第4話:先輩のすべてを描く

「本当はね、君が入部したときからヌードを描いてもらいたいなって思ったの」

モデルを続けながらも先輩は僕に衝撃の事実を語る。


「そうなんですか?!」

「私は先輩に描いてもらったんだけど、やっぱり女の子と男の子では裸を描く意味が全然違うと思うのよ」

確かにそのとおりだ。まして思春期の異性に、真面目に描かせるという体験はそうそうできるものではない。

「それに、君なら絶対に私のことを好きになってくれるって思ったしね」

「へえ……って先輩、何言ってるんですか?」

「ふふ、気づいていないとでも思ったのかしら。私も好きよ。そうじゃなければ裸なんて見せられないもの」


そう口にした先輩の顔に、少しだけ恥じらいの色が見えた気がした。

「君に絵を教えたのも、好きになってもらえるようにしたのも、全部この時のためなんだから」

「先輩……」

僕は今すぐ、絵なんか放り出して先輩に抱きつきたくなった。

「駄目よ、今は絵に集中しなさい」

しかし、そんな僕の行動を見通すかのように釘を差された。先輩には逆らえない。


「できました!」

先輩はデッサンを手に取ると、真剣に見定めた。

「うーん、悪くないんだけど、質感が見えてこないわね」

「質感、ですか?」

「そう。これじゃまるで石膏像をデッサンしたのと変わらないじゃない」

「なるほど。確かに言われてみるとそうだと思います」


同じ構図を描いた大先輩の絵と比べて、何か物足りない部分があるとすればそこだというのは僕にも薄々わかっていた。

「君、女性の体を触ったことがないでしょう?」

「えっと……はい」

僕は正直に答えるしかなかった。

「ほら、私の体を触ってごらんなさい?」

そう言って彼女は僕の手を取って引き寄せた。

「……いいんですか?」

「もちろん。芸術のためよ」

彼女はためらう僕の手を取ると胸に押し当ててきた。

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