魂のふるさと

十代の後半から、二十代の、いつころまでだったか。毎日梶井基次郎を読んでいた。厚くもない文庫本一冊。それを毎日、毎日。
その初期のころだが、梶井基次郎以外を読むことができなくなった時期がある。生理的に読みつけられないのだ。そのおりに、坂口安吾を勧められた。
勧めたわけが、判るような気がされる。梶井基次郎と真逆にあるようなものだから。はたして真逆であるかどうか、ふれない。
ともかくそこから坂口安吾も読むようになった。
坂口安吾のものは、実は非常に美しい。美しいものが、潜められてある。
本作は、坂口安吾の小説の代表作とされて、坂口安吾といえば、堕落論とならび挙げられる作品だ。
たしかに、それだけの作品であり。何年かぶりに読みかえし、その清澄さに胸ふるえた。
坂口安吾には、他にもすぐれた、さぁすぐれたというのか、胸をつかまれる短編があまたある。
創作するのであれば、いや、ひとであるのなら、読むべきものではなかろうか。