相棒

「坊主、元気にしてたかいのう」


「おかげさまでボチボチってとこで。うちのカイシャは貧乏暇なしだから」


 港で出迎えてくれたのは大鳥のじい様だった。

 オレが子供の頃に世話になった人だ。


 じい様は、もういいトシだというのに肌を真っ黒に焼いていた。

 米軍放出品のミリタリージャケットを羽織っており、目元にかがやく色付きのサングラスは、じい様の黒々とした体色に良く似合っている。

 都会なら日サロ通いでもしないと維持できないスモーキーブラウンの肌も、この島で生活していれば無料タダで手に入るようだ。


「会うのは何時ぶりだったかなぁ。

 大学出て就職してから、里帰りもろくにしなかったじゃないかぁ。

 こういう機会なんだぁ、ゆっくりしとき」


「そういうわけにもいかねえだろ。

 オレは遊びに来たんじゃなくて、一応は仕事で来たわけだから」


「そうそう、仕事だったなぁ。

 坊主が来てくれて助かったよぉ。

 余所者よそものにこの島をあちこちほじくり回されると、その、困るからなぁ」


 オレが本土で就職したカイシャ――カイシャとはを意味する符丁である――の仕事とは、要するに事件の捜査だ。

 つまりオレは防人さきもり島に里帰りに来たのではなく、殺人事件を捜査する警察官としてやって来たのである。


 相棒を連れてきたのも、そういうわけだ。

 警察官の行動は二人組ツーマンセルが基本だからね。


「紹介が遅れたな。こいつはオレの相棒だ」


 オレが水を向けると、ハナコはペコリと頭を下げた。


「へぇ、警察犬ってやつかぁ。可愛いねぇ。めんこいねぇ」


 ちょっとばかし調子は狂うが、この島では仕方のないことだ。

 

 すると、ハナコがオレの背中の方に隠れるようにした。

 じい様がじゅるりと口元からヨダレを垂らしたのを見て、思わず注意する。


「おいおい、じい様。こいつはちゃんとんだぞ」


「あぁ。あぁ……。わかってるよぉ。うん、掟だもんねぇ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る