宿命の反逆者 The Alternative

Siranui

第一話「愛故の怪物」

 ーーーこれは、黒神大蛇くろがみおろち白神亜玲澄しらかみあれすが緊急任務で、『海の惑星リヴァイス』に向かった後の地球の物語。



 そんな地球では、ある不可解な現象が起きていた。



 それは、暗黒神によるものか、否かーーー






 2005年 2月14日、地球の運命は根底から狂い出すーーー














 神竜の英雄叙事詩 The Alternative


 〜怪物事変バレンタイン









 東京都渋谷区 ネフティス本部ーーー



 普段から賑やかな渋谷の街がより一層賑やかになる。


 朝早くから多くの女性やカップルが街を出歩き、ハートの形をしたものやたくさん入ったものなど、様々なチョコを買っては顔を赤くしながら持ち歩いている。







 バレンタインデー。今日、2月14日はそういう日だ。女性が男性に対してチョコを渡す日。今では友達同士でもあるみたいだが。




 賑やかな街の中にあるネフティスでも、バレンタインの雰囲気を醸し出していたーーー



 東京都渋谷区 ネフティス本部 総長室


 黒神大蛇くろがみおろち白神亜玲澄しらかみあれすが任務で水星に向かってから約1ヶ月。


 今のところ特に問題なく遂行出来ていると思うが、少し心配になる時がある。



「ふぅ……」


 ネフティス総長である桐谷正嗣きりたにまさつぐは、複雑な思いを抱えながら一息をつく。



「禁忌魔法の使い手であるあの二人なら、この任務を遂行出来ると思うが……」


 二人の青年の心配をしている中、ガチャッと勢いよく総長室のドアが開く音がした。



「総長〜、ハッピーバレンタインです〜っ!」

「はぁ……、凪沙か」


 パステルブルーの髪に同じ色の目、そして元気よく挨拶した女性……というより、少女の方が近い。



 彼女は涼宮凪沙すずみやなぎさ。ネフティスNo.3の実力者で、錦野蒼乃にしきのあおのの同期だ。蒼乃とは違って、槍を得意武器とする。


「ねぇねぇ、総長っ! 凪沙のチョコ欲しい?

