激務から逃げる為に転生した元魔王がダンジョン配信者になった結果、めちゃくちゃバズった

あおぞら

第1章 元魔王は人気配信者になる

第1話 元魔王、ダンジョン配信者になる

 とあるダンジョンの中。


「あ、あー。聞こえているだろうか?」


《聞こえているぞ!》

《安心しな。ちゃんと聞こえてる》

《声かっこいい》

《意外とイケメン》


「うむ、ありがとう。産んでくれた我が両親に感謝しなければな」


《素直すぎ》

《謙遜しないんだなww》

《でも謙遜されるのって地味に腹立つから俺はこれでいいと思う》

《それな》

《ほんとそれ》


 我――田中優真が浮遊の魔術で浮かした配信中のタブレットに向けて話しかけると、我の配信を見てくれているリスナーのコメントが画面に表示される。

 現在の同接人数は25人。

 有名な企業に所属していない個人勢の初配信にしては大分多い数字だろう。

 今流行りのダンジョン配信者と言うネームバリューが功を喫したのかもしれない。


「取り敢えず我の自己紹介からしよう。――我の名はウルガ。現在は17歳の高校2年生だが、元異世界の魔王である」


 我は事実をそのまま話す。

 我の前世は本当に異世界で魔王をやっていたし、名前も前世の実名だ。

 その証拠に前世の詳細な記憶もあるし、前世で使っていた魔術もほぼ全て使うことが出来る。

 しかし前世で転生の禁術を使ったため、転生はもう二度と出来ないが。

 

 因みに転生した理由は魔王の仕事が激務過ぎて鬱になりそうになったからだ。

 魔王はただ魔族一強ければ良いわけではなく、政治の手腕やカリスマ性もないと務めることができない。

 だが非常に残念なことに、我はその全てを持っていた。

 しかし我の元々の気質と合わず、ストレスしか溜まらなかった。

 そのため逃げるために転生の禁術を使ったというわけだ。


 我が前世のことを思い出して少しゲンナリしていると、コメントの表示が少し早くなる。


《…………は?》

《は?》

《絶対無いだろww》

《流石にその設定は無理があるってww》

《嘘はいけないぞー》

《Vtuberじゃ無いんだからww》

《あまり嘘言ってたら垢バンされるぞ》


 ふむ、案の定我の予想通りリスナーの殆ど全てが設定や嘘だと思っているようだ。

 まぁそんなファンタジーな事が起こると誰も思わないからだろう。

 この世界にはダンジョンとか言うよく分からないファンタジーな物があると言うのに。


「一応言っておくが、我の言っていることは全て事実だが、どうせ誰も信じれないだろうから、後で見せてやろう。そして我の戦闘スタイルは、魔術と剣術の複合だ。場合によって使い分ける」


《これも絶対に嘘乙ww》

《なら言った通り力を見せてみろよな》

《拡散してやろうww》

《いいな! まぁ嘘だったら確実に炎上するだろうがww》

《と言うか魔術って何だ?》

《スキルじゃないよな?》


「その通り。魔術はスキルとは全く別の力だ。この世界のスキルが固定された概念が元としたら、魔術は柔軟で自由な概念が元と言えるだろう」


《何だそれ? 意味が分からん》

《はよ見せろ》

《拡散完了! さぁもう逃げられないぞ!》

《俺も拡散したぜ!!》


「ふむ、拡散してくれたのか。感謝するぞ。お陰で同接人数が100人に増えた」


 初配信でまさか此処まで人が来てくれるとは……ラッキーだな。

 と言うか100人からもっと増えていっている。

 あの拡散してくれたリスナーには感謝しなければ。

 

