第三話(06) 助けて!助手


 * * *



 ――部屋を出たチャールズ府川は、廊下の暗がりで、額の冷や汗を拭った。


 あれはいったい何だ? ただのファンだと思ったが、明らかにおかしい。男の子の方は、ちらっと見えたが目が赤かった……普通の人間の目ではなかった。そして女の子の方だ、あの蛇は……あの蛇は間違いなく生きていた!


 それでなんだって? メドゥーサだと言った?

 悪戯か? いや悪戯にしても……。


 あれをどうしたらいい? スタッフに追い出してもらうか? いやしかし本物の「人間以外の何か」なら――映画や漫画の中かここは――とても危険かもしれない。なら警察か?


 府川のスマートフォンは、ダイヤル画面を開いていた。警察は大袈裟かと、迷う。けれども――しかし――。


 そもそも、あの二人は自分の「本物の魔法使い」だと勘違いしているみたいだが、とんでもない。あってたまるか。全て手品だ……大半は、助手の青林あおばやしが仕組みを作っていて、正直自分でもわからない仕組みが多いが。


「――府川さ~ん、そんなとこで、何してんですか?」


 聞きなれた女の声がして、ぱっと府川は顔を上げた。


 青林だ! 何でもできてしまう優秀な助手……手品の仕掛けも考えてくれるし、ステージ上で助手もやってくれる。


「青林くん! なんだか奇妙な二人組が私に会いに来てね……?」


 これまでを話すものの、まるで作り話のようだと、府川は自身で思ってしまった。だが青林は「ふむふむ」「ほむほむ」と相槌を打って、聞き続けてくれた。


「はぁ~メドゥーサを名乗る女の子に、奇妙な目の男の子ですかぁ……」

「そ、そうなんだ、どうしたらいいと思う?」


 顎に手を当てていた青林は。


「う~ん、なんか奇妙な気配がしてたけど、なるほど~……あっ、男の子の方、牙ありました?」

「……青林くん?」

「た~ぶん……男の子の方は吸血鬼だと思うんですよね~、ばっちゃが大昔教えてくれました、ばっちゃの、そのまたばっちゃの……ええと、どのくらいだかわからないけど、まあ吸血鬼のお友達がいて、そういう感じだったって、聞いたことあるので」


 府川には、青林が何を言っているのか、わからなかった。

 ただ、青林の手が目の前に伸びてきて。


「まっ、府川さんにはちょっと忘れてもらって~……いやぁ、厄介なんですよ、普通の人に魔法使いとか、怪物とか、そういうのが実在してるってばれると……」


 眩しい光を、府川は見た。一瞬ふらつくものの、倒れることはなかった。


「……じゃ、行きましょうか、追っ払いに」


 青林が言えば、府川はもといた部屋へと歩き出す。その後に、青林は続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る