 欲しいよね!?」


「私は今仕事中だ。今は必要ない」


「ホントは欲しいくせに〜っ」


「あぁ分かった分かった、とりあえずそこのテーブルの上に置いといてくれ。本当にあるならな」


「ふふっ、やっぱり欲しいんじゃんっ! 総長かわい〜っ」


「用が無いなら早く仕事に回ってくれ」


「は〜いっ」


 ニコニコ笑いながら凪沙は総長室から出た。凪沙が出てしばらくして、今度は深い溜息をつく。


「はぁ〜っ……」



 全く……、朝から本当に疲れる。凪沙と話すといつもこうだ。


 実力は確かだが、こうもなると本当に厄介だ。人を振り回す達人とでも言うべきか。



 全て忘れるべく頭を横に振りながら、正嗣総長はパソコンの画面を睨んだ。









 あれから約30分が経った。陽も徐々に上り、日照りが渋谷の街を照らしてきている。


「……さて」


 そんな中、正嗣総長は先程凪沙がチョコを置いたであろうテーブルへと向かう。


 白い箱を開けると、中には小分けにされていた手作りチョコが入っていた。


「これは……」


 右半分が普通のチョコで、もう半分はホワイトチョコになっている。見た目は普通に美味しそうだが……



「さて、頂くとしよう」


 テーブルに置いてあったフォークを手に取り、まずは普通のチョコから口に入れる。



「うむ。中々美味いな」


 まるで生チョコレートのようなとろける感じと、チョコ独特の甘さが舌を包む。これは本当に凪沙の手作りなのだろうか。



 次はホワイトチョコの方も食べようとフォークでチョコを刺す。








 そして口に入れようとした瞬間だった。





「きゃああああぁぁぁぁっ!!」



「……!!」


 どこからか悲鳴が聞こえ、その直後に地響きがした。一体何の騒ぎなのだろうか。


 徐々にに地響きは回数を増していく。その度に本部が大きく揺れる。


「何があったんだ……!」


 急いで窓を見ると、そこに映る渋谷の街は謎の化け物で埋め尽くされていた。



「非常事態だ……!」


 正嗣総長は、後ろの壁に立て掛けてあった二本の刀を手に取り、勢い良く総長室のドアを開ける。幸いまだここまで侵略はしていない。


 これ以上の侵略を止めるために正嗣総長は床を強く蹴る。



 総長室から真っ直ぐ走り、メインルーム室へ続く分かれ道へと着いた正嗣総長は、二本の刀を背中に交差させるように差し、左側の刀を抜く。


 ジャリィィンッと甲高い音を立てた瞬間、左側から茶色の化け物が正嗣総長に向かって襲いかかる。



「ふっ……!」


 正嗣総長は左手で持った刀を右手に持ち替え、怪物に対して一閃。怪物は茶色い血……を飛ばしながら床に倒れる。



 斬ったは良いものの、続々と怪物が迫ってくる。


「ちっ……!」


 強さは大した程では無いが数がとてつもない。悲鳴が聞こえてから3分も経たずにここまで怪物の波が押し寄せている。


「切がない……!」


 それに、この怪物を斬れば斬るほど刀が重く感じる。刀身を見てみると、べったり茶色い血で塗りつぶされている。


 これではもう一本の刀を抜いた所でただこちらが不利になるだけだ。



「これでは近接戦は無理か……」


 一旦後方に引き下がり、勢いよく刀を振ってまとわりついた茶色い血を払う。


 ベチャッという音に怪物達が反応し、その音の方へ一気に迫る。


「まとめて斬り払ってやる……『無閃弾サテライト』」


 正嗣総長は刀に気を集中させ、刀身が白い光を帯びたのを感じるとすぐに刀を横に振る。


 刀身から衝撃波のように放たれた光は徐々に無数の光に分裂し、その一つ一つが怪物に命中する。


「ガアアアアァァァァァッッッ!!!」


 先程まで通路を埋め尽くす程の怪物が、今の一撃で形すら残らなくなった。まるで洗浄したかのように。



「……部下達が心配だ」


 正嗣総長はメインルーム室へと向かうべく、分かれ道を左に曲がった。












 同時刻 ネフティス本部 メインルーム室ーーー



「きゃああああぁぁぁぁっ!!」


「……!!!」


 職員の一人の女性が悲鳴を上げながらメインルーム室に入ってくる。その後を追うように人形の茶色い化け物がメインルーム室に入ってきた。



「皆さん、離れてくださいっ!」


 とっさに蒼乃が腰のホルスターからハンドガンを取り出し、茶色い怪物に向かって発砲する。


 ……が、怪物には傷一つさえつけられなかった。



「き、効かないっ……!?」


 こんなの今まで見たことが無い。アンデッドやスライムと言った魔物系でさえも、このハンドガンでも十分なダメージを与えられるのに……



 銃が効かないなら、私には倒す術が無い。とりあえずメンバーと職員を安全な所へ集める。



「ウゥォォォオオオェェエエアアアアアアッッ!!!」



「……!!」


 しまった。さっきの発砲で怪物の注意をこちらに向けさせてしまった。


「皆さん、今すぐ私から離れてください! 奴の狙いは私です!!」


 怪物は容赦なく蒼乃に対して右腕で殴ろうとする。蒼乃は命中するギリギリで怪物の攻撃を左に避ける。



 空振りした怪物のパンチは、メインルーム室のモニターの真下の床に命中し、直撃の瞬間と同時に周囲に茶色い液体が付着する。



「皆さん、早くそっちの非常口へ逃げてください!」



 ネフティス副総長でもある蒼乃がメンバーに指示をする。怪物の隙を見てすぐに、ほとんどのメンバーが非常口の通路へと逃げ出す。



「ウォォオオアアアッッ!!」


「仕方ありません……こうなったら、脅しとして使うまでです!」


 怪物の狙いは蒼乃のままだ。このまま注意を引きつけるべく、怪物に三発撃つ。


 しかし、弾丸は怪物の茶色い液体に溶かされる。


「ガァァアアッ!!」


 再び蒼乃に迫り、今度の左フックを蒼乃の左頬に命中する。


「うっ……!!」


 あまりのパワーで壁に背中を強打する。幸い歯は折れなかったが、鼻の骨が折れているのが痛みを通じて分かる。


「クハハッ……!」


 怪物は膝をつく蒼乃に嘲笑うかのような声を出す。


 首の関節を鳴らすような仕草をしながら、右腕を大きく振りかざす。



 絶体絶命の中、蒼乃は非常口を見る。どうやらほぼ全員が逃げれたようだ。


 ……良かった。これで使


「私と戦った事……後悔させてあげますっ!」


 蒼乃は左腰に差したもう一つのホルスターからハンドガンを取り出す。刹那、そのハンドガンは徐々に冷気を纏い、所々が凍てつく。


 神器『絶氷銃ジオフロスト』。あらゆるものを凍てつく絶対零度の弾丸を放つ氷銃。



「怪物さんは……黙って私に撃たれてくださいっ!」


 先程殴られた痛みなど気にもせずに、蒼乃は地面を強く蹴ると同時に氷の銃口を怪物に向ける。



「これで終わりです……!!」



静かな怒りと共に、蒼乃は氷銃のトリガーを引く。














パァンッッ!!














「………!!!!」




絶対零度の弾丸が怪物に命中し、瞬時に全身を凍てつく。


この銃から放たれた氷の弾丸は、外部から衝撃や熱をどれだけ加えても溶けたり砕け散ることは決してない。



「永久に眠れ……です」



永久に凍りつくであろう怪物に別れを告げ、蒼乃は非常口の通路へと走り出した。

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