《鋼メンタルすぎwwww》

《荒らしに感謝とか前代未聞だろww》

《一応これ初配信だからなww》

《すっかり忘れてたわww 魔王のインパクトが強すぎてww》

《はよ戦ってくれ!!》


「そうだな。そろそろ我の実力を見せてやろう。ただ……驚きすぎて腰抜かすなよ?」


《期待せずに見ておくよww》

《まぁどうせハッタリだろうけどなww》

《逆に本当だったら違う意味でヤバくね?》

《ウルガさんは何級の探索者なのですか!?》


「我のランクはF級だ。ついでに言えば今日が初めてのダンジョン探索であるな。だから今日潜るのはF級のダンジョンだ」


《wwww まさかの最下級ww》

《F級ダンジョンてww たった5階層しか無い初心者ダンジョンじゃんww》

《それなのに魔王って言ってたのかよww》

《これは炎上確定だな》

《もしかして炎上商法でも狙ってんのか?》

《今日が初めて!? 気を付けて下さい》


 どうやらコメントでは俺を笑っている者が殆どで、心配してくれている人が少数しかいない。

 まぁ我を心配するなど1000年早いが。


「それでは探索を始めようと思う」


《遂に来た!》

《これでさっきまでの言葉が嘘か分かるな》

《まぁ嘘だと思うけどww》

《痛い目見る前に帰れよ〜》

《明日は謝罪配信やな》


 相変わらず好き勝手な者共だな……まぁ我の力を見せれば直ぐに黙るだろう。

 それに配信者とはそう言う者だと予め情報収集はしていた。

 兎に角此方に後ろめたいことなどないので気にせず続けていこうと思う。


「まずはこのダンジョンの構造やモンスターの数を把握していくぞ。――《精密探知》《転写》」


 我は取り敢えず《探知魔術》の中でも上位に入る魔術を発動。

 すると我の立っている場所を中心として半径5メートル位の見慣れた魔術陣が出現する。

 この魔術でこのダンジョンの全てを丸裸にした後、我が1ヶ月前に作った《転写魔術》で紙に1階層ずつ転写していく。

 

《は!?》

《え!?》

《な!?》

《ふわっ!?》

《突然よく分からん魔法陣出てきたぞ!?》

《それに何もしてないのに紙に何か書かれてく!?》

《こんなスキル見たこと無い!》


「まぁ精密探知の類のスキルはあるだろうが、《転写魔術》は無いだろうな。そもそも魔術陣などスキルだと出ないだろうしな」


《これが魔術か……》

《いやまだ分からんだろ》

《元々書き記していたとかな》

《一応探索者協会も地図出してるしな》


 ふむ、まだ半信半疑と言ったところか。

 まぁこの程度ならスキルでも再現できるかもしれないからな。

 だが―――


「リスナーの皆よ、少し質問してもいいだろうか?」


《?》

《何だ?》

《いきなりどうした?》

《何か問題発生か?》


「問題、かは分からないのだが、F級ダンジョンは大体何階層まであるのだ?」


《3階層》

《5》

《5だな》

《基本的に3〜5階層》

《4》

《多くても6階層》


「ふむ……ならこれはどういうことだろうか?」


 我は20枚目に突入した紙をタブレットで映しながら聞く。

 1階層で1枚なので、このダンジョンは既に10階層は確実にあるということが分かる。

 それどころか、未だ止まる気配がない。

 

《ファ!?》

《どゆこと!?》

《24階層目だと……!?》

《もはやF級規模じゃなくて草》

《いや笑えないんだが……》

《これって『ランク改変』じゃね?》


「ランク改変……確か元のランクが突然変動する現象だったか?」


 そう言えば『簡単探索者指南書!』にそう言った現象があると書いてあった気がする。

 階層が増えて、より強力なモンスターが出現するらしい。

 どうやら我が思っている以上に異常事態らしく、コメント欄も先程とは違って早く逃げろ的な事が沢山書かれるようになった。

 

「む、同接500人突破感謝するぞ」


《いやおめでとうだけどおかしいだろ!?》

《今はそんな事どうでもいいだろ!》

《はよ逃げろ!!》

《初心者じゃ対処できないだろ》

《マジで死ぬぞ!?》

《逃げて!!》

《逃げて!!》

《逃げて!!》

《逃げて!!》


 とうとうコメント欄は逃げての文字で埋め尽くされてしまった。

 だが、そんなに切羽詰まった状況なのだろうか?

 つい先程転写が終わり、紙は全部で45枚となった。

 

「45枚と言うことは……45階層か」


《B級ダンジョン》

《いやB級ダンジョン並じゃん!》

《マジで逃げたほうが良い》

《協会は何してるんだ!?》

《今TV付けたら速報やってるぞ!》


 コメント欄での情報通り、確かめてみると速報で我の居るダンジョンでランク改変が起きたと報道している。

 

「ほう、結構大事になっているのだな。それならとっととダンジョンをクリアするか」


《は?》

《は?》

《は?》

《は?》

《いや巫山戯てる場合じゃないぞ!?》

《自殺志願者か!?》


「失敬な。我は元魔王であるぞ。たかがB級ダンジョンにでるモンスターに遅れなどとらぬわ」


 今の我ならS級ダンジョンであろうと時間さえあれば攻略できる。

 それなのに何故B級ダンジョンにビビる必要があるのか。


《今は魔王なんて設定良いから逃げろって!!》

《いやモンスターが来たんだが!?》

《それも大群じゃないか!?》

《C級ダンジョンにいるオークジェネラルまで居るじゃん》

《やばいやばいやばいやばい》


 モンスターの出現で更に荒れるコメント欄。

 だが、いい加減こやつらの誤解を解かねば。


「皆の者、その目に焼き付けるがいい!! これが魔王である我が魔術――【地獄の業火】である!!」


 その瞬間に我の前に直径3メートル程の魔術陣が出現し、その魔術陣からモンスターの大群を余裕で飲み込めるほどの青紫の炎が飛び出し、モンスターを一瞬にして灰に変えた。

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