分後にバスが来て乗車し1番後ろの席の窓側に座った。


───弟は1年前、すい臓がんで亡くなった。

生前は水泳やサッカーなどスポーツに明け暮れた10代を過ごし、高校を卒業してからは飲食店にアルバイトとして就き、その後スポーツ医学を学びたいと猛勉強して専門学校へ入学した。


しかし、現実はそう甘くなく、倍率の高い就職難の最中に見据えることのできにくい将来の先を考えて、結果的には理学療法士としてリハビリ福祉施設に就職した。


ちなみにだが、元の両親は私が18歳の時に離婚をし、一時母方の親に預けられたが、母が2年後に再婚した。その時の連れ子としていたのが当時8歳の弟の類だった。そう、私達姉弟は血の繋がらない間柄なのだ。そして弟が就職してから4年後に義理の父親が、翌年には跡を追うように母が病で他界した。

私は長年の勤務先である医療機関で看護士からアンガーマネジメント士として転職し、週に4日の短い勤務体制の中働いている。


しばらくして私達は2人になり、共に支え合いながら暮らしていた。ある日の晩から朝方にかけて、弟が酷い腹痛でうなされていたので病院へ搬送された後、精密検査を行い後日医師からがんを患っていると宣告された。

誤診だと何度も訴えたが、弟は冷静に受け止めた。診察室から出た後に受付のロビーの椅子に座って、誰もいないのを見計らってひとしきり嗚咽した。


その後病室へ行き弟の様子を伺いながら会話をして、元気な素振りをする彼に微笑み返して私は自宅に帰って行った。


1年が経ち弟が状態が良いと言われて一時期帰宅を許可された。夕食を食べながら、彼の表情を見ていると、以前よりも痩せ細った身体つきや箸を持つ手元に目が行き少しだけ目を潤ませていると、私に話しかけてきた。


「俺さ、前に姉ちゃんに言った話しの事、覚えている?」

「何だっけ?」

「やっぱり忘れているよな。告白した事。俺が30になる手前に姉ちゃんに言ったことだよ」


そうだ、このような食事を囲むなかで、彼は私に血が繋がらないからという理由で告白をされたのだった。

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