最低の彼を求めて~ダメ男を想い続ける女子高生~

アニ野祭 ナリハル

プロローグ

「俺もずっと茜のそばにいたい!!離れたくもないし……いつまでも。~!俺はやっぱり茜が好きだ!!大好きだ~~~!!!」


 高校の入学式のあと、彼は私を優しく抱き締めてそう言ってくれた。


「私も文人が好きだ~!!大好きだ~!!いつまでも……~!ずっとくっついててやる~!!」


 私も嬉しくなって、つい柄にもないことを彼に伝えた。



 

 その三年後の卒業式の日の夜に……




 彼は


 


 

 私は彼が死ぬまで彼のことが大嫌いだった……。

 私を振り回し、いつもイライラさせるから……。

 そんな彼が――いやバカが――突然この世からいなくなった。

 私はそんなバカがいなくなったこの世は、もっとになった……。


 


「……陸……別れて欲しい」



 茜色に染まった空の下を、夕暮れを告げるかのように、カラスが鳴き、遊んでいた子供達も家へと帰ろうとしていたが、そんな周りの様子を気にも留めることなく私は彼に言った。

 そう彼に想いを伝えると、春の冷たい風が私達の体を貫いていくのと同時に、私の心もまるで冬に戻るかのように急速に冷えきっていった。


 つらい、つらい、つらい。本当に辛すぎる。私は何を言ってるんだろう。今までどんな時も私を支えてくれた……。そんな大切な彼に対して……。


 私、高山茜たかやまあかね付き合っている彼――相馬陸そうまりく――を、想い出のいっぱい詰まったこの公園に呼び出した。

 夕暮れに照らされたベンチの上。私は胸が締め付けられるほどの思いだったが、必死にこらえて、私のすぐ隣で頭を抱えてうつむいている彼の姿を見つめていた。

 

 この公園は卒業した高校近くにあることから、現在付き合っている彼や、私を置いてこの世からいなくなったバカとの想い出もいっぱい詰まった場所だった。


 ――なぜ別れ話をする場所に、自分が辛くなるこの場所を選んだかと言うと、そんな想い出のいっぱい詰まった場所だからこそ……私はここでけじめをつけたかった。――いやつけなくてはいけなかったから。


 

「……茜。茜の頼みでもこればっかりは言うこと聞けないな……」


 陸……。やっぱり陸はそう言ってくれるよね……。私も心のどこかでそう言って欲しいと思っていたと思う。でもね。このままじゃいけないんだよ……。



 彼は優しすぎる。自慢ではないが彼の私への想いは強く感じていた。そんな彼の気持ちを分かっていながら、彼の優しさに甘えている自分がとても嫌いだった。

 

「自分勝手なことを言ってるのは分かってる……でも今は陸と一緒に居たいと思えない……」 


 私はわがままな女だ。

 これまで私が振り回されイライラした分を彼にぶつけ、彼はそんなダメな私を受け入れていつもそばで支えてくれた。――だから私は今まで成り立っていた。でも……。

 

 私は……。 



 今の私は…… 



 



 

「気持ちは分かる。今はあんなことがあったから、気が動転して茜は冷静な判断が出来ないんだよ!俺はいつまでも待つ!だから――」


 あれから考えたんだよ……。冷静になって。ずっとずっと考えた。それでは出たんだよ……。



 彼は私を見つめて訴えかけるように言ってくれた。

 私はそんな彼が大好きだ。

 

 でも……。

 

 今の彼への想いは違った。

 これは恋愛感情じゃない。

 ……私が……今……本当に好きなのは……。




「――お願い分かって!!陸と一緒にいたら思い出しちゃうんだよ……を!!!」



 ……ごめん陸。私……こんな言い方するつもりじゃなかった……。

 ……本当にごめん。……ごめん。


 私はこらえきれなくなり、溜めていた涙を流してしまっていた。

 

 私と彼との想い出はほとんどが幼馴染みの3人、または4人で一緒に居た想い出だった。

 ――つまり大好きな彼といるともう会えない……。


 ――バカのことも一緒に思い出してしまう。


 私にはそれがとてつもなく辛く、耐えられなかった。


「分かった。しばらくは会うのよそう」



 私の涙ぐんだ顔を見ながら彼は寂しげにこう言った。私は彼に何もしてあげられていない。何も返せていない。本当に駄目な彼女だ――駄目な彼女だった。


「……本当にごめん。今まであり……が……とう……」



 あー。これで陸と会うのも最後だ。このままみんなバラバラになっちゃうのかな……。に戻りたいよ……私たちの心が一つだったに。


 

 私は溢れ出た涙を拭い、彼に向けて軽く手を振った。


 ただ『軽く手を振る』というだけの動作だったはずなのに、今までで一番大変な動作をしたような気がした。

 

 それと同時に私は、これまで幾度も側で見てきていた、彼の姿をまともに見ることが出来なくなっていた。